第116話 照れ臭さと本心
「…………」
そうして綾香の方へ振り向いた一輝は少しの間黙って綾香の水着姿を見ていたのだが。
「……えっと、一輝くん?」
全く反応しない一輝を見て、綾香は軽く首を傾げながらそんな事を聞くと。
「えっ、あっ、はい、何ですか!?」
一輝が慌ててそう答えたので。
「えっと、その……私の水着姿はどうですか?」
綾香は恥ずかしそうな表情を浮かべつつも、上目遣いで一輝の方を見上げて来たので。
「あっ、えっと、その……綾香さん!!」
「はい、何ですか?」
「えっと、その……」
そう言って、一輝は何と答えるべきか悩んでいたのだが。
「えっと、その……綾香さん、すみません!!」
一輝は大声でそう叫ぶと彼女に背を向けて、駆け足で奥のプールの方へと走って行ったので。
「えっ? あっ、一輝くん、待って下さい!!」
綾香はそう言うと、慌てて離れていく一輝の姿を追って行った。そして、そんな二人の背中が離れて行くのを見送りながら。
「全く、こんな時にヘタレるなんて佐藤先輩は本当に情けないですね」
心愛が呆れた様子でそう言ったのだが。
「……まあ、そう言ってやるな、あんな凄いモノを見せられたらあんな反応をするのも無理は無いと思うからな」
こうなった原因も少なからず自分にあると思っているのか、颯太もそう言って一輝の事をフォローしたのだが。
「もう、あんまり綾香先輩の事ばかり褒めないで下さい」
その言葉を聞いた心愛は不貞腐れた様子でそんな事を言ったので。
「ああ、それもそうだな、それにあの二人は今更俺たちが余計な事をしなくても大丈夫だろうし、二人のデートの邪魔をしないよう俺たちも泳ごうぜ」
颯太が素直にそう答えると。
「ええ、そうしましょう、颯太先輩」
心愛もそう答え、二人は一輝たちが向かったのとは別のプールに向けて歩き始めた。
一方その頃、逃げ出した一輝を追っていた綾香はというと。
「一輝くん、待って下さい!!」
一輝の背に追いついた綾香はそう言うと、駆け足で逃げていた一輝の背中に思いっきり抱き着いて。
これ以上逃げられない様に綾香は一輝の腰回りを自分の両腕で力一杯抱き締めた。しかし、
「えっ、あっ、その、綾香さん!?」
そんな事をされると、一輝の背中には男性にはない二つの大きな膨らみがこれでもかという程押し付けられていて。
ただでさせ頭に血がのぼっている中、こんな事をされては一輝は冷静でいられる筈もなく。
ついには何も考えられなくなり、過度な緊張と興奮からか体中が石の様に固まってしまい、指一本動かせなくなってしまった。
そして、一輝がその場で一歩も動かず、ただただ黙って固まっていると。
「……あの、一輝くん」
「えっ、あっ、はい!! 何でしょうか!?」
綾香にそう声を掛けられて一輝が慌ててそう返事をすると。
「その、もしかして私の水着姿はあまり好みではありませんでしたか?」
綾香は少しだけ寂しそうな口調でそんな事を聞いて来たので。
「えっ、いえ、そんな事はありません!!」
一輝が慌ててそう答えると。
「それならどうして、私の水着姿を見て一輝くんは逃げ出したのですか?」
綾香はそんな事を聞いて来たので、一輝は何と答えるべきか悩んだが。
今の状況でまともな思考など働く筈もなく、当然の様に上手い言い訳などは見つからなかったので、一輝はとんでもない羞恥心を感じながらも。
「それは、綾香さんの水着姿が魅力的すぎて、あのまま見続けていたら僕はどうにかなってしまいそうだったからです!!」
一輝は正直にそう答えた。すると、綾香は一瞬だけ間を置いてから。
「……そうですか、でも、そうならない為に一輝くんは私の水着写真を見て耐性を付けていたのでは無いですか?」
綾香はそんな事を聞いて来たので。
「それはそうですが、でも駄目でした、写真での綾香さんも十分すぎるくらいに魅力的でしたが、本物の綾香さんは写真よりも何倍も綺麗で、数秒間見るだけでも僕には限界だったんです」
一輝は正直に胸の内を吐露した。すると、その言葉を聞いた綾香は、
「……そうですか」
そう短く、しかし少しだけ嬉しそうにそう答えた。そして、
「……一輝くん、プールで泳ぐ前に少し私とお話をしませんか?」
一輝の腰にまわしていた手の力を少し緩めて、綾香がそんな提案をして来たので。
「えっ、あっ、はい、分かりました」
一輝がそう答えると。
「ふふ、ありがとうございます」
そう言って、綾香は一輝の腰にまわしていた手を完全に離すと、一輝の正面に歩いて来て。
「それでは一輝くん、あそこに座って私と少しお話をしましょう」
プール前の一か所を指さしながら綾香がそう言ったので。
「……ええ、分かりました」
綾香の水着姿からさりげなく目を逸らしながら、一輝は素直にそう言った。
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