第110話 奢りと約束

 そして、心愛のそんな言葉を聞いた一輝は、


「期限って、一体なんですか?」


 心愛に向けてそう質問をした。すると、


「……颯太先輩が私と仮の恋人で居てくれる期間です、その期限が終わったら颯太先輩は私の仮の彼氏を辞めて、私の本当の彼氏になるかどうか決めると約束しているんです」


 心愛はそう言って、現状を説明したので。


「そういえばそんな話をしていましたね、因みにその期限はいつまで何ですか?」


 一輝が続けてそう質問をすると。


「夏休みが終わる8月31日までです、その期限までに颯太先輩は結論を出して私に伝えると言っていますし、颯太先輩の事なのでそういう約束はきちんと守ると思います」


 心愛はそう説明をしたので。


「まあそうですね、颯太はそういう約束はちゃんと守ると僕もそう思います」


 一輝も心愛にそう言って同意すると。


「ええ、そうですよね、だからこそ私はもっと頑張らないといけないんです、このままだと私は多分颯太先輩に振られてしまうので」


 心愛は少しだけ口調を弱くしてそう言った。すると、


「えっ、心愛ちゃん斎藤くんに振られてしまうのですか? 正直、二人の様子を見ていたらこのまま本当の恋人同士になれると思っていたのですが、一輝くんもそう思いますよね?」


 綾香はそんな事を聞いて来たので。


「ええ、そうですね、少なくとも颯太は黒澤さんの事を嫌ってはいないと思いますし、何だかんだ言って颯太は黒澤さんの事を好意的に見ているとは思いますよ」


 一輝が正直にそう答えると。


「……確かに、佐藤先輩たちのいう事は間違っていないと思います、でも颯太先輩はやっぱり私の事を女の子として観てないといいますか、まだ可愛い後輩だと思われていると思うんです。だからこそ、ここら辺で何かインパクトのあるイベントを起こして、私を彼女にした方が良いと先輩に思ってもらう必要があるんです!!」


 心愛は力強くそう言った。そして、心愛はその場で頭を下げると。


「お願いします、お二人のデートの邪魔は決してしないので、どうか私と先輩もそのデートに連れて言って下さい!!」


 頭を下げたまま、心愛はそう言って二人にお願いをして来た。そして、


「えっと、どうしますか綾香さん?」


 その話を聞いた一輝は、綾香に向けてそう質問をした。すると、


「私は別に構いませんよ、心愛ちゃんとはかなり打ち解けて私はもうお友達だと思っているので、お友達の恋愛は応援したいですから、ただ、一輝くんがどうしても嫌だと言うのなら、無理にとは言いませんが」


 綾香はそんな事を言ったので、一輝も少しだけ考えてから。


「いえ、僕も良いですよ、黒澤さんにはこの事に関しては可能な限り協力すると約束しましたし、個人的にこの二人の恋愛も上手く行って欲しいと思っていますから」


 一輝は正直に自分の思いを口にした。すると、綾香は笑顔を浮かべて。


「ふふ、一輝くんならそう言ってくれると思っていました、それなら今日家に帰ったら、私のお父さんに四人でプールに行けるように頼んでおきますね」


 綾香は二人に向けてそう言った。すると、その言葉を聞いた心愛は勢いよく顔を上げると。


「ありがとうございます、綾香先輩!!」


 嬉しそうな笑顔を浮かべてそう言ったのだが。


「気にしないで下さい、私と心愛ちゃんは友達なんですから、これからも困ったことがあれば遠慮なく私を頼って下さい」


 綾香は何でもない様にそう言った。すると、


「ありがとうございます、綾香先輩、それなら遠慮なく今後も頼りにさせてもらいます」


 心愛は笑顔を浮かべたままそう言った。しかし、


「ただ、それなら尚の事、今回の食事代は私に奢らせて下さい、勝手ならが私は性格上、相手に借りを作ったままという事はどうしても許せないんです、なので、せめてものお返しとしてそれくらいの事はさせて下さい」


 その後直ぐに真剣な表情になると、心愛は再度二人に向けてそう言った。そして、その言葉を聞いた綾香は再び一輝の方を観て、


「えっと、一輝くんどうしますか? 心愛ちゃんがここまで言っているので私としてはもう奢って貰っても良いかなと、そう思っているのですが」


 綾香はそんな事を言ったので、一輝は綾香の心愛の目を交互に見つめてから。


「……そうですね、僕としてはあまり後輩に奢ってもらう様な事はしたくは無いのですが、それだと黒澤さんは納得できないと思うので、今回は黒澤さんのお言葉に甘えませんか?」


 綾香に向けてそう言ったので。


「そうですね、それなら心愛ちゃん、申し訳ありませんが、今回はご馳走になりますね」


 綾香は心愛に向けてそう言った。すると、心愛は笑顔を浮かべて。


「ええ、分かりました、それならお二人とも遠慮せずに昼ご飯を注文して下さい、お金の心配はしなくても大丈夫ですから」


 二人に向けてそう言った。


 その後、三人は心愛の驕りで昼ご飯を食べて、各々家に帰ったのだった。

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