第109話 後輩からのお願い

 そして、そんな風に顔を真っ赤にして照れている彼女の姿を観た一輝は、


「あっ、すみません綾香さん、少し言い過ぎてしまいました、でも、今みたいに照れている綾香さんも凄く可愛いですよ」


 綾香に向けてそんな事を言った。すると、


「……もう一輝くん、私をからかって楽しいですか?」


 綾香は一輝から顔を逸らしたまま、そんな事を聞いて来たので。


「……ええ、そうですね、いつも僕は綾香さんにからかわれてばかりなので、今は初めて強気に出られて結構楽しいです」


 一輝が正直にそう答えると。


「……そうですか、確かに私はいつも一輝くんをからかっていますから、こんな風に反撃されるのも仕方が無いのかもしれません、でも」


 そこまで言うと、綾香は一輝の方へ振り返り。


「こんな事を言うという事は、今度は私に反撃されても文句は言わないですよね? 次のプールデートの日には覚悟しておいて下さいね」


 まだ顔を赤くしたままの綾香が振り返り、一輝を見つめながらそう言ったので、その言葉を聞いた一輝はかなり狼狽えながらも。


「……えっと、あんまり刺激が強いモノは勘弁して下さい、僕の理性が持たないので」


 一輝は綾香から目線を逸らしながらそう呟くと。


「そうならない為に一輝くんには私の水着写真をあげたんです、だから一輝くん、私に襲い掛かったりしないように私の水着姿にはしっかり慣れておいて下さいね、一輝くんに襲い掛かられたら、私は多分抵抗できないので」


 綾香はそう言うと、一輝の頬に手を当てて上目遣いで見つめて来たので。


「……綾香さん」


 そんな綾香の瞳を一輝が見つめ返すと。


「……先輩方、仲が良いのは大変結構ですが、一応店内なのでそういうのは二人きりの時にお願いします」


 心愛が呆れた口調でそう言ったので。


「えっ、あっ、そうですよね、すみません黒澤さん」


「えっと……ごめんね、心愛ちゃん」


 二人きりの空間から現実に引き戻され二人は少しだけ気まずそうな口調でそう言った。すると、


「いえ、大丈夫です、お二人を呼んだ時点で一度はこんな姿を見せられるなとは覚悟して来ましたから」


 心愛はため息を付きながらそう言った。そして、


「ただ、一つ気になった事があって、先程綾香先輩はプールデートと言っていましたが、お二人は今度プールデートに行くのですか?」


 心愛はそんな事を聞いて来たので。


「あっ、そうなんです、実は……」


 そう言って、綾香は説明を始めた。ずっと前に綾香は一輝とプールデートに行くと約束していたので、夏休み期間中に行くことにした事。


 ただ、一輝が綾香の水着姿を他の人に見せたくないと言ったので、綾香が自分の父親に頼んで、二人きりでプールデートをする予定だという事も。


 そして、その話を綾香から聞き終えた心愛は、


「……成程、二人きりでプールデートですか、そんな事を実現させてしまえる綾香先輩のお父さまは凄いと思いますが、でも、これはチャンスかもしれません」


「チャンスですか?」


 心愛がそんな事を言ったので、綾香がそう質問をすると。


「ええ、そうです、綾香先輩お願いです、先輩方のデートの邪魔はしないので、私と颯太先輩もそのプールデートに連れて言って下さい!!」


 心愛は力強くそう言った。そして、その言葉を聞いた綾香は、


「えっ、えっと……それは多分大丈夫だと思いますが、一体何故ですか?」


 当然の様に綾香はそんな疑問を心愛にぶつけた。すると、


「それは勿論、私が颯太先輩との仲を深めたいからです!!」


 心愛は力強くそう言ったので。


「まあ、黒澤さんの場合だとそういう理由になりますよね、でも、そんな必死になって言うなんて、もしかして黒澤さんは颯太とは上手く行ってないのですか?」


 一輝がそう質問をすると。


「いえ、そういう訳ではありません、少しずつですが、私と颯太先輩との仲は深まっていると思います。でも、それじゃあ駄目なんです、もう直ぐ約束の期限が来てしまうので」


 心愛はそんな事を言った。

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