第108話 後輩からの奢り

 一輝のスマホに綾香の水着写真が送られて来てから数日後の昼になる少し前の時間。


 今日は平日でいつもなら学生たちは学校へ行って、腹を空かせながら授業を受けている時間帯なのだが。


 今は丁度夏休み期間に入ったばかりで、平日も割と自由に行動できる中、一輝と綾香はある人物に呼び出され、いつも利用している学校の近くにあるファミレスに訪れていた。そして、


「さあさあ先輩方、今日は好きなモノを注文して下さい、今回は特別に私が全額奢りますから!!」


 今日、一輝と綾香の二人を呼び出した張本人である黒澤心愛はそう言って、二人に満面の笑みを浮かべた。しかし、


「……怪しい」


 その笑顔を見て、一輝はぼそりとそう呟いた。すると、


「えっ、怪しいって何がですか?」


 小声で言ったつもりだが、心愛は耳が良いのか一輝に向けてそう質問をして来たので、一輝は少しだけ驚いて、何て答えようか少しだけ考えてから。


「だって、そうじゃないですか、いつもは相談をするにしても、僕たちに何かを奢る事もなくお礼を言って終わりなのに、今日は昼ご飯を全額奢るなんて、何か裏があるのではと疑う方が自然ですよ……黒澤さんは正直とても腹黒い人なので」


 一輝は正直にそう答えた。すると、


「もう、一輝くん、そんな風に言うなんて心愛ちゃんに対して失礼ですよ」


 その言葉を聞いて、一輝の隣に座っていた綾香がそんな事を言った。しかし、


「いえ、気にしないで下さい、綾香先輩、私が腹黒な女の子なのは紛れもない事実ですし、今回私がお二人に昼ご飯を奢るのもちゃんとした理由がありますから」


 そんな風に言われても、心愛は一切気にした様子もなくそう答えたので。


「やっぱりそうじゃないですか」


 一輝は少し呆れた様子でそう答えた。ただ、先程の心愛の話で一輝は一つだけ気になる事が出来た。それは、


「というか、二人はいつの間にお互いの事を名前で呼び合う様な仲になったのですか、前に会った時にはまだお互いの事を苗字で呼んでいましたよね?」


 一輝が正直に疑問に思った事を口にした。すると、


「それは割と最近の事です、連絡先を交換してから心愛ちゃんが休日には偶に私の事をお買い物などに誘ってくれるので、そうしている内に心愛ちゃんとは少しずつ仲良くなってたので、お互いの事を名前で呼ぼうと決めたんです」


 綾香はそんな事を言ったのだが、その言葉を聞いた一輝は、


「えっと、綾香さん、大丈夫ですか? 黒澤さんに何か悪い事を吹き込まれていませんか?」


 綾香の事を本気で心配する様にそう言った。すると、


「……仕方がないとはいえ、佐藤先輩の私に対する評価はもう少しどうにかなりませんか?」


 その言葉を聞いた心愛は少しだけ不満そうな口調でそう言ったのだが。


「残念ですがそれは無理です、黒澤さんは根っこからの悪人ではないと僕は思っていますが、それでも黒澤さんがとても腹黒い性格をしているのは事実ですし、綾香さんは僕にとっては誰よりも大切な彼女なんですから、心配するのは当然の事ですよ!!」


 一輝は力強くそう言った。すると、


「……もう一輝くん、急に何を言っているんですか」


 その言葉を聞いて、綾香は嬉しいのかそれとも恥ずかしいのか、頬を少し赤く染めて恥ずかしそうに俯いた。すると、


「そんなに心配しなくても、私は別に綾香先輩に変な事をする事も頼むつもりも無いので安心して下さい、私は単純に綾香先輩と仲良くしたいとそう思っているだけですよ、まあ、他に理由があるとすれば、私は綾香先輩の事をよく観察したいという理由もありますが」


 心愛はそんな事を言ったので。


「観察ですか?」


 一輝がそう質問をすると。


「ええ、そうです、綾香先輩は美人で可愛くて性格もスタイルも良いと、欠点の無い完璧な女性じゃないですか」


 心愛は突然そんなことを言ったので。


「えっ!? 突然何を言っているんですか、心愛ちゃん、私が完璧な女性だなんてそんな訳無いですよね、一輝くん?」


 その言葉を聞いた綾香は少し慌てながら、一輝に向けてそう言ったのだが。


「いえ、そんな事はありません、それに加えて綾香さんは料理上手で頭もよくてその上、こんな風に照れている姿もとても可愛くて……少なくとも僕にとってはこれ以上の人は何処にも居ないくらいの素敵で完璧な女性です!!」


 一輝はそう言って、彼女の魅力を力説した。そして、そんな一輝の言葉を聞いた綾香は、


「……一輝くんのいじわる」


 少しいじけた様子でそう言うと、綾香は顔を真っ赤に染めながら、一輝の反対側に顔を逸らした。

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