第86話 綾香の提案
その後、一輝は綾香と一緒に自分の部屋に入った。すると、
「それでは一輝くん、私と一緒に勉強を始めましょう」
綾香はそう言って、部屋の中央に置かれている机の前に座ったので。
「分かりました」
一輝はそう答えると、綾香とは反対側の彼女の正面に彼女に向かい合う様に座ったのだが。
「もう、違いますよ、一輝くん」
綾香は不安そうにそう言うと、その場から立ち上がって一輝の直ぐ隣へと歩み寄って来て、そのまま一輝の隣に改めて座った。しかし、
「……あの、綾香さん」
「何ですか?」
「その、少し距離が近すぎませんか?」
一輝はそう言った。実際、今一輝の隣に座っている綾香と一輝の距離はかなり近く、少し動けば肩がぶつかりそうな程の距離に居たので、一輝が少し緊張しながらそう言うと。
「そんな事はないと思いますが、私たちは恋人同士なので、これくらいの距離感でも何の問題もないと思います、ですが」
そこまで言うと、綾香は一度言葉を切って、一輝の方を上目遣いで見つめてから。
「私が隣に居たら一輝くんは勉強に集中できませんか? もしそうなのなら、少し悲しいですが、私は少しだけ一輝くんと距離を取って勉強をします」
綾香はそんな事を言ったので。
「……いえ、そんな事はありません、綾香さんさえよかったらここで勉強をして下さい」
一輝がそう答えると。
「分かりました!! ありがとうございます!!」
綾香は嬉しそうにそう答えたので。
「いえ、気にしないで下さい、綾香さん……えっと、それではそろそろ勉強を始めましょうか」
一輝がそう言うと。
「ええ、そうですね、それで一輝くん、最初はどの教科から勉強をしますか?」
綾香はそう聞いて来たので。
「えっと、僕が決めてもいいのですか?」
一輝が綾香に対してそう質問をすると。
「ええ、勿論です、今日の目標は一輝くんに試験勉強を頑張ってもらって、次のテストでいい点数をとってもらうことですから。なので、一輝くんが勉強をしたい教科から勉強をしましょう」
綾香はそう言ったので。
「そうですか、分かりました、それなら最初は数学から勉強をしましょう、僕の一番得意な教科なので、最初にやって勢いをつけておきたいんです」
一輝がそう答えると。
「分かりました、それなら最初は数学から勉強をしましょう」
綾香もそう答え、二人はそのまま数学の勉強を始めた。しかし、直ぐ隣に綾香が居て、一輝はいつもの様に勉強に集中できるのか少しだけ不安だったのだが。
「……」
勉強を始めたら綾香は一輝には目を向けず、自分の教科書とノートに目を向けて勉強に集中し始めたので。
(綾香さん、勉強に集中しているな……僕も頑張らないといけないな、今回はいい点を取って綾香さんの両親に自信を持って会わないといけないんだからな)
一輝も心の中でそう思って、綾香から目線を離して自分も数学の勉強を始めた。
「「……」」
その後、二人は黙って暫くの時間、数学の勉強を真面目にしていたのだが。
「……うーん」
綾香は手を止めて、少し悩ましそうな声を上げたので。
「綾香さん、どうかしましたか?」
一輝が綾香に向けてそう質問をすると。
「実は少し難しい数式の問題があって、どうやって解いたらいいのかと、少し悩んでいたのです」
綾香はそんな事を言ったので。
「えっと、少し見せてもらってもいいですか?」
一輝がそう言うと。
「えっ、ええ、この問題なのですが」
綾香は少し驚きつつも、素直に自分が迷っている問題を指さしたので。
「ああ、この問題ですか、えっと、これはですね……」
そう言うと、一輝は丁寧にその数式の解き方を綾香に向けて説明をした。そして、一輝の説明を聞き終えた綾香は、
「成程、こうやって解けばいいのですね」
綾香は納得した様子でそう言った。そして、
「一輝くん、ありがとうございます、それにしてもこの問題を簡単に解けるなんて、一輝くんは実は成績がいいのですか?」
綾香はそんな事を聞いて来たので。
「綾香さん程ではありません、精々平均よりも少し上くらいです。でも、昔から数学は好きで数学の点数だけは特別よかったです」
一輝がそう答えると。
「そうなんですね、因みに一輝くんの前回の数学は何点だったのですか?」
綾香はそんな事を聞いて来たので。
「前回の数学の点数ですか……えっと、確か98点ですね、一応全問解けていたつもりだったのですが、一問だけ小さなミスをしてしまったんです」
一輝が正直にそう答えると。
「えっ、98点ですか? それは凄いですね、私はあまり数学は得意では無くて、前回は84点だったので、100点に近い点数を取れるなんて一輝くんは凄いです!!」
綾香は一輝の手を握って一輝の目を見ながらそう言ったので、一輝は少し照れ臭くなって綾香から視線を逸らしながら。
「いえ、そんなことは無いです、実際、僕の点数がいいのは数学だけですし、それを言うのなら、いつも学年10位以内の成績を取れている綾香さんの方が凄いです。総合10位以内という事は、どの教科も全ていい点数を取れているという事ですから、1つの教科でしかいい点数を取れない僕なんかより全教科でいい成績を収めている綾香さんの方が凄いです」
一輝はそう言ったのだが。
「そんな事はないです、確かに私はどの教科もそれなりの点数を取ることが出来ますが、一輝くんみたいにこの教科が得意と呼べるようなモノはありません。だから、数学が得意だと自信を持って言える一輝くんが私は羨ましいです」
綾香はそう言ったので。
「その、ありがとうございます、綾香さん、でも、やっぱり僕なんかより綾香さんの方が凄いと思います。多分数学以外の点数は全て綾香さんの方が高いので、やっぱり僕なんかより綾香さんの方が凄いと思います」
一輝はそう答えると。
「そんな事はないと思いますが……」
綾香は少し不満そうな口調でそう言ったが、その後、直ぐに何かを思いついたのか。
「あっ、そうです!!」
綾香はそう言うと、少し笑みを浮かべながら一輝の方を少し上目遣いで見上げると。
「一輝くん、次の試験では私と勝負をしませんか?」
唐突に綾香はそんな事を言った。
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