第85話 二人で試験勉強

 綾香と色々なことがあった日曜日が終わり次の日の月曜日、昼休憩になって一輝はいつもの様に颯太と一緒に昼ご飯を食べていると。


「なあ、一輝」


 昼ご飯を食べながら、颯太がそう言ったので。


「何だ、颯太?」


 一輝がそう質問すると。


「来週から試験勉強期間に入るだろ?」


 颯太がそう言ったので。


「ああ、そうだな、それがどうかしたのか?」


 一輝がそう質問をすると。


「実は今週の土曜日に黒澤……心愛が自分の家で俺と心愛の二人で勉強会をしようって提案をして来たんだ」


 颯太はそんなことを言ったので。


「そうか、それはよかったな」


 一輝がそう言うと。


「……まあ、そうだな」


 颯太は歯切れが悪くそう言ったので。


「折角彼女と二人で勉強会をすることになったんだから、もっと喜んだらどうだ?」


 一輝がそう言うと。


「まあ、そうだな……なあ、一輝」


 颯太がそう言ったので。


「何だ、颯太」


 一輝がそう聞き返すと。


「もしお前に用事が無かったら、今度の土曜日の俺たちの勉強会にお前も参加してくれないか?」


 颯太はそんな事を言ったので。


「……えっと、何でだ? 折角彼女に誘われたんだから、彼女の言う通り二人で勉強会をすればいいじゃないか」


 一輝がそう言うと。


「まあ、そうなんだけど、まだ付き合い始めたばかりなのに、いきなり彼女の家に俺が一人で行くのはかなりハードルが高いと思うんだ。だから、お前さえよかったら俺たちの勉強会へ付き合ってくれないか……あっ、勿論、都合がよかったら立花さんと一緒でもいいぞ」


 颯太はそう言ったので。


「そうか……まあ確かに、いきなり彼女の家に一人で行くのはハードルが高いのは僕もよく分かるよ、でも、悪いな、颯太、今度の土曜日は僕も綾香さんと一緒に勉強会をする事になっているんだ。だから悪いけど、颯太も黒澤さんと二人で勉強会をしてくれないか?」


 一輝がそう言うと。


「そうか、分かったよ、折角お前と立花さんが上手く行っているのに俺が邪魔をするわけにはいかないからな、それなら今度の土曜日は、俺は心愛と一緒に勉強会をするけど、お前も頑張れよ」


 その言葉を聞いた颯太は素直にそう言ったので。


「ああ、分かったよ……その、颯太も色々と頑張れよ」


 一輝もそう答えた。ただ、一輝としては、綾香を誘って黒澤家で四人で勉強会をしてもいいとは思っていたのだが。


 今回の勉強会は黒澤心愛が颯太と本当の恋人同士になるための作戦であり、そこに自分たちが割って入ってしまったら、彼女の邪魔になってしまうと思ったため。


 颯太に申し訳ないと思いつつも、一輝は颯太の誘いを断ったのだった。






 その後は特に何もなく、一輝は一日を終えて家を帰り、夜はいつも通り綾香と電話をして雑談をして過ごしていて。


 そんな感じで平日は何事もなく過ぎていって、綾香との勉強会を約束していた土曜日になった。そして……






「ピンポーン」


 土曜日の昼過ぎ、家のチャイムが鳴ったので、一輝は急いで自分の部屋から出て玄関へ向かって行き、鍵を開けてドアを開いた。すると、


「こんにちは」


 玄関には約束していた通り、恐らく教科書などが入っている大き目の鞄を持った綾香が立っていたので。


「ええ、こんにちは、綾香さん、早速ですが家の中へどうぞ」


 一輝がそう言うと。


「ええ、失礼します」


 綾香はそう返事をして家の中へと入った。すると、


「あら、立花さん、いらっしゃい、また遊びに来てくれたの?」


 チャイムの音を聞いた一輝の母親が玄関へとやって来て、綾香の姿を観てそう言ったので。


「いえ、お母さん、今日は違います、今は試験期間で遊んでいるわけにはいかないので、今日は一輝くんと一緒に試験勉強をする予定です」


 綾香は正直にそう答えた。すると、


「あら、そうなの、それなら私は今から少し買い物に行って来るわね、何かおやつを買って来て、三時くらいになったら持って行くから楽しみにしていてね」


 一輝の母はそんな事を言ったので。


「そんなに気を使って頂かなくても私は大丈夫ですよ」


 綾香は遠慮がちにそう言ったのだが。


「気にしなくてもいいわよ、一輝だって可愛い彼女が一緒に試験勉強をしてくれるってなったら、多分いつも以上に勉強に身が入ると思うから、これはそのお礼みたいなモノよ、だから遠慮しないで」


 一輝の母は綾香に気を遣わせないようにそんな事を言ったので。


「そうですか、分かりました、それなら私はおやつを楽しみにしていますね」


 綾香は一輝の母親の顔を観て笑顔を向けてそう言った。すると、


「ええ、任せて!! 飛び切り美味しそうなおやつを買って来てあげるから!!」


 一輝の母はそう言うと、買い物へ行く準備をするために早足で家の奥へと消えていった。すると、


「すみません、一輝くん、私のせいで一輝くんのお母さんに気を遣わせてしまって」


 綾香は少し申し訳なさそうにそう言ったので。


「いえ、気にしないで下さい、それに僕の家族は皆綾香さんのことが大好きなので、綾香さんも余計な気を遣わなくていいですよ、寧ろこの家が第二の実家くらいに思ってリラックスして過ごして下さい」


 一輝がそう言った。すると、


「幾ら一輝くんのご実家だとしても、そこまでリラックスすることは出来ませんよ、でも」


 そう言って、綾香は自分の頭を一輝の肩に軽く乗っけると。


「いずれはそう思えるように頑張ってみますね、もしかしたら本当にこの家が私の第二の実家になる可能性もありますから」


 そんな事を一輝に向けて言ったので。


「えっ、それって……」


 一輝が少し驚いてそう言うと、綾香は直ぐに自分の頭を一輝の肩から離して、一輝の前を歩きながら。


「それより、早く一輝くんの部屋に行きましょう、今日は真面目に勉強をするために私はここに来たんですから」


 綾香は話題を変えるようにそう言ったので。


「……ええ、そうですね」


 一輝はそう返事をして、綾香の後へと続いた。


 ただ、そんな事を急に言って来る綾香は、相変わらずとても可愛いので、急にこんな事を言われると、一輝としては勉強などはせず、綾香とイチャイチャしたい衝動に駆られるのだが。


 今回は真面目に試験勉強をすると決めている以上そういう訳にもいかず、一輝は自分の頬を力強く叩いて煩悩を振り払ってから、綾香の後に続いて自分の部屋へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る