第83話 彼女の母親との対面

 そして、その声を聞いて二人が驚いて振り向くと。


「お帰りなさい、綾香ちゃん」


 そこには綾香より少し背が高くて、綾香と同じ黒髪ロングヘアの美人な女性が居て。


 綾香が成長すればきっとこんな風に育つんだろうなと思えるような、少しおっとりとした雰囲気の女性が居た。


 そして、その女性を観た一輝は最初、綾香のお姉さんかと思ったのだが、よく考えてみると綾香は自分は一人っ子だと言っていたことを思い出した。すると、


「えっと……ただいま、お母さん」


 綾香は少しだけ気まずそうな様子でそんなことを言った。すると、


「ええ、お帰りない、それで綾香ちゃん、そちらの男の子は誰かしら? 綾香ちゃんのただの友達というわけではないわよね? 家の前であんな大胆なことをしていたのだから」


 綾香の母親は一輝の顔を観てそう言ったので、恐らく先程二人がキスをしていた所をばっちりと観られたのだろう。


 そして、キスの現場を観られた以上、一輝は誤魔化しても無駄だと思い、その場で小さく一呼吸をして腹を括ってから。


「はい、僕は佐藤一輝と言って、綾香さんと同じ高校に通っている同学年の生徒で、今年の4月から綾香さんの彼氏としてお付き合いさせてもらっています!!」


 一輝が力強くそう言うと。


「綾香ちゃんの彼氏? そう、貴方が……」


 綾香の母親はそう呟くと、一輝の顔をまじまじと見つめて来た。そして、その視線に一輝は少し戸惑っていると。


「えっと、一輝くん、そろそろ家に帰った方がいいと思いますよ、外はもう真っ暗なので」


 困り果てている一輝に助け舟を出すように綾香はそう言ったので。


「あっ、はい、そうですね、あのお母さま、色々聞きたいことはあるのかもしれませんが、今日はもう遅いので僕は家に帰ります」


 綾香の言葉に甘えて、一輝はそう言うと。


「あっ、そうですね、分かりました、えっと、佐藤くんだったわよね、引き止めてしまってごめんなさい」


 綾香の母は少しだけ申し訳なさそうな表情でそう言った。なので、


「いえ、気にしないで下さい、大事な一人娘の彼氏なんですから気にならない方がおかしいです……それでは、僕はこれで失礼します」


 一輝はそう言って、数メートル先に置いてある、自分の自転車の元へ向かおうとすると。


「佐藤くん、最後に一言だけいいかしら?」


 綾香の母親にそう話しかけられたので。


「はい、何ですか?」


 一輝がそう言って、二人の方を振り返ると。


「別に直ぐじゃなくていいから、今度は私が家に居る時にも家に遊びに来て下さいね、綾香ちゃんとの事に付いて色々と聞かせてもらいたいですから」


 綾香の母親は笑顔を浮かべて一輝に対してそう言った。なので、


「……ええ、分かりました、それと綾香さん、お休みなさい」


 一輝はそう返事をしてから、綾香に対してそう言うと。


「ええ、お休みなさい、一輝くん」


 綾香もそう言って、その言葉を聞いてから、一輝は自転車に乗って帰路に付いた。そして、


(綾香さんのご両親に挨拶をするのは自信が無くてずっと逃げていたんですが……綾香さんのお母さんにバレてしまった以上、もう腹を括るしかなさそうですね)


 夜道の中、自転車を漕ぎながら一輝は心の中でそう思ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る