第82話 彼女の家の前で
そして、それから少し時間が経つと。
「一輝くん、もういいですよ、それでは一階へ降りましょう」
一輝の頭から自分の手を放して綾香がそう言ったので。
「ええ、分かりました」
一輝もそう言って立ち上がり、綾香に続いて部屋を出た。
そして、一輝は階段を降りながら、
「えっと、綾香さん、どうして僕の頭を撫でたのですか?」
一輝が前を歩いている綾香にそう質問をすると。
「鏡を観ていないので一輝くんは気付いていないのでしょうが、一輝くん頭に寝癖が出来ていましたよ」
綾香は階段を降りながらそう言ったので。
「えっ、そうでしたか?」
一輝がそう言って、自分の頭を触ると。
「ええ、そうなんです、だから私が一輝くんの頭を撫でて寝癖を直してあげました。ただ、寝癖が付いている一輝くんも可愛かったので、私としてはそのままでもよかったのですが、それだと一輝くんのご両親に観られて一輝くんが困ってしまいそうなので、私が直しておきました」
綾香は階段を降りながらそう言ったので。
「そうですか、ありがとうございます」
一輝は綾香に向けてそうお礼を言ったのだが。
(僕も綾香さんの寝癖とかを見つけたら、それくらいことはサラっと出来るようにならないとな)
階段を降りながら一輝は心の内でそう思った。そして、一輝と綾香が一階へ降りると。
「ガチャ」
そんな風に玄関の鍵が開く音がした。そして、
「ただいま!!」
そんな声と共に一輝の母が家の中へ入って来て、それに続いて一輝の父も家へと入った。そして、
「あら、随分と可愛らしい靴があるけど、もしかして立花さんが来ているの?」
玄関に置かれていた綾香の靴を観て、一輝の母がそう言ったので、その声を聞いた綾香は玄関へと早足で向かった。そして、
「お久しぶりです、お父さん、お母さん」」
綾香は一輝の両親に対して頭を下げてそう挨拶をした。すると、
「あら、立花さん、お久しぶりね。でも、もしかして私たちは一輝と立花さんの二人きりの時間を邪魔してしまったかしら? そうだとしたらごめんなさい」
一輝の母は綾香に向けてそう言って謝ったのだが。
「いえ、そんなことは無いです、折角一輝くんの家に来たので、私は一輝くんのご両親にご挨拶をしたいと思っていましたし、それに私は今から家に帰るつもりだったので、こうして少しでもお二人とお話が出来てよかったです」
綾香は一輝の母をフォローする様にそう言った。すると、
「立花さんは今から家に帰るのかい? それなら外は大分暗くなっているし、私が車で家まで送ってあげようか? そうすれば車の中でもう少しだけ、一輝と話していられるよ」
一輝の父が綾香に向けてそう提案をして来たのだが。
「あっ、いえ、大丈夫です、あまり一輝くんのご家族にご迷惑をおかけするわけにはいきませんし、それに私は自転車でここに来ていて、明日も自転車で高校へ通学するので、自転車をここに置いておくわけにはいきませんから」
綾香はそう答えた。すると、
「そうなの、それなら仕方が無いわね……よし」
一輝の母はそう言うと、綾香の背後に居た自分の息子を観て。
「一輝、立花さんのことはあんたが責任を持って、自転車で家まで送って来なさい!! こんな可愛い女の子を暗い夜道に一人で帰らせるわけにはいかないからね」
当然といった様子で一輝の母はそう言った。すると、
「あっ、いえ、それだと一輝くんに申し訳ないです、一輝くんの家から私の家までは結構距離があって、行き来するだけで一時間近く掛かってしまいますから」
綾香は申し訳なさそうにそう言ったので。
「いえ、大丈夫です!!」
一輝は力強くそう言った。すると、綾香は一輝の方を振り返り。
「えっと、一輝くん、本当にいいのですか? 私としては一輝くんに送ってもらえるのはとても嬉しいのですが、一輝くんが私の家から帰る頃には、多分日が暮れて外は真っ暗になっていますよ」
綾香は少しだけ心配そうな表情を浮かべてそう言ったので。
「ええ、大丈夫です、僕は夜道を自転車で帰るのはそれなりに慣れていますし、母さんの言う通り、こんな時間に綾香さんを一人で返すのは僕としても心配なので、綾香さんさえよかったら僕も付いて行かせて下さい!!」
一輝が改めてそう言うと。
「一輝くん……分かりました、それなら申し訳ありませんが私のお家まで送って下さいね」
綾香は納得したようにそう言ったので。
「ええ、任せて下さい……それじゃあ僕は綾香さんを家まで送って来ますね」
一輝はそう返事をすると、自分の両親に向けてそう言った。すると、
「ああ、ちゃんと送り届けて来いよ」
一輝の父がそう言ってから。
「余計なお世話かもしれないけど、もう割と遅い時間だから二人とも事故をしないように気を付けるのよ」
一輝の母も続いてそう言ったので。
「ええ、分かっています、それじゃあ綾香さん、行きましょうか」
一輝がそう答えると。
「分かりました、えっと、お父さん、お母さん、お邪魔しました」
綾香は一輝の両親に向けてそう言うと。
「いえいえ、こちらこそ、いつも一輝の相手をしてくれてありがとうね、立花さん」
一輝の父がそう言うと。
「また遠慮せず遊びに来てね」
一輝の母もそう答え、綾香は一輝の家を出て一輝も綾香を送り届けるために彼女に続いて家を出た。
その後、二人は自転車に乗って夜道を数十分走って、綾香の家の前へ辿り着いた。そして、
「一輝くん、私のお家までお見送りをしてくれてありがとうございました」
家の前で綾香がそう言ったので。
「いえ、気にしないで下さい、綾香さんにはいつもお世話になっているので、これくらいたいしたことではないです」
一輝がそう答えると。
「お世話になっているって、私は別にたいしたことはしていませんよ」
綾香はそう言ったので。
「そんなことは無いですよ、実際に今日だって僕のために昼ご飯を作ってくれたし、綾香さんには本当に感謝しています!!」
一輝がそう言うと。
「それを言うのなら一輝くんだって、今日は二人で昼寝をしたいという私のわがままを聞いてくれて感謝していますよ」
綾香もそう言い返して来たので。
「別にそれはたいしたことでは無いですよ、でも、綾香さんにそう思ってもらえたのならよかったです、ありがとうございます」
一輝もそう言うと。
「いえ、こちらこそありがとうございました」
綾香もそう言って、二人はその場で暫く黙った。そして、
「えっと……何だかもう少しだけ綾香さんと話をしていたい気分です」
一輝がそう言うと。
「それは私も同じ気持ちです、でも、これ以上ゆっくりしていると一輝くんが家に付くのがどんどん遅くなってしまいます。だから一輝くん、最後にお別れのキスをして今日のデートは終わりにしませんか?」
綾香は少しだけ恥ずかしそうな表情を浮かべて、そう提案をして来たので。
「お別れのキスですか……」
一輝がそう言うと。
「ええ、一輝くんは嫌ですか?」
綾香は少し上目遣いでそんな事を聞いて来たので。
「いえ、そんなことはないです!!」
一輝は力強くそう言うと。
「そうですか、それでは一輝くん、お願いします」
綾香はそう言って、その場で目を閉じたので。
「……分かりました」
一輝はそう言うと、綾香の両肩に手を置いて。
「綾香さん、いきますね」
一輝がそう言うと。
「ええ、分かりました」
綾香はそう返事をしたので、一輝はゆっくりと自分の唇を綾香の唇の元へと近づけた。そして、
「……ん」
二人は数秒間黙ってキスをして、一輝はゆっくりと綾香から離れた。そして、
「ありがとうございます、一輝くん」
綾香が嬉しそうにそう言うと。
「いえ、こちらこそありがとうございます」
一輝もそうお礼を言った。すると、
「あら、二人とも随分と仲がいいのね」
突然、綾香の背後からそんな声が聞こえた。
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