第69話 黒澤心愛との雑談
そして、心愛のそんな話を聞いた一輝は、
「えっと、すみません、黒澤さん、仮の彼氏というのはどういうことですか?」
心愛の言葉の意味を理解できず、一輝がそう質問をすると。
「簡単に言うと、私たちは今お試し期間中の彼氏、彼女の関係だということです。颯太先輩にはこの期間中、私が颯太先輩の彼女に相応しいか観てもらって、もし私のことを彼女にしたいと思ったら、その時は私を本当の彼女にしてもらいますが、私が彼女として相応しくないと思ったら、いつでも私のことを振って貰って良いですよと、佐藤先輩と立花先輩を助ける変わりに、颯太先輩にはそんな約束をしてもらったんです」
心愛はそんな事を言った。そして、その発言を聞いた一輝は、
「えっと、どうしてそんな約束をしたのですか?」
当然の様に、一輝はそんな疑問を口にした。すると、
「仕方がないじゃないですか、颯太先輩は私の事を女としは観てくれていないので、無理矢理私を彼女にして下さいとお願いしても、本当の彼女にはなれませんから、だから、頑張って颯太先輩と仲良く過ごして、その結果、私を異性として観てもらうしか、私が颯太先輩の本当の彼女になる方法は無いんですよ」
心愛はそう言ったので。
「えっと、黒澤さんの言いたい事は分かりました、それで、僕に協力して欲しい事というのは、一体なんなのですか?」
一輝がそう疑問を口にすると。
「そうですね……具体的に何をして欲しいという事はまだ決めていませんが、簡単に言うと私と颯太先輩が仲良くなれそうな機会があればそれを手伝って欲しいんです」
心愛はそんな事を言った。そして、その言葉を聞いた一輝は少し考えてから。
「えっと、それは昨日みたいにダブルデートとかに付き合ったりすれば良いのですか?」
一輝がそう質問をすると。
「そうですね、多分そんな感じになると思います、私はこのままだと恐らく期限までに自分を上手くアピールできずに颯太先輩に振られてしまうと思うので、私は何とか颯太先輩に私のことを女の子として好きになってもらって、颯太先輩の本当の彼女になりたいんです!!」
心愛は一輝の目をしっかりと観ながらそう言った。そして、
「これが私が佐藤先輩に協力して欲しい事です、具体的な事はまだ何も決まっていませんが、この話を聞いた以上、出来れば佐藤先輩には私が颯太先輩の本当の彼女になれるよう協力して欲しいのですが、どうですか?」
心愛は一輝に対してそう質問をした。なので、
「えっと、その言い方だと断っても良いのですか?」
一輝がそう質問をすると。
「ええ、良いですよ、出来れば協力してもらいたいですが、先輩がどうしても気が乗らないのなら断ってもらっても大丈夫です、やる気のない人を誘っても戦力にはなりませんから」
心愛はそんな事を言った。そして、その言葉を聞いて一輝は少し考えてから。
「それに返事をする前に、僕から一つ質問をしてもいいですか?」
一輝がそう言うと。
「ええ、良いですよ、何ですか?」
心愛はそう答えたので。
「えっと、黒澤さんは颯太のどんな所が好きになったのですか?」
一輝はそう質問をした。すると、
「颯太先輩の好きな所ですか、そうですね……背が高いとか、顔が良いとか色々と理由はありますが……」
そこまで言うと、心愛は一瞬黙ってから。
「一番の理由は本当はとても優しい性格をしている所ですね。全然素直じゃなくて口は悪いですし、私にはもう少し優しくしてくれても良いのにといつも思っていますが、それでも、颯太先輩には私には無い優しさを持っていますし、多分その点に私は一番惹かれたんだと思います」
心愛は少し頬を染めながら、可愛らしい笑みを浮かべてそう言った。すると、
「そうですか……分かりました、それなら僕は黒澤さんの作戦に協力させてもらいます」
一輝はそう答えた。そして、その言葉を聞いた心愛は、
「えっ、良いのですか?」
少し意外そうな口調で心愛はそんなことを聞いて来たので。
「ええ、良いですよ、今の答えを聞いて黒澤さんは本当に颯太のことが好きなんだという事は何となく伝わってきましたし、それにあいつの彼女になるには黒澤さんくらい悪知恵が働いて腹黒い人じゃないと務まらない気がするので」
一輝はそう答えた。すると、一輝のそんな答えを聞いた心愛は、
「……分かりました、佐藤先輩の私に対する評価には少しだけ不安もありますが、そう言ってもらえるのなら是非、私の作戦に協力して下さいね」
心愛は笑顔を浮かべながら一輝に向けてそう言ったので。
「ええ、分かりました、ただ、僕からも一つ提案をしても良いですか?」
一輝がそう質問をすると。
「ええ、良いですよ、何ですか?」
心愛は上機嫌なままそんな事を言ったので。
「えっと、出来たらこの事を綾香さんにも話をして、この作戦は僕たち三人で実行した方が良いと思っているのですが、どうですか?」
一輝は心愛に向けてそう質問をした。すると、
「えっ、立花先輩にですか?」
心愛は少しだけ不安そうな表情を浮かべてそう言ったので。
「えっと、綾香さんに言うのは何か不満があるのですか?」
一輝がそう質問をすると。
「いえ、別に立花先輩に対して何か不満があるわけではありません、ただ、あまり多くの人にこの作戦のことを話すと、颯太先輩にバレてしまう可能性が高くなってしまうので」
心愛はそう答えたので。
「それに関しては大丈夫だと思いますよ、多分ですが、綾香さんはそういうのはあまり態度には出さないタイプだと思いますし、簡単に約束を破るような人ではないので、颯太にバラすこともしないと思います、それに」
「それに、何でしょう?」
心愛がそう質問をすると。
「どうせなら、大勢で考えた方がいい作戦が思いつく可能性が高いとは思いませんか? 言い方は悪いですが、僕も黒澤さんもそんなに恋愛経験が豊富なわけでは無いと思うので、大した作戦を思いつけるとは思いませんので」
一輝はそう答えた。そして、その言葉を聞いて心愛は少し考えてから。
「まあ、確かにそうですね、実際問題、私も今はデートを積み重ねるくらいしか案は浮かんでいませんから。でも、佐藤先輩はいいのですか?」
心愛はそんなことを聞いて来たので。
「良いって、何がですか?」
一輝がそう質問をすると。
「だって、佐藤先輩が私に協力してくれる理由は、何だかんだ言って、佐藤先輩が立花先輩との距離を詰めるのを私に手伝って欲しいからですよね? それなのに、立花先輩もこの作戦に巻き込んでしまったら、私たちの話し合いの場を設けづらくなってしまいませんか?」
心愛はそんな言葉を口にした。そして、その言葉を聞いた一輝は少しの間、固まってから。
「そういえば、そんな約束をしていましたね」
少し苦笑いを浮かべながら、一輝はそんな言葉を口にした。そして、
「大丈夫ですよ、黒澤さんの提案はありがたいですが、僕は黒澤さんの手を借りることはなく、今まで通り綾香さんとの付き合いを続けて行きたいとそう思っていますから」
一輝はそう答えた。すると、その言葉を聞いた心愛は少し考えてから。
「……そうですか、佐藤先輩がそれで良いのでしたら、私はそれでも構いませんが、でも、本当に私は手助けしなくてもいいのですか? 佐藤先輩は立花先輩とはそういった事はしたくないのですか?」
心愛は少し言葉を濁しつつもそんなことを聞いて来た。そして、その言葉を聞いた一輝は、
「僕も男なので、綾香さんとそういった事をしたいという気持ちは勿論ありますが、だからといって、無理矢理関係を進めたいとは僕は思っていません。例えそれで綾香さんとそういった事が出来たとしても、その後、お互いに気まずくなってしまう可能性もありますし、それに何より、僕は今の様に綾香さんと少しずつ仲良くなれている関係を楽しみたいと思っていますから」
一輝はそう言った。そして、その言葉を聞いた心愛は少し考えてから。
「分かりました、そういう事なら私は佐藤先輩の意見を尊重します、それと、立花先輩への説明は佐藤先輩にお願いしますね」
心愛はそう言ったので。
「分かりました、それじゃあ話も終わったのでそろそろ帰りますか?」
一輝がそう答えると。
「そうですね、もう話したい事も一通り終わったので……あっ、そうだ」
心愛はそう言うと、ポケットからスマホを取り出すと。
「一応、連絡先を交換しておきませんか? 私から連絡する事はそんなに無いと思いますが、もし佐藤先輩たちに私と颯太先輩のことで手伝ってもらいことが出来たら、その時はスマホで相談させてもらいたいので」
自分のスマホを差し出しながら心愛はそう言ったので。
「ええ、そうしましょう」
一輝はそう返事をして、二人は連絡先を交換してから会計を済ませる事にした。
そして、二人が席を立つと。
「でも、佐藤先輩は相当なお人好しですね、何のメリットも無いのに、私の作戦に付き合ってくれるなんて」
心愛はそんな事を言ったので。
「僕は別にそこまでお人好しでは無いですよ、この作戦を提案したのが黒澤さん以外だったら、僕は断っていたと思いますから」
一輝がそう答えると。
「そうですか、それならどうして私の作戦には乗ってくれたのですか?」
心愛はそう質問をして来たので。
「黒澤さんなら多分、颯太のいい彼女になってくれそうだと思ったからですよ、あいつの友人として僕は颯太にも幸せになって欲しいですから」
一輝はそう答えた。すると、
「そうですか、それなら私はこれから颯太先輩の素敵な彼女になれるように頑張りますね、それがこの作戦に協力してくれる佐藤先輩への、せめてものお返しになると思いますから」
心愛はそう答えて、今日の二人の話し合いは終わりを迎えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます