第10章 黒澤心愛の作戦

第68話 黒澤心愛の話

 動物園でのダブルデートを終えた次の日の月曜日の放課後、一輝が自分の自転車を手で押しながら校門へと向かうと。


 昨日約束していた通り、心愛が自転車から降りて校門で待っていた。そして、心愛は一輝の姿を見つけると。


「こんにちは、佐藤先輩」


 心愛がそう挨拶をして来たので。


「ええ、こんにちは、黒澤さん」


 一輝もそう挨拶を返した。すると、


「それじゃあ、佐藤先輩、早速ですが行きましょうか」


 心愛はそう言ったので。


「ええ、分かりました」


 一輝はそう言って、二人は昨日約束していた通り、ファミレスへと向かった。






 そして、二人は学校近くのファミレスにやって来ると、席に着いてから夕食前ということで、二人ともドリンクバーだけを頼んだ。そして、


「それで、黒澤さんの話をそろそろ聞かせてもらえますか?」


 一輝がそう言うと。


「私の話というのは、昨日少しお話をした颯太先輩とはまだ正式な恋人同士ではないという話ですか?」


 心愛がそう言ったので。


「ええ、そうです、早速ですが、教えて貰えますか?」


 一輝がそう言うと。


「分かりました、ただ、これは最終確認ですが本当に良いのですか? この話を聞いたら佐藤先輩には私の作戦に協力して貰いますよ」


 心愛はそんなことを聞いて来た。なので、


「ええ、良いですよ、黒澤さんにはそんな気持ちは無かったのだとしても、僕と立花さんの問題を解決するために黒澤さんは手を貸してくれましたから。だから、黒澤さんの為に僕に出来る事があるのなら、なるべく協力したいとは思っています」


 一輝はそう答えた。すると、


「成程、先輩の思いは分かりました、それなら少し長話になりますが、私は佐藤先輩のその言葉を信じてお話をしますね」


 心愛はそう言って、ゆっくりと話しを始めた。


「佐藤先輩が私の兄と勝負をしたその日から、私と颯太先輩が付き合い始めたという話を以前しましたよね?」


 心愛が確認する様にそう言ったので。


「ええ、確かにそう聞きましたよ」


 一輝はそう答えた。すると、


「実は、その話は少しだけ事実とは違うんです。確かに、私と颯太先輩はその日から付き合い始めましたが、私たちはまだ正式な彼氏、彼女の関係では無いんです」


 心愛はそんなことを言った。しかし、


「確か昨日も黒澤さんはそんなことを言っていましたね、でも、付き合っているのに正式な彼氏、彼女では無いとは一体どういうことですか? 僕にはそんな風になる理由がよく分からないのですが」


 一輝は当然の様にそんな疑問を口にした。すると、


「まあ確かに、急にそんなことを言われても意味が分かりませんよね。なので、今からその理由を説明します」


 心愛はそう言って、理由を話し始めた。


「私と颯太先輩は年齢は一つ違いですが、同じ小学校に通っていたのです。そして、私は小学生の頃、ある悩みを抱えていたのです」


 そこまで言うと、心愛は一度、言葉を切った。そして、


「そんな時、私は颯太先輩と出会って、その後は色々ありましたが、結果的には颯太先輩に当時の私の悩みを相談したことで、それは解決したんです、そして、単純だと思われるかもしれませんが、その結果、私は颯太先輩に恋をしたんです」


 心愛は嬉しそうな表情を浮かべながらそう言ったが、その後、少しだけ表情を曇らせると。


「ただ、小学生の頃の私は自分に自信が無くて、颯太先輩に告白する勇気は持てなかったんです。でも、中学生に上がってからは、多少おしゃれに気を遣う様になって、少しだけ自分に自信が持てたので、思い切って颯太先輩に私の事をどう思っているのか聞いてみたんです」


 心愛はそんな事を言ったので。


「そうなんですね、それで、颯太はその質問になんと答えたのですか?」


 一輝はそう質問をすると。


「佐藤先輩は颯太先輩との付き合いは長いのですよね?」


 唐突に心愛は一輝にそんなことを聞いて来たので。


「ええ、そうですね、颯太とは中学生の時に会ったので、かれこれ五年間くらいの付き合いです」


 一輝が正直にそう答えると。


「それだけ長い時間、颯太先輩の友人を続けていたら、佐藤先輩は颯太先輩の言いそうなセリフをなにか思いつくのでは無いですか?」


 心愛は唐突にそんなことを言った。しかし、


「そう言われましても、僕は黒澤さんと颯太が付き合う前にどんな感じだったのかは知らないので、さすがに分かりませんよ、でも、颯太のことだから多分、今の自分が黒澤さんに思っている事を素直に伝えたのでは無いですか? 颯太はそういう質問には多分真面目に答えると思うので」


 一輝は分からないと言いつつも、自分なりの答えを心愛に返した。すると、


「さすが、長年颯太先輩の友人を続けているだけの事はありますね、そうです、颯太先輩は正直に中学生の頃の私に抱いている思いを教えてくれたんです……私は面倒くさいけど可愛い妹みたいな存在だって」


 心愛は少し声を小さくしてそんな言葉を口にしたので。


「妹みたいな存在ですか……それなら残念ですが、もし仮に黒澤さんが颯太に告白をしたとしても、颯太なら断りそうですね」


 一輝が苦笑いを浮かべながらそう言うと。


「そうですね、だから、私は小学生の時に続いて中学生の時にも颯太先輩に告白するのを諦めました」


 心愛は再びそんなことを言ったので。


「でも、今は颯太と付き合えているという事は、高校に入学してから遂に颯太に告白をして、無事に颯太の彼女になれたということですよね?」


 一輝は声を少し明るくして、心愛に向けてそう言ったのだが。


「……そうだったら良かったんですけどね」


 心愛はテンションが低いままそう言ったので。


「えっ、違うのですか?」


 一輝が少し驚いた様子でそう言うと。


「ええ、そうです、佐藤先輩、少し前置きが長くなりましたが、今から私たちが本当の彼氏、彼女の関係ではない理由をお話しますね」


 心愛は一輝の目を観てそう言ったので。


「ええ、お願いします」


 一輝がそう言った。すると、


「分かりました、ただ、そんなに複雑な話ではありません、私が佐藤先輩と立花先輩を助ける提案を颯太先輩に持ち掛けた時に、私は一つ颯太先輩に提案をしたんです」


 心愛がそう言ったので。


「提案ですか?」


 一輝がそう質問をすると。


「ええ、そうです、私が佐藤先輩と立花先輩を助ける変わりに、私の作戦が上手く行ったら、颯太先輩には私の仮の恋人になって欲しいと、そう提案したんです」


 心愛は一輝に向けてそう言った。

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