第70話 綾香への相談

 黒澤心愛との話し合いを終えた後の月曜日の夜、一輝はいつもの様に自分の彼女である綾香にスマホで電話を掛けていた。そして、


「こんにちは、一輝くん」


 そう言って、綾香が電話に出たので。


「ええ、こんにちは、綾香さん」


 一輝はそう言葉を返した。そして、


「一輝くん、今日は何か変わったことはありましたか?」


 綾香はそんなことを聞いて来た。そして、一輝は学校では基本的に影が薄い存在でなるべく目立たないように過ごしているので。


 いつもなら、特に何も無かったですよと、そう返しているのだが。


「実は、今日は少し変わったことがあったんですよ」


 一輝がそう言うと。


「へー、そうなんですか、それで何があったのですか?」


 綾香は少し興味深そうにそう質問をして来たので。


「実は、今日の放課後に僕は黒澤さんと一緒にファミレスに行ったのですが……」


 一輝がそこまで言うと。


「……黒澤さんというのは、お兄さんの方ですか? それとも、妹さんの方ですか?」


 綾香は声を少し低くして、そんなことを聞いて来たので。


「えっ、それは、妹さんの方ですが……」


 一輝はその声に少し驚きつつも、そう答えると。


「一輝くん、私にそんな報告をして、一体どうしたいのですか?」


 綾香は更に声を低くしてそんなことを言ったので。


「……えっと、綾香さん、もしかして怒っていますか?」


 一輝が遠慮がちにそう質問をすると。


「そうですね、もし私が一輝くん以外の男性と放課後、二人きりで食事に行ったと言ったら、一輝くんはどう思いますか?」


 綾香はそんな事を聞いて来た。そして、その言葉を聞いた一輝は少し考えてから。


「それは何と言いますか、凄く嫌ですね」


 一輝は正直にそう答えた。すると、


「そんな風に思うのなら、どうしてそんな事をするのですか? もしかして、もう私と付き合うのは嫌で黒澤さんの方に気があるのですか?」


 綾香はそんなとんでもない言葉を口にしたので。


「あっ、いえ、違います!! 僕は今でもずっと綾香さんのことが好きですし、綾香さん以外の女性と付き合いたいだなんて、一切思ってないです!!」


 一輝は慌ててそう言った。すると、


「それなら、一輝くんがどうして黒澤さんと二人でファミレスに行ったのか、お話してもらえますよね?」


 綾香は少し怒った様な口調でそう言ったので。


「ええ、勿論です、実は……」


 そんな綾香の様子に一輝は少し押されつつも、何とか冷静に今日の話の内容を綾香に説明を始めた。そして、


「これが僕が今日、黒澤さんと話をした内容です、そして、無理にとは言いませんが綾香さんさえ良かったら、黒澤さんと颯太が上手く行くように出来る事があれば協力してもらいたいなと思っているのですが……えっと、綾香さん、これで僕に妙な気持ちが無いということは分かってもらえましたか?」


 全ての説明を終えた一輝は少し遠慮がちに綾香にそう質問をした。すると、


「……成程、そういう事でしたか、確かに一輝くんにそう言った気持ちが無いということは分かりました。それに、そもそも一輝くんは仲のいい友人の彼女を取ろうとするような人ではありませんよね、それなのに妙な疑いをかけてしまって、本当にすみません」


 一輝の説明を一通り聞き終えて冷静になったのか、綾香はそう言って、一輝に向けて謝った。なので、


「あっ、いえ、そんなに気にしないで下さい、僕だって綾香さんが男性と二人きりで会っていたと聞いたら冷静ではいられないでしょうし、彼女が居る立場なのに軽はずみな行動をして綾香さんを不安にしてしまいました。だから、今後は綾香さんに余計な心配をかけないよう気を付けるので、僕の方こそすみません、それと今回の事は出来れば許して下さい」


 一輝は電話越しなので綾香には見えないが、それでも頭を下げてそう言った。そして、その言葉を聞いて、綾香は数秒間黙ってから。


「分かりました、でも、出来たら今後はそういった事はなるべく控えて下さい、一輝くんの事は信じていますが、それでも私以外の女の人と二人きりで過ごしていると思うと、少しだけ不安になるので」


 綾香はそう言ったので。


「ええ、分かりました、今後は気を付けます」


 一輝はそう言った。そして、


「それで、綾香さんは僕の提案に付いてどう思いますか?」


 一輝がそう質問をすると。


「それは私が黒澤さんと斎藤くんが付き合える様に何かお手伝い出来ることがあれば、手伝って欲しいという事ですか?」


 綾香はそう言ったので。


「ええ、そうです、ただ、これは僕が勝手に言い出した事なので、もし綾香さんの気が乗らないのなら、断ってもらってもいいですよ」


 一輝はそう言った。そして、その言葉を聞いて、綾香は少し考えてから。


「いえ、大丈夫です、一輝くんと黒澤さんさえ良かったら、私もその作戦に協力させて欲しいです」


 綾香はそう言った。そして、その言葉を聞いた一輝は、


「えっと、本当にいいのですか? 僕の方から誘っておいて言うのはあれですが、もしかしたら、面倒くさいことを頼まれるかもしれませんよ?」


 少しだけ心配した口調で一輝は綾香に向けてそう言った。しかし、


「大丈夫です、それに、私がその作戦に乗りたい理由も幾つかありますから」


 綾香はそんなことを言ったので。


「えっと、その理由というのは一体なんですか?」


 一輝がそう質問をすると。


「そうですね、一番の理由は、黒澤さんに恩返しをしたいということです、理由は何であれ、黒澤さんと彼女のお兄さんのお陰で私たちは平和な日常を取り戻せたので、それに」


「それに、何ですか?」


 一輝がそう質問をすると。


「今は本当の恋人ではない二人が本当の恋人になって行く過程を近くで観られるなんて、凄く面白そうだとは思いませんか? そんな面白そうなモノを間近で観られるのなら、私は喜んで二人が上手く行くための手助けをしますよ!!」


 綾香は嬉しそうな声を上げてそう言った。そして、その言葉を聞いた一輝は、


「恋愛ごとでそんなにテンションを上げるなんて、やっぱり綾香さんも普通の女の子なんですね」


 綾香に向けてそんな感想を呟くと。


「むー、それは一体どういうことですか? 一輝くんは私が普通の女の子だとは思っていないのですか?」


 綾香は少し不満そうな口調でそんなことを聞いて来たので。


「あっ、いえ、そういうわけでは無いです、ただ、綾香さんが他人の恋愛ごとにそんなに興味を持つとは思っていなかったので少し意外だっただけです」


 一輝がそう答えると。


「そうでも無いですよ、女の子なら誰でも恋愛ごとには少なからず興味があると思います。それに、私は斎藤くんともそれに出来れば黒澤さんとも仲良くなって、二人の友人になれたらいいなと思っていたので、今回の件で少しだけでも二人との距離が縮まればいいなと、一輝くんの話を聞いて私はそう思いました」


 綾香はそんな事を言った。そして、その言葉を聞いた一輝は、


「成程、綾香さんの考え方は分かりました、そういう事なら申し訳ありませんが綾香さん、今回の颯太と黒澤さんが本当の恋人になるための作戦に協力して下さい」


 綾香に向けてそう言ったので。


「分かりました、力になれるかは分かりませんがよろしくお願いします」


 綾香は一輝に向けてそう言った。


 その後は、一輝は綾香と一緒に二人の仲を進展させるためにどんなことをしたらいいのかと、色々と相談をしたのだが。


 結局良い案は浮かばず、最終的にはデートを積み重ねるしかないという結論に至り、昨日みたいに、なるべく二人がデートをする回数を増やせるようなるべく協力しようということで話は纏まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る