第7章 勝負に向けて

第42話 宣戦布告と電話報告

 佐藤一輝が黒澤務からの宣戦布告を受けた日の夜、一輝はいつものように日課である綾香への電話をしていた。そして、


「というわけで、僕は元生徒会長である黒澤先輩から勝負を挑まれて、渋々ながら了承したんです」


 一輝はそう言って、今日の昼休みの出来事を綾香に説明した。すると、


「そうですか、それは大変でしたね」


 綾香はそう言った。しかし、


「何と言いますか、急にこんなことを言われても全く驚かないなんて、綾香さんは凄いですね」


 特に疑問に思うこともなく、一輝の言葉を素直に受け入れた綾香の反応を観て、一輝が少し苦笑いを浮かべながらそう言うと。


「いえ、多分この話を今初めて聞いたら、私はとても驚いたと思います、でも実は昼休憩に私のクラスにも黒澤先輩が訪れて、一輝くんとマラソンで勝負をして、もし黒澤先輩が勝ったら私に告白すると宣言していたので、多分一輝くんも似たようなことを言われていたのではないのかと、私はそう思っていましたから」


 綾香はそう言った。なので、


「成程そういうことですか、それなら綾香さんが驚かないのにも納得です」


 一輝がそう言った。すると、


「そうですね、でも安心して下さい、一輝くん、私は勿論、一輝くんが勝負に勝ってくれることを願っていますが、例え一輝くんが負けたとしても、私は先輩の告白を断って、この先もずっと一輝くんの彼女で居ますから」


 綾香は一輝を安心させるようにそんなことを言った。なので、


「綾香さん、ありがとうございます、ただ、僕としても綾香さんの前でカッコ悪い姿を見せる訳にはいかないので、たったの一ヶ月しかありませんが、僕なりに精一杯努力して体力を付けてから先輩との勝負に挑むので、勝負の時には綾香さんは安心して僕の姿を見守っていて下さい」


 一輝は綾香に向けてそう言った。すると、


「……一輝くん、ありがとうございます、ただ、あまり無理はしないで下さいね、頑張り過ぎて倒れたりしたら元も子もありませんから」


 綾香は少し心配そうな口調でそう言った。なので、


「ええ、分かっています」


 一輝はそう答えた。すると、


「そうですか、それなら良かったです、因みに話は変わりますが、一輝くんは明日、何か予定はありますか?」


 綾香はそんなことを聞いて来た。なので、


「明日ですか? いえ、特に予定はないです、ただ、勝負を挑まれた以上、休日は今までのようにのんびり過ごす訳にはいかないので、明日は家の近所を走って、黒澤先輩との勝負に向けて体力を付けようかと思っています」


 一輝はそう答えた。すると、


「そうですか……もし一輝くんさえよかったら、明日は私とデートをお願いしようと思っていたのでしたが、一輝くんがランニングをする予定なら邪魔をするわけにはいきませんね」


 綾香はそんなことを言った。なので、


「そうですか、それはすみません、ただ、明日は勝負に向けてランニングを頑張りたいので、綾香さんには申し訳ないですがデートには行けません」


 一輝はハッキリとそう言って、綾香の提案を断った。すると、


「いえ、謝らないで下さい、勝負のために一輝くんが頑張ってくれているのは私としても、とても嬉しいですから……あっ、そうです」


 そう言うと、綾香は一度言葉を切った。そして、


「一輝くん、もし良かったら明日の一輝くんのランニングに私も付き合ってもいいですか?」


「……え?」


 綾香は一輝に対してそんな提案をしたのだった。

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