第29話 昼ご飯と〇〇〇
その後、一輝が一本の動画を見終わったので、次に何の動画を見ようかと、Tチューブの動画一覧を見ていると。
「一輝くん、オムライスが出来ましたよ」
綾香はそう言うと、一輝の座っている椅子の前の机の上にオムライスを置いた。なので、
「ありがとうございます、綾香さん」
そう言うと、一輝はスマホをポケットに仕舞い、机の上に置かれたオムライスを見たのだが。
「……」
「一輝くん、どうかしましたか?」
綾香はそんなことを聞いてきたので。
「いえ、綾香さんがこんなことをするとは思っていなかったので、少し驚いただけです」
一輝はそう言った。何故なら、一輝の目の前に置かれているオムライスの上には、ケチャップで綺麗なハートマークが描かれていたからだ。
そして、一輝のそんな話を聞いた綾香はと言うと。
「えっと、私なりに一輝くんへと思いを伝えてみたのですが、嫌でしたか?」
綾香は頬をほんのり赤くして少し俯きながら、一輝に対してそんなことを聞いてきたので。
「いえ、そんなことはないです、綾香さんにそんな風に思えてもらえて嬉しいです」
一輝はそう答えた。すると、
「そうですか、それならよかったです。それでは早速、オムライスを頂きましょう」
その言葉を聞いた綾香は満面の笑顔を浮かべてそう言ったので。
「分かりました、そうしましょう」
一輝もそう言った。その後、綾香も席に付いて、二人はスプーンを手に取ると。
「それでは頂きます」
一輝はそう言った。すると、
「頂きます」
綾香もそう返事をした。なので、一輝はスプーンを手に取るとオムライスをスプーンですくって、それを自分の口に運ぼうとしたのだが。
「あっ、一輝くん、待ってください」
綾香がそう言ったので、一輝はスプーンを持っている自分の手を止めた。そして、
「綾香さん、どうかしましたか?」
一輝がそう質問をすると。
「えっと、その……」
綾香はそう言うと、自分のオムライスをスプーンですくうと、何故かそれを一輝の口元へ持って来ると。
「あ、あーん」
そう言って、一輝の正面に座っていた綾香は一輝の口元へと一口のオムライスを持って来た。しかし、
「えっと……綾香さん、なにを」
そんな綾香の姿を見て、一輝は驚いてそう言った。すると、
「何って、その、あーんですよ」
綾香は少し恥ずかしそうに頬を染めつつも、なんでもないようにそんなことを言った。しかし、
「あっ、いや、その……さすがに恥ずかしいので、自分の分くらい自分で食べませんか?」
一輝はそう言って、綾香の提案を断ろうとしていたのだが。
「……そうですか、一輝くんは私のあーんは受け取ってもらえないのですね」
綾香は下の方を向くと、少し悲しそうな声でそう言ったので。
「……すみません綾香さん、冗談です、やっぱり食べます!!」
一輝は慌ててそう言った。すると、
「そうですか、ありがとうございます!!」
一輝のその言葉を聞いた綾香は直ぐに嬉しそうな表情を浮かべてそう言った。なので、
「……綾香さん、もしかして今のは演技ですか?」
一輝がそう質問をすると。
「なんのことですか? それよりも、一輝くん、あーん」
綾香はそう言うと、再び一輝の口元へオムライスが乗ったスプーンを持って来た。なので、
「……あーん」
一輝は諦めたようにそう言うと、彼女の持っているスプーンに口を近づけて、オムライスを食べた。そして、
「どうですか? 私の手作りのオムライスのお味は?」
綾香はそんなことを聞いてきた。なので、
「その、とても美味しいですよ、僕が今まで食べて来たオムライスの中でも一番美味しかったです」
一輝はそう答えた。ただ、綾香にあーんをして食べさせてもらったことによる緊張感で、一輝の味覚は普段よりも大分、鈍っていたのだが。
それでも、綾香お手製のオムライスは一口食べただけでも絶品だと思えるほどの味わいだった。
そして、無事綾香のあーんをしたいという頼みを叶えた一輝は、今度こそ普通にオムライスを食べようと思い、自分のスプーンでオムライスを一口サイズすくったのだが。
「その、一輝くん」
綾香が再び、一輝に話しかけて来たので。
「……なんですか? 綾香さん」
なにを言われるかなんとなく予想が付きつつも、一輝が綾香に対して質問をすると。
「その、先程のお返しに今度は一輝くんも私にあーんをしてくれませんか?」
綾香は一輝が予想していた通りのことを一輝に対して要求して来た。なので、
「……分かりました、僕だけいい思いをするわけにはいかないので、綾香さんもどうぞ」
一輝はそう言うと、自分のスプーンの上に置かれているオムライスを綾香の口元へと近づけた。すると、
「一輝くん、どうぞではなく、あーんですよ」
綾香はそんなことを言った。なので、
「えっと、綾香さん、さすがにそれは少し恥ずかしいです」
一輝はそう言って、綾香の提案を断ろうとしたのだが。
「むー、それなら一輝くんは私にだけ、そんな恥ずかしい思いをさせるつもりなのですか?」
綾香は頬を膨らませながら、そんなことを言った。なので、
「……分かりました、えっと、それなら……綾香さん、あーん」
一輝は恥ずかしそうにそう言うと、彼女の口元にオムライスを乗せたスプーンを近づけた。すると、
「……あーん」
綾香もそう言って、一輝の持っているスプーンの上に乗っているオムライスを食べた。そして、
「ふふ、一輝くんの言う通りこのオムライスはとても美味しいですね」
一口分のオムライスを食べ終えた綾香は、一輝にそんなことを言ったので。
「それは、料理人の腕がいいからではないですか?」
一輝はそう言って、さりげなく彼女のことを褒めてみると。
「確かにそれもあるのかもしれませんが、でも、私はそれだけではないと思います」
綾香はそんなことを言ったので。
「えっと、他になにか理由があるのですか?」
一輝がそう質問をすると。
「ええ、それは私が今、一輝くんと一緒にご飯を食べているからです」
綾香はそんなことを言った。なので、
「僕と一緒に食事をすると綾香さんはご飯を美味しく感じるのですか?」
一輝がそう質問をすると。
「ええ、勿論です、食事は一人でするよりも、家族や一輝くんみたいな好きな人と一緒に楽しくお話をしながら食べた方が美味しいですから」
綾香は笑顔を浮かべてそう言った。そして、その答えを聞いた一輝は、
「……そうですか」
そう言うと、一輝は綾香から視線を逸らした。すると、
「あっ、一輝くん、今照れていますね」
綾香は少しからかう様な口調で、一輝に対してそう言った。なので、
「別に、照れていませんよ」
一輝は誤魔化すようにそう言ったのだが。
「ふふ、隠さなくても大丈夫ですよ、1ヶ月ほど付き合って来て、一輝くんが今どんなことを思っているのか、なんとなく分かるようになってきましたから」
綾香はそんなこと言った。そして、
「それよりも、一輝くん、そろそろオムライスを食べるのを再開しませんか? いつまでもこうしてお話をしていると、折角のオムライスが冷めてしまいます」
綾香は話題を変えるようにそう言った。なので、
「……ええ、そうですね」
一輝はそう言うと、綾香の方を向き直り、改めてスプーンでオムライスをすくうと、それを自分の口元へ運んだのだが。
それを口にする手前で、一輝は自分の手の動きを止めた。すると、
「……このスプーンで食事を続けたら、私たちは関節キスをすることになりますね」
綾香は少し恥ずかしそうな口調でそう言った。そして、その言葉を聞いた一輝はというと。
「えっと……綾香さん、どうしましょう?」
助けを求めるように、一輝は綾香にそう質問をした。すると、
「それなら、もう少しだけ、あーんを続けませんか? 私は一輝くんと関節キスをすることになっても平気ですが、今の一輝くんには少しだけ荷が重いみたいですから」
綾香はそう言ったので。
「……そうですね、すみません綾香さん、僕はこんなにヘタレで」
一輝は申し訳なさそうにそう言うと。
「別にいいですよ、一輝くんがヘタレなのは付き合ってよく分かりましたから。でも、少しずつでもいいので、一輝くんからも私との距離を詰めてもらえると私は嬉しいです」
綾香はそんなことを言ったので。
「ええ、分かりました、正直、いつまでも綾香さんにばかり色々と気を遣ってもらうのも申し訳ないので、自分でも努力します」
一輝はそう答えた。
その後は、一輝は綾香にあーんをして、一輝も綾香に同じようにあーんをしてもらいながら、二人は食事を続けていたのだが。
途中であーんを辞めてしまうと、一輝は間接キスをすることになってしまうため、二人は結局最後まで、お互いにあーんをして昼ご飯を食べ終えたのだった。
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