第4章 お家デートと小さな歪み

第24話 ファミレスでの雑談

 月曜日の放課後、一輝は颯太と綾香のことについて話をするために学校近くにあるファミレスに来ていた。そして、


「それで、立花さんとはどんな感じなんだ?」


 颯太は一輝にそんなことを聞いて来た。なので、


「……まあ、多分いい感じだと思うよ」


 一輝がそう言った。すると、


「へー、そうなのか。そんな風に言うってことは、何か進展はあったのか?」


 颯太は一輝に向けてそう言った。なので、


「まあ、あると言えばあるかな」


 一輝がそう言うと。


「へー、そうなのか、因みにどんなことがあったんだ? 俺なりにお前たちが上手くいくように色々と気を遣ってやったんだから、それくらい教えてくれよ」


 颯太はそんなことを言った。なので、


「まあ、そうだな……取りあえず、僕は立花さんのことを綾香さんと呼ぶようにと、彼女からそう言われよ」


 一輝がそう答えると。


「へー、思っていたよりいい感じに進んでいるじゃないか。ということは、立花さんもお前の呼び方を変えてくれたのか?」


 颯太はそんなことを聞いてきたので。


「まあ、そうだな、綾香さんは僕のことを一輝くんと、そう呼んでくれているよ」


 一輝が素直にそう答えると。


「ひゅー、熱いね」


 颯太はそんなことを言ったので。


「冷やかすなよ」


 一輝がそう言うと。


「ああ、悪いって。ただ、今は上手くいっているからって、このまま何もしないってわけにはいかないぞ」


 颯太はそんなことを言ったので。


「どういうことだ?」


 一輝がそう質問をすると。


「来週から俺たちはゴールデンウィークに入るだろ? それなのに、立花さんとは何処にも行かず、毎晩の電話だけで過ごすわけにはいかないからな。だから、立花さんに予定が出来る前に、早いところ立花さんと一緒に遊ぶ約束をしておくのだぞ」


 颯太は一輝に向けてそうアドバイスをした。すると、


「それについてなんだけど……」


 一輝は意味ありげに、そんなことを言った。すると、


「何だ、もしかして、立花さんはもう予定があって、ゴールデンウィークはお前とは遊べないのか?」


 颯太は一輝を少し心配した様子でそう言った。なので、


「いや、そうじゃないんだ、実は」


「実は、何だよ」


 颯太が改めてそう質問をすると。


「……実は、ゴールデンウィークの何処かで、綾香さんの家に来ないかと、彼女からそう誘われたんだ」


 一輝は正直にそう言った。そして、そんな一輝の答えを聞いた颯太はというと。


「……ふーん、そうか、まさかお前に先を越されるとは思っていなかったけど、お前は遂に俺よりも先に大人の階段を昇っちまうんだな」


 窓の外を見て、少し感慨深そうな声でそんなことを言った。なので、


「……お前、一体なにを考えているんだ?」


 一輝は自分のグラスに注いでいる炭酸飲料を飲みながら、颯太に向けてそう質問をすると。


「えっ、何って、わざわざ立花さんの方から自宅に誘うなんて、それはもう、エッチなことをしようってことだろ?」


 颯太は全く取り繕うこともなく、そんなことを言ったので。


「ぐほっ!?」


 一輝は思わずそう言って咽てしまった。すると、


「おいおい、大丈夫か?」


 颯太は全く心配していなさそうな口調でそう言った。なので、


「……ああ、大丈夫だ」


 一輝は息を整えてそう言った。そして、


「言っとくけど、別にそういうことをするために綾香さんの家に行く訳じゃないからな」


 一輝が颯太に向けてそう言うと。


「別に嘘を付く必要はないぞ、彼女の家に行くのに他に理由なんてないだろうからな」


 颯太はそんなことを言ったので。


「いや、他にもあるだろ」


 一輝は颯太に向けてそう突っ込んだ。すると、


「へー、例えば何だ?」


 颯太は一輝に向けてそう言ったので。


「例えば、ほら、えっと……」


 そう言って、一輝は何か言おうとしたのだが、直ぐには超えたが出なかった。なので、


「ほら見ろ、やっぱり彼女の家に行くなんて、エッチなこと以外にないって」


 颯太は改めてそう言った。なので、


「いや、有るぞ、例えばほら一緒にDVDを見るとか。実際に綾香さんも、家で一緒にアニメでも見ながらのんびり過ごしたいなと、そう言っていたからな!!」


 一輝は慌てて颯太に向けてそう説明をした。すると、


「一緒にアニメを観る? 立花さんってアニメ好きなのか?」


 颯太は一輝に向けてそんなことを聞いて来た。なので、一輝はここで綾香の秘密をばらしてもいいのかと少し考えたが、ここまで言ったら誤魔化せないだろうとも思ったし。


 自分たちが付き合っていることを知っている颯太になら話しても問題ないだろうと、一輝は最終的に結論付けた。なので、


「ああ、少し意外かもしれないけど、綾香さんは意外とアニメが好きみたいだな。だから、綾香さんの家でのデートはアニメでも観ながらのんびり過ごそうと、そう言う話になっているんだ」


 一輝はそう言って、颯太に説明をした。すると、


「ふーん、そうか……まあ、確かにその話も嘘ではないんだろうけど」


「けど、何だよ?」


 一輝がそう質問をすると。


「わざわざ自分の家に呼ぶということは、少なからず立花さんはそういう展開になることも期待していると、俺はそう思うぜ」


 颯太はそんなことを一輝に向けて言ったのだった。






 そして、その日の夜、一輝はいつも通り、綾香と日課の電話をしていた。すると、


「ねえ、一輝くん」


 唐突に綾香がそんなことを言ったので。


「何ですか、綾香さん」


 一輝がそう言うと。


「えっと、次のデートのことなのですが」


 綾香がそんなことを言ったので。


「……ええ、綾香さんの自宅でのデートというお話でしたよね」


 一輝が少し緊張した様子でそう言うと。


「ええ、そうですが、もしかして、私のお家でデートをするのは嫌ですか?」


 綾香はそんなことを聞いてきたので。


「あっ、いえ、そんなことはないですが、何故そう思ったのですか?」


 一輝が綾香にそう質問をすると。


「いえ、何だか一輝くんの言い方が普段と違って少し硬かったので、もしかしたら私の家でデートをしたくない理由が出来たのではないのかと、私はそう思ったのですが」


 綾香はそんなことを言った。なので、


「あっ、いえ、別にそんな理由はないですよ!!」


 一輝が慌ててそう言って、彼女の言葉を否定すると。


「そうなのですか? でも、それならどうして、一輝くんは先程少し、言葉遣いが固かったのですか?」


 綾香はそんなことを聞いて来た。なので、


「えっと、それは……」


 そう言って、一輝が言葉を詰まらせると。


「それは、何でしょう?」


 綾香はそう言って、更に追及して来たので。


「あ、いえ、本当に対し大した理由はないですよ、もしかしたら少しアレな展開になるかもしれないかもと思って緊張していたとか、そんな理由では決してないですよ!!」


 一輝が慌ててそう言ったが、数時間前に颯太とあんな話をしていたせいで、そんな風につい余計なことまで口にしてしまった。すると、


「あっ、えっ、その……」


 その言葉を聞いて、綾香も慌てた様子でそう言ってから。


「……もう、一輝くん、今回はただアニメを観たりしながらまったり過ごそうと思っているだけなので、そんな気持ちで私の家に来られたら、少し困ってしまいます」


 綾香はそんなことを言ったので。


「……そうですよね、すみません」


 一輝がそう言って謝ると。


「本当にそうですよ、なので、一輝くんは深呼吸でもして少し落ち着いて下さい、今のままだと、落ち着いてお話ができそうにありませんから」


 スマホ越しで綾香がそんなことを言ったので。


「はい、分かりました」


 そう言って、一輝はスマホを耳から離すと、その場で小さく深呼吸をした。すると、


「落ち着きましたか?」


 スマホから綾香のそんな声が聞こえて来たので。


「ええ、すみません、綾香さん、もう大丈夫です」


 一輝がそう答えると。


「それなら、今から私の家で遊ぶための日付と時間を決めたいのですが、大丈夫ですか?」


 綾香はそう言ったので。


「ええ、大丈夫です」


 一輝はそう返事をして、一輝と綾香の2人は、彼女の家で遊ぶための予定を話し合ったのだった。そして、


「それじゃあその時間に私が一輝くんのことを迎えに行くので、一輝くんは自転車で待っていて下さい」


 綾香はそう言ったので。


「分かりました、道案内をお願いします、綾香さん」


 一輝も綾香に向けてそう言った。すると、


「ええ、分かりました」


 綾香はそう返事をした。そして、


「えっと、一輝くん、私の話したいことはこれで終わりましたが、一輝くんはまだ私とお話ししたいことはありますか?」


 綾香はそんなことを一輝に聞いて来た。なので、


「ええ、僕も特にないので大丈夫ですよ」


 一輝もそう答えると。


「分かりました、それでは今日はこれくらいにしておきましょう」


 綾香はそう言ったので。


「分かりました、お休みなさい、綾香さん」


 一輝がそう言うと。


「ええ、お休みなさい……あの、一輝くん」


「何ですか?」


「その、お家デート、楽しみにしています……それでは、失礼します」


 そう言って綾香は通話を終えた。そして、


「……僕も楽しみですよ」


 彼女にはもう聞こえないが、一輝はスマホ越しにそう語りかけた。そして、


「……でも、エッチなことはないのか……当たり前だけど、少し残念だな」


 他の人が誰もいない自分の部屋で一輝はポツリとそう呟いた。ただ、その声は少しではなく本気で残念がっている様子なのだが。


 一輝は思春期真只中の男子なので、そればかりは仕方のないことだった。

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