第23話 ライトノベルと別れの挨拶

「僕の読んでいる本のジャンルですか?」


 綾香の質問に対して一輝がそう答えると。


「ええ、そうです、一輝くんは普段、どのようなジャンルを読んでいるのですか?」


 綾香は一輝に向けてそう言った。それは彼女からすれば、同然の疑問であるのだが。


「……」


 そう言われて一輝は黙った。何故から、彼の読んでいるジャンルの本は一般的な読書好きと呼ばれている人たちからすれば、笑われても仕方ないモノだと一輝は思っていたからだ。しかし、


(いや、立花さんなら話をしても大丈夫なはずだ)


 一輝は自分にそう言い聞かせた。事前に彼女に話を聞いて、彼女はアニメに関してはそれなりの知識があるということを一輝は分かっていたので、一輝の読んでいるジャンルの本に関してもある程度の理解はある可能性はあったし。


 仮に知識が無かったとしても、綾香なら偏見を持つこともなく、話を聞いてくれると思った。なので、


「えっと、綾香さんのお話を聞いた後に言うのは少し恥ずかしいのですが、僕はよくライトノベルを読んでいます」


 一輝は正直にそう答えた。そして、その答えを聞いた綾香がどんな反応をするのか、一輝が少し身構えて待っていると。


「ライトノベルですか、面白いですよね、私も偶に読んでいますよ」


 綾香はそう言った。なので、


「えっ、立花さんもライトノベルを読んでいるのですか?」


 一輝が少し驚いた様子でそう言うと。


「立花さんではなく綾香さんですよ」


 綾香はそう言ったので。


「あっ、すみません、でも、綾香さんもライトノベルを読んでいるって本当ですか?」


 一輝が改めてそんな質問をしたので。


「ええ、本当ですよ」


 綾香は笑顔でそう言った。すると、


「そうなんですか、因みに綾香さんはいつもどんなライトノベルを読んでいるのですか?」


 一輝は少しテンションを上げて、綾香に向けてそう質問をした。すると、


「そうですね、前も話をしましたが、私はあまりアニメ方面の知識は詳しくないので、基本的には有名な作品をよく読んでいますね。なので、今だとフランス語で時デレるアリスさんとか、ようこそ、能力主義の学園へなどが私が最近読んで、面白かったと思う作品ですね」


 綾香はそう答えた。なので、


「へえ、いい趣味をしていますね。僕もその2作品は大好きで、どちらも全巻買っていますよ、特に能力主義の学園へは、今度新しいアニメ化も決まったので、今から楽しみです!! 後、他にお勧めのライトノベルだと……」


 そう言って、一輝は綾香に向けてライトノベルの話を始めた。そして、一輝の話を一通り聞き終えた綾香は、


「一輝くんは、本当にライトノベルが好きなのですね」


 一輝に向けてそう言った。しかし、


(……やってしまった)


 一輝は心の中でそう思った。彼女が自分と同じ趣味を持っていると分かってから、一輝はついテンションを上げてしまい、綾香の前で熱いオタク語りをしてしまったのだった。なので、


「すみません、綾香さん、急にオタク語りをしてしまって。迷惑でしたよね」


 一輝が綾香にそう言って謝ると。


「そんなことはないですよ、一輝くんが本当にライトノベルを好きだということが伝わってきましたし、色々な作品の話を聞けて、私も勉強になりました」


 綾香はそんなことを言ったので。


「……優しいですね、綾香さんは」


 一輝がそう答えると。


「そんなことは無いですよ、私は自分の思ったことを素直に一輝くんに伝えているだけですよ」


 綾香はそう言った。そして、


「ただ、今日は折角なので、ライトノベルのコーナーへ行きましょうか。一輝くんのお話を聞いて、何か気になる本があれば私も買ってみたいと思ったので」


 綾香はそんなことを言ったので。


「分かりました、綾香さんがそう言うのでしたらそうしましょう」


 一輝はそう言って、綾香と一緒に奥の方にあるライトノベルのコーナーへ向かって行った。


 そして、一輝と綾香の2人がライトノベルのコーナーに辿り着くと。


「また新刊が出ていますね」


 綾香がそう言ったので。


「まあ、そうですね、ライトノベルの新刊はよく出ていますからね」


 一輝はそう答えた。すると、


「因みに、一輝くんは新刊の中で何か気になる小説はありますか?」


 綾香は一輝に対してそんなことを聞いて来た。なので、


「そうですね……この中だと僕はこの作品が気になりますね」


 そう言って、一輝が一冊の小説を手に取ると。


「えっと、どれですか?」


 綾香はそう言って、一輝の隣に来たので。


「この作品です」


 そう一輝が呟くと。


「へー、確かに面白そうですよね」


 綾香もそう言ったので。


「そうですよね」


 一輝もそう答えたのだが。


(あれ、この感覚何処かで……)


 何処か既視感を覚えて一輝はこのような感覚を何処で感じていたのかのだが、それが何処だったのか思い出せず、一輝が暫くの間、頭を働かせていると。


(ああ、山下さんと居る時の感覚だ)


 一輝はそう思った。山下夏月といる時、一輝は最近、彼女が綾香に似ているなと感じることもあったが。


 何故か今も、綾香と共にいると、山下夏月と一緒に居るような感覚になっていたのだった。しかし、


(いや、今は綾香さんと一緒に居るんだし、他の女性のことを考えるのは失礼だろう)


 一輝はそう思うと、その後はその頭に過ぎったことを忘れて、一輝は綾香と共に新刊のライトノベルを見て周った。そして……






 あの後、2人は新刊のライトノベルを一通り見て周ったが、今回は2人とも新しい作品を買うことはなく、そのまま本屋を後にして。


 そろそろ晩御飯の時間が近づいて来たので名残惜しさはあるモノの、今日はもう解散ということになり、2人は店の外に出ると、彼女が自宅に迎えの連絡を頼んでから。


 今は店の入り口で2人並んで立って、綾香の親が迎えに来るのを、夕焼け空を眺めながら待っていた。すると、


「一輝くん、今日は私をデートに誘ってくれて、ありがとうございました」


 一輝がプレゼントをした柴犬のぬいぐるみを抱きかかえたまま、綾香は一輝に向けてそうお礼を言った。なので、


「そう思ってもらえたのなら、今日、立花さんを誘えてよかったです」


 一輝はそう言ったが。


「もう、綾香さんと読んで下さいと言っているのに、もしかして一輝くん、わざと言っていますか?」


 綾香は少し不満そうな口調でそう言った。なので、


「あっ、すみません……まだ慣れていないので、もう少しだけ慣れるまで猶予を下さい」


 一輝は少し申し訳なさそうにそう言った。すると


「はあ、分かりました。ただし、なるべく早く綾香さんと呼ぶことに慣れて下さいね。いずれ一輝くんは私のことを呼び捨てで呼ぶことになるのですから」


 綾香はそんなことを言ったので。


「……分かりました、今は恥ずかしくて無理ですが、いつかはそう呼べるように頑張ります」


 一輝がそう答えると。


「ええ、楽しみに待っています」


 綾香はそう言った。そして、


「そういえば、話は変わりますが、一輝くんは来週からのゴールデンウィークに何か予定はありますか?」


 綾香は一輝に対してそんなことを聞いてきたので。


「いえ、特にありませんが、どうかしましたか?」


 一輝がそう質問をすると。


「もしよかったら、ゴールデンウィークの何処かで、私の家でお家デートをしませんか?」


 綾香はそんなことを言って来たので。


「お家デートですか、ええ、勿論いいですよ」


 一輝はそう返事をしたのだが。


「……ん?」


 その後、直ぐに自分がとんでもない言葉を返ししていたことに気が付いて。


「……すみません、綾香さん、今なんと言いましたか?」


 一輝はそう聞き返すと。


「ゴールデンウィークの何処かで、私の家でお家デートをしませんかと、そう言いました」


 綾香は改めて、そんなことを言った。なので、


「ええー!?」


 一輝が驚いて、そう声を上げると。


「そんなに驚くことですか?」


 綾香がそんなことを言ったので。


「ええ、だって、いきなり綾香さんの家でデートだなんて……」


 一輝がそう呟くと。


「……もう、一輝くんが考えていそうなことなんて何となく想像できますが、残念ながらエッチなお誘いではないですよ」


 綾香はそんなことを言った。なので、


「えっ、違うのですか?」


 一輝がそう呟くと。


「当たり前じゃないですか。ただ、私も一輝くんもアニメ好きのようですから、家でまったりアニメを観ながら過ごせたらいいなと、そう思っただけです!!」


 綾香は少し顔を赤くしながらそう言ったので。


「それはそうですよね、というか、昨日の電話でも綾香さんは似たような話をしていましたね。すみません、すっかり記憶から飛んでいました」


 一輝が綾香に向けてそう言うと。


「本当にそうですよ、一輝くんの気持ちも分かりますが、あまりそういう気持ちを前面にぶつけられても困るので、少しくらい抑えて下さい」


 綾香はそう言ったので。


「ええ、そうですよね、すみません」


 一輝はそう言って、綾香に謝ったのだが。


「……ん?」


 一輝は綾香の発言に何か違和感を覚えて、そう言って頭を働かせた。そして、


「綾香さん」


「何でしょう?」


 綾香がそう質問をすると。


「えっと、綾香さんは今、私も一輝くんの気持ちが分かると言いましたが、それは一体、僕のどういう気持ちが分かるということなのですか?」


 一輝はそんな質問を綾香に投げかけた。すると、


「えっ、あっ、えっと、それは……」


 一輝のそんな発言を聞いた綾香は、先程以上に顔を赤くして、そう言って慌て始めた。そして、


「……一輝くんのいじわる、そんなに私のことを虐めて楽しいですか?」


 綾香は少し機嫌を悪くしてそんなことを言ったので。


「あっ、いえ、すみません、ただ少し気になっただけで、綾香さんを虐めるつもりでは……」


 一輝は慌てて、綾香に弁解しようとすると。


「プルルルルルル」


 タイミング悪く、綾香のポケットの中からスマホの着信音が響いたのだった。なので、綾香は通話に出て、少し話をしてから。


「すみません、一輝くん、迎えが来たので、私はそろそろ家に帰りますね、なので、改めて、今日はデートに誘って頂いてありがとうございました」


 綾香は一輝に向けて再度、お礼を言ったので。


「あっ、はい、分かりました、こちらこそ、今日はわざわざデートに付き合ってくれてありがとうございました」


 一輝もそう言って、綾香に改めてお礼を言った。そして、その言葉を聞き終えた綾香は一輝に背を向けて、その場を後にしようとしたのだが。


「あっ、そうです」


 そう言うと、綾香は再び一輝の傍へ戻って来ると、


「一輝くん、少し耳を貸してもらえませんか?」


 一輝に向けてそんなことを言って来たので。


「ええ、何ですか?」


 そう言って、一輝が左耳を彼女の方へ向けると、綾香は少し背伸びをして、一輝の耳元へ自分の唇を近づけると。


「その……私も年頃の女の子なので、そういうことに全く興味がないのかと聞かれると、それは嘘になりますよ」


「っつ!?」


 その言葉を聞いて、一輝がびくりと体を震わせると、綾香は直ぐに一輝の傍を離れて。


「それじゃあ、一輝くん、今度こそさようなら、次のお家デート楽しみにしていますね」


 そんな別れの挨拶をすると、今度こそ綾香は一輝に完全に背を向けて、多くの車が並ぶ駐車場の方へと駆け足で消えて行ったのだった。

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