第22話 休憩と本屋

 その後、綾香は洋服選びに満足したのか、最後に試着をしたホワイト色のシャーリングワンピースをその場で購入すると、満足そうな笑みを浮かべながら服の入った紙袋を持って店を後にして。


 そんな彼女の横を、犬のぬいぐるみを抱きかかえたままの一輝が、若干周りの目を気にしながら歩いていた。すると、


「一輝くん、少し休憩を取りましょうか」


 綾香は一輝に向けてそう言ったので。


「ええ、分かりました」


 一輝はそう返事をして、2人はその階にある休憩場へ向かい、一輝が自動販売機でジュースを買ってから綾香に手渡して、2人は並んでベンチに座った。すると、


「すみません、一輝くん、私の長い買い物に付き合わせてしまって」


 綾香は一輝に向けてそう言って謝って来た。なので、


「いえ、気にしないで下さい、女性の買い物が長いのはある程度覚悟していましたし、それに、僕としても色々な洋服を着た立花さ……綾香さんが見られて良かったです、ただ」


「ただ、何でしょう?」


 綾香がそう質問をして来たので。


「綾香さんが買ったのは、結局あのワンピース一着だけでしたが、本当にそれでよかったのですか? 他にも色々試着をしていたので、何着か買う予定だったのかと僕はそう思っていたのですが」


 一輝はそう言った。すると、


「そうですね、他にも気に入った服は何着かありましたが、私は元々一着しか買うつもりは無かったので何の問題もないですよ」


 綾香はそう言った。なので、


「ということは、あのワンピースを綾香さんは一番気に入ったのですか?」


 一輝がそう言うと。


「少し違います、確かに私もこの服はいいなと思いましたが、一番の理由は一輝くんの反応が一番良かったからです」


 綾香はそんなことを言った。すると、


「えっ、僕ですか?」


 一輝は少し驚いたようにそう言ったので。


「ええ、一輝くんはあのワンピースを一番気に入っていたと私はそう思ったのですが、もしかして違いましたか?」


 綾香がそう質問をすると。


「……ええ、確かにそうですが、よく分かりましたね」


 一輝はそんなことを言ったので。


「だって一輝くん、分かりやすいですから。他の服だと私のことを直ぐに褒めていたのに、ワンピース姿の私を見た途端、暫くの間固まっていて、その後顔を赤くしていたので、私ではなくても気付きますよ」


 綾香は笑いながら、一輝の疑問にそう答えた。すると、


「うっ、それはその……ワンピース姿の綾香さんがあまりにも可愛すぎたので仕方ないじゃないですか……」


 一輝が下を向いてそう答えると。


「あっ、一輝くん、今照れていますね」


 綾香は一輝に向けてそう言ったので。


「別に、照れてないですよ」


 一輝は綾香から顔を背けながらにそう言うと。


「えー、嘘を言わないで下さい、それに、一輝くんの照れている顔はとても可愛いので、もっと私に見せて下さい!!」


 綾香はとても楽しそうな声音でそんなことを言ったので。


「……申し訳ありませんが、元の顔に戻るまで、絶対に綾香さんの方は見ません」


 一輝はそう言って、綾香とは反対側の方へと顔を背けた。すると、


「ふふっ、そんな風に意地を張っている姿もそれはそれで可愛いので、私は別に構いませんよ」


 綾香はそんなことを言ったので。


「そんなの、どうしようもないじゃないですか」


 一輝はそう呟いた。綾香に強く出ることが出来ず、いつもは綾香にいい様にされてばかりの一輝なので、今回くらいは彼女をからかえるくらいの余裕を見せようとそれなりに頑張って来た一輝だが。


 こんな風に扱われてしまうと、彼女には一生敵わないかもしれないと、一輝はそんなことを思ったのだった。


 そして、その後も少しの間、一輝は綾香にそんな風にからかわれていたのだが、一通り一輝のことをいじり倒して、綾香は満足したのか。


「さて、一輝くん、もう十分に休憩をしたので、そろそろ次の場所へ行きましょう!!」


 綾香は楽しそうな表情を浮かべてそう言ったので。


「……そうですね」


 一輝が力なくそう答えると。


「えっと、どうかしましたか、一輝くん、少し元気がないようですか?」


 綾香はそんなことを聞いて来た。なので、


「……綾香さんって実は隠れSですよね」


 一輝がそんなことを言うと。


「そんなことは無いと思いますが。でも、もしそうだったとしても、私が意地悪をしたくなるのは一輝くんだけなので安心して下さい!!」


 綾香は笑顔でそんなことを言ったので。


「全く安心できないのですが、本当に勘弁してください」


 一輝は綾香にそう言ったのだが。


「ふふっ、嫌です、佐藤くんがとても可愛い反応をしてくれるので、私はこれからも佐藤くんのことを虐め続けます」


 綾香は天使のような可愛らしい微笑みを浮かべたまま、そんな悪魔的な発言をしたのだった。そして、


「それより一輝くん、先程は私の買い物に一輝くんが付き合ってくれたので、次は一輝くんの行きたい所へ私が付き合いますよ。何処へ行きますか?」


 綾香はそんなことを聞いて来た。なので、一輝は気分を切り替えて。


「えっと、そうですね……それなら、僕は本屋に行きたいのですが、いいですか?」


 一輝が綾香に向けてそう提案をすると。


「ええ、私も本は好きなので、勿論構いませんよ」


 綾香はそう言ったので、一輝はベンチから立ち上がると、そのまま彼女と2人で一つ上の階にある本屋へと向かって行った。






 そして、2人は本屋へ入ると。


「えっと、綾香さんは、普段はどのような本を読んでいるのですか?」


 一輝は綾香に向けてそう質問をした。すると、


「私ですか、そうですね。私はあまり漫画や雑誌は読まないで、よく小説を読んでいるのですが、小説ならSF小説や推理小説やファンタジー小説のような一般的なモノから、歴史小説や恋愛小説など、ジャンルを問わず割と何でも読んでいますよ」


 綾香はそう言った。なので、


「そうなんですか、何と言いますか、イメージ通りと言いますか、割とちゃんとした読書好きな人といった感じなのですね」


 一輝がそう答えると。


「そんなに大層なモノではありませんよ、私は自分の好きな小説を読んでいるだけですし、それに純文学は私には少し難しすぎて、過去に何度か読もうと思ったことがあるのですが、途中で断念してしまいましたから」


 綾香は恥ずかしそうにそう答えたので。


「あっ、その気持ちは分かります。純文学って話の内容が難しいのもそうですが、言葉遣いも昔のモノなので、内容をきちんと理解するのにも苦労するんですよね」


 一輝がそう言うと。


「あっ、それは分かります、私としては読書好きを自称する以上、一冊くらいは純文学をきちんと読んでおきたいという気持ちもあるのですが、その辺りのことがあって、いつも途中でギブアップしてしまうのですよね」


 綾香もそう言った。なので、


「まあでも、それも仕方がないのではないですか? 純文学と呼ばれている作品が書かれた時代と今とでは、言葉遣いも価値観もかなり変わっているので、合わないと思うのも無理はないと思います。それに、僕は読書というのは今の時代は教養を磨くというよりは、娯楽の一つだという面の方が強いと思っているので、別に純文学や自己啓発本のようなかしこまったモノでなくても、楽しく読めたのなら漫画とかでも十分に読書が趣味だと言ってもいいと思っていますけどね」


 一輝がそう答えると。


「ふふ、それもそうですね、読書に限らず趣味というモノは、自分が楽しめることが何よりも大切ですからね」


 綾香はクスリと笑いながら、そう言って一輝に同意した。そして、


「因みに、一輝くんは普段、どんなジャンルの本を読んでいるのですか?」


 綾香は一輝に対してそう質問をした。

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