第11話 ボウリング
その後、少しの間、電車に揺られていた三人は、目的の駅で下車してから。
バスに乗り換えて、三人は今日の目的地を目指した。そして……
「着いたな」
バスから三人が降りると、颯太は目の前にある巨大な建物を見てそう言った。
ここが今日、三人が遊ぶ予定の場所で、ボウリングやカラオケにゲームセンターなど、様々なことで遊ぶことが出来る、複合アミューズメント施設だった。
そして、三人がそんな店内に入ると、
「随分と人が多いですね」
綾香はそう呟いた。
日曜日の昼間ということもあり、店内には一輝たちのように友人たちと来ている人たちから、家族連れやカップルなど、様々な人たちが行き来していた。そして、
「立花さんは、あまりこういう所には来ないのですか?」
一輝が綾香にそう質問をすると。
「そうですね、私が小学生の時にお父さんとお母さんに連れてきてもらったことはありますが、それ以降に来たことはないですね、佐藤くんはこういうお店にはよく遊びに来ているのですか?」
綾香はそう言って、一輝に質問を返してきた。なので、
「いえ、僕はどちらかというとかなりインドアな人間なので、こういう所には殆ど縁は無いのですが、偶に颯太がどうしても付き合ってくれと言うので、その時は仕方なく付き合っているんです」
一輝が正直にそう答えた。すると、
「仕方ないだろ、お前は俺が誘わないと休日はずっと家に引きこもっていて、外に出ないんだから。だから立花さん、もし休日に何処か行きたい所があったら、遠慮せずこいつを付き合わせてやってくれないか? そうでもしないと、こいつは家から一歩も出ないからな」
颯太が綾香に向かってそんなことを言った。すると、
「分かりました、ただ、佐藤くんは自分のお家が大好きなのですね」
綾香はそんなことを言った。そして、そんな彼女の言葉を聞いた一輝は恥ずかしくなり、颯太の方へ近づくと小声で。
「おい颯太、お前立花さんに何を言っているんだよ!!」
抗議するようにそう言った。しかし、
「何って、お前たちが二人で出かけやすくなる様にフォローしているんだよ。今回だけは仕方なく俺も付き合ってやっているけど、次からお前は立花さんと二人きりで出掛けることになるんだからな」
颯太は当然の様にそう言った。そして、その言葉を聞いた一輝は、
「いや、そうしてくれるのはありがたいけど、もう少し言い方が……」
そんな風にぼやいていると。
「えっと、お二人は何の話をしているのですか?」
綾香はそんなことを聞いてきたので。
「いや、何でもないよ、それより立花さん、何かやりたいことはあるか? 今回は無理を言って俺たちの都合に付き合わせたんだから、今日はなるべく立花さんの希望に沿ったプランで行こうと思っているんだけど」
颯太はそう言って、綾香に質問をした。すると、
「そうですか、ありがとうございます。ですが、今日は私のことはあまり気にせず、佐藤くんや斎藤くんがやりたいことをやってもらっていいですよ。私は最悪、見ているだけでも楽しめますし、参加出来そうなモノがあれば参加させてもらいますから」
綾香はそう言った。そして、その言葉を聞き終えた颯太は、
「そうか、分かった、それじゃあ一輝」
「何だ?」
「取りあえず、ボウリングでもやるか」
颯太はそう言って、最初はボウリングをすることが決まった。
その後、三人はボウリング場がある階へ行き、料金を払ってから靴もレンタルしたのだが。
「えっと、立花さんは本当に見学でいいのですか?」
ボールを選びながら、一輝は隣に居る綾香に向けてそう質問をした。
一輝も颯太も料金を払うことになるまでは、三人でボウリングをすることになると思っていたのだが、料金を払うことになった際、綾香は、
「私は小学生以降ボウリングをやったことがなくて自信がないので、今回は二人で楽しんで下さい。私はお二人を応援していますから」
そんなことを言ったので、そんな彼女に無理を言うわけにもいかず、今回は一輝と颯太の二人でボウリングをすることになったのだ。
そして、一輝の疑問を聞いた綾香は、
「ええ、小学生の時以来ボウリングをしたことが無いのも、腕に自信が無いのも本当のことですから、それに……」
そんなことを言ったので。
「それに、何ですか?」
一輝がそう聞くと。
「その、自分でこんなことを言うのはとても恥ずかしいのですが、佐藤くんの前では私は可愛くて素敵な彼女でいたので、あまり恥ずかしい姿は見せたくないのです」
綾香は俯きながら頬を赤くして、少し恥ずかしそうな表情を浮かべてそう言った。すると、
「……可愛すぎる」
一輝は思わずそんな風に、心の声が漏れてしまった。すると、
「え!? あ、えっと、その、佐藤くん、今なんと!?」
一輝のそんな言葉を聞いて、綾香は動揺したのか、少し取り乱した様子でそう聞いてきた。しかし、
「あっ!? えっと、その!!」
一輝としても、聞かせるつもりの無かった心の声を綾香に聞かれてしまったため、何と言っていいのか分からず、二人してその場でアタフタしていると。
「おい一輝、いつまでボールを選んでるんだ! そろそろ始めるぞ!」
先にボールを選び終えて、席に付いていた颯太にそう言われたので。
「ああ!! えっと、それじゃあ僕はこれにして、立花さん、そろそろ行きましょう!!」
一輝は急いで一つのボールを手に持つと、綾香に向けてそう言ったので。
「え、あ、はい、そうですね、行きましょう!!」
綾香もそう言って、二人は颯太の居るレーンの前の席まで早足で移動した。
そして、二人が席に着くと。
「やっと来たか、早く始めるぞって、何か二人とも顔が赤くないか?」
颯太は二人に対してそう突っ込んだので。
「え、いや別に何でもないよ、そうですよね、立花さん!!」
「ええ、何でもないです!!」
一輝と綾香が慌ててそう言うと。
「まあ、それならいいけど、それより、俺からゲームを始めるぞ」
颯太はそう言って、自分が選んだボールを手に持つと、自分たちの使うレーンに向けて歩いて行った。すると、
「あの、佐藤くん、私は最近ボウリングをしていなかったのでよく覚えていないのですが、ボウリングでは何点くらいを取れるのが普通なのですか?」
綾香はそんなことを一輝に聞いて来た。なので、
「そうですね、僕もそんなにボウリングに付いて詳しいわけではないですが、全てストライクを取れた最高得点が300ポイントで、男なら130ポイントくらいが普通で、150ポイント以上を取れたらそれなりに上手い方らしいです」
一輝はそう綾香に説明をした。そして、一輝が説明を終えると。
「カランカラン」
そんな風に、綺麗にピンが倒れる音が二人の耳に届いた。そして、
「よっしゃ、ストライク!!」
颯太はガッツポーズをしてそう言った。
なので、二人がレーンの先を見ていると、颯太の言う通り、颯太たちの使っていたレーンの先にあるピンは全て倒れており、画面にも見事にストライクの表示がされていた。なので、
「斎藤くんはボウリングがお上手なんですね」
綾香が一輝に向けてそう言うと。
「ええ、颯太は安定して150ポイントを超えるくらいの点数を出せるので、高校生にしては結構上手い方だと思いますよ」
一輝はそう答えた。すると、
「そうなんですね、因みに佐藤くんは、いつもどれくらいの点数が取れるのですか?」
綾香は続けてそんな質問を投げてきた。なので、一輝は少し頭を掻きながら。
「それが、自分で言うのも恥ずかしいのですが、毎回130ポイントに微妙に届かないくらいの、あまり面白味のない点数ですよ」
一輝はそう答えた。すると、
「でも今日に限ってはそういうわけにはいかないだろ? 何たって、今回は立花さんが見守っているんだからな」
丁度、二人がいる席に戻って来た颯太が一輝に向けてそう言った。すると、
「えっと、頑張って下さい、佐藤くん!!」
綾香はそう言って、一輝に声援を送った。なので、
「立花さん……ええ、任せて下さい、必ず平均点よりも上を、いえ、颯太にもスコアで勝ってみせます!!」
綾香の声援にそう答えると、彼女に応援されている以上かっこ悪い姿を見せるわけにはいかないと、一輝はそう自分に言い聞かせ。
ボールを持つと静かにレーンへと向かって行った。
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