それはあなたのため
「うぅ……んん……ここは……?」
「あ、アリア。起きたのー?」
「そうか……私は負けたのか」
紫苑の顔を見た瞬間、アリアは自分の置かれた状況を即座に理解した。
そして、その上で……。
「結城紫苑、貴様に頼みがある」
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「ちょ、ちょっと待てよ! あのアリアが……ぜってぇありえねぇ!」
「あり得ないか。なぁ、レオナ」
「な、なんスか?」
話に全くついていけてないレオナは頭にはてなマークを浮かべていた。
「アリア・シスターに会ったことはあるか?」
「アリアさん? アンちゃんのメイドさんでしょ? もちろん会ったことあるよ」
「それなら、アリアがレオナのことを知らずに嵌めたって線はないな」
「だ、だが……」
「ま、普通に考えれば、あんたにレオナの存在を知られて作戦を中断されるのが嫌だったからとかかもな」
「……………」
「黙るってことは、何かしら心当たりがあるんだな」
「てめぇ、性格が悪いと言われるだろ」
「聖人とはよく言われる」
「私は東雲さんのこと性格悪いって思ってるっス」
「DDDの崩壊を望んでいたのはあんただけじゃないんだろ?」
「い、いたいっふ。東雲はん、普通に喋りながら、ほっぺ引っ張らないでくらさいっふ」
「ああ、そうだ。父たちからそうするように言われた」
「アンちゃんもむひひて話進めないで。止めてほしいっふ」
流石にレオナがうるさくて話が進まないので、仕方なく頬をつねるのをやめてやる。
「タルタロスの件でエルフヘイムはDDDのことを危険視したのか」
紫苑は文字通り世界を滅ぼす力を持っている。その力の矛先が自分たちに向いたらと恐怖心に煽られアンリエッタを派遣したってとこだろう。
「アタシ自身もDDDに恨みがあったから別に良かったんだが、もし今回の作戦が失敗した場合……」
「DDDを陥れようとしたエルフヘイムはタルタロスと同じ運命を辿る、か」
アンリエッタはこくりと頷いた。
確かにあの上層部なら紫苑にエルフヘイムを消す命令を出すだろうな。紫苑がその命令に従うかは別として。
「アリアは多分、エルフヘイムが滅ぼされるのを回避するためにアタシに黙って……」
「さて、それはどうかな?」
「あ? 他に何か思惑があるってのか?」
「なんでおかしいと思わないんだ。本当にレオナが生きてることを知られたくなかったら、あの時、レオナを巻き込むことはしなかったはずだ。あんたにバレる可能性が上がっただけだ」
「え、なら、それじゃあ……」
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「結城紫苑、貴様に頼みがある」
「んー? なにー? 美少女の頼みなら喜んで」
「なら、私を今すぐ殺してくれ」
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「想定以上だった紫苑の強さに加え、俺がアーカイブを見れると知らずにヴェスパーの情報を喋ってしまうというヘマをやらかした。アリアは俺たちが大使館に食事しに行ったあの日、この作戦が失敗に終わると思っただろう。だから、アリアは目的を変えた」
「目的……?」
「あんたを救う。それ以外にねぇだろ」
「アタシを救うって……まさか! アリアはこれまでの事件の罪を全部被る気!?」
「今回のDDD崩壊作戦が失敗した場合のシナリオは2通り。1つは紫苑がエルフヘイムを滅ぼす。もう1つは当然、紫苑がエルフヘイムを滅ぼさないルート。アリアは紫苑と直接会って後者のルートに行くであろうと予測しただろう。さらに紫苑の性格上、アンリエッタを捕まえDDDに差し出すこともしないであろうとも考えていたはずだ」
「紫苑先輩は優しいっスからね。当り前っス」
レオナはドヤっているが、あいつがお前に優しいのは可愛いからだからな。
「それでアンリエッタが罪に問われなかったとして、そのまま作戦失敗でエルフヘイムに帰った場合、どうなるか。知らないわけじゃないだろ?」
「そ、それは…………」
アンリエッタは答えづらそうに口ごもる。
まず間違いなく、アンリエッタの王位継承権は剥奪されるだろう。
それだけならまだいい。
最悪の場合、DDDに今回の一件がバレる前にアンリエッタが独断でやったと罪を着せ、処刑する可能性だってある。
自分たちからこいつが悪いことをしようとしていましたとDDDにチクることで、私たちは何も知らなかったんですー、って感じで押し通そうとするだろう。
「あいつがレオナを選んだのは、別に貶める為じゃない。俺たちなら、アンリエッタの親友を助けられると踏んでいたからだろう」
「じゃ、じゃあ、アリアは罪を被って私を守る為だけじゃなく……」
アリアはアンリエッタとレオナを引き合わせるつもりでいた。
でも、それはただ見つけたと報告するだけじゃダメだったんだ。
アンリエッタがそのことを知ってしまえば、自分から今回の作戦を中断してしまうから。そうなると、処刑されるかもしれない未来が舞っている。
だから、作戦を最後までやる遂げようとしたが、紫苑に勝てず仕方なく負けてしまったという、建前が必要だった。
こうなれば、アンリエッタがエルフヘイムで裏切り者と後ろ指を指されずに済むし、失敗した責任はアリアがその命を持って償えばいい。さらに、アンリエッタは大切な親友とも再会することが出来る。
そして、アンリエッタがレオナと会うことは単純に生きていたことを知れてよかったというだけでなく、親友のレオナを貶めるようなことをアンリエッタがするはずないと思わせ、容疑者から外す狙いもあっただろう。
「だ、だが、アリアがいくら罪を被ろうとしても、アタシが自白したら意味がねぇだろ」
「するのか?」
「当り前だろ! これはアタシの責任だ」
「やっと再会できた親友を残してあんたは死ねるのか?」
「う……それは……」
アンリエッタが隣にいるレオナの方をチラッと見ると、彼女は少し寂し気な表情で俯いていた。
「じゃあ、どうすればいいんだよ! アタシに出来ることなんてもう……」
「俺たちに任せろ。あんたもアリアも死なせない」
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