政治家暗殺事件Ⅴ
さて、レオナをいじるのはこれくらいにして。
彼女の言うことを信じるのならば、レオナは犯人に嵌められたと言うことになる。
となれば、犯人はまだこの旅館にいる可能性が出てくる。
レオナを犯人に仕立て上げたいのなら、彼女が捕まる瞬間まで近くで様子をうかがっているはずだ。
黒柳議員が今日この宿に泊まることやレオナの事情などを調べたと言うことはそれだけ犯人は用心深く計画的な性格のはず。
それならば、最後まで計画が上手くいくところを間近で見たいと言う心理が働く。
とは言え、犯人に繋がる手掛かりが何もない。
ピュール反応はレオナの1人分だけ。となると、必然的に容疑者は人間ってことになる。
だが、今日この旅館に泊まっている人間は黒柳議員を除けば俺と紫苑だけだ。
俺は旅館のシステムにハッキングをかけ、顧客名簿を確認する。
そうなると、この旅館の従業員はどうだろうか? 彼らなら今日、黒柳議員が泊まることを知っていてもおかしくはない。
顧客名簿から従業員名簿に切り替える。
人間は……10人、多いな。
後はこの中からレオナの事情を知ることが出来る人物で絞り込むことが出来ればいいんだが、そううまくはいかない。
そりゃそうだよなぁ。一従業員がDDDの内情を知ることなんて出来るはずがない。
「なぁ、お前が黒柳議員の客室に入った時に何か違和感みたいなものはなかったか?」
ダメ元で一応レオナに聞いてみた。
俺が見た感じ証拠になりそうなものは何も残っていなかった。
後は先に入ったレオナだが、あまり期待は出来ない。
「ん~あんまり覚えてないっス。死体見た瞬間、気が動転していたっスから」
だよな。うんまぁ想定通り。
ここで何か有用な情報を得られるような子なら失敗続きのポンコツ少女ではないだろう。
「あ、でも、犯人の匂いはしたっス」
「なんでそんな事分かんだよ。犯人の匂いでも嗅いだのか?」
「だって、この手紙と同じ匂いしたんスもん」
「え、レオナそんな匂いの区別付くの?」
「はい。と言うか、私はそれしか取り柄がないっス」
「じゃあ、それ使えば犯人分かるじゃん。みんなの匂いを嗅いでいけば……」
「いや、それじゃダメだ」
俺は紫苑の案を否定した。
「犯人は分かるかもしれない。けど、証拠にはならない。それに一番の容疑者であるレオナの言うことを他の人たちが聞き入れるとも思えない」
「そっか~いい案だと思ったんだけどな~」
紫苑はがっかりと肩を落とした。
「それよりも同じ匂いってどんな匂いだ?」
「ん~嗅いだことない匂いだったから分からないけど、なんかの葉っぱ? ぽい感じの匂い。今もまだちょっと匂い残ってるっスよ?」
葉っぱ……もしかして!
「おい、その手紙ちょっと借りるぞ」
俺はレオナの手にある手紙をふんだくってARコンタクトで解析する。
「何するの?」
「この手紙に付いているであろう香水の成分分析だ……出た」
視界一杯に手紙に付着している匂いの全ての成分が表示される。
余分なものは削除。必要なのはあれがあるかどうかだけ。
「あった」
見つけた。これで犯人が分かる。
「伊織、なにか分かったの?」
「ああ」
俺は目の前に表示された成分分析表を消して、2人の方を見る。
「犯人は魔族だ」
「魔族? え? でも、ピュール反応は1人分、レオナのしかでなかったんでしょ?」
「そうっス。だから、私は困ってるんス」
「そう、ピュール反応は1人分しか出なかった。だから、魔族は1人しか入っていない。その先入観を植え付ける為に犯人はある植物の香水を使ったんだ」
「香水? それって?」
「ミントヴルムだ」
「ん? ミントヴルムって確かこの前、飲んだ紅茶の?」
「そう、そのミントヴルムだ。あれは100年前までは香水としても使われていたが、犯罪に使われる危険性があった為、製造が中止された代物だ」
「え、香水が犯罪に? どう使ったらそんなことになるんスか?」
「ミントヴルムの香水にはある効力があった。それは魔族特有の臭いを消すというものだ。つまり、その香水を使えばピュール反応は出ない」
「そっか、じゃあ、それを利用してレオナに罪を着させようとしていたんだね」
「これで犯人が魔族ってことが分かったっスね。……あれ? でも、この旅館に結構な数の魔族がいたような……あああああ!! これじゃ犯人がまだ分からないじゃないっスか!」
「安心しろ。犯人を特定する方法ならある」
「それってどうするんスか?」
「この旅館内にいる魔族全員のピュール反応を検査する」
「でもでも、犯人は香水でそのピュール反応が出ないっスよ!」
「それでいいんだよ。魔族でありながらピュール反応が出ない、そんなのはミントヴルムの香水を使った犯人しかありえない」
「よし、それじゃあ、それを警察の人に伝えてくる」
「あ、紫苑待った」
「何?」
「ついでに警察から借りて来てもらいたいものがある」
「借りて来てもらいたいもの?」
「ルミノールだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます