政治家暗殺事件Ⅵ

「伊織すごい! 本当に犯人捕まったよ!」

「で、犯人は? ヴェスパーの一員だったか?」

「まだ分かんない。この前の事件と一緒で何も吐かない」

「そっか」



 まぁ、それはある程度予想は出来ていた。



「それであれは? もらって来たか?」

「あ~はいはいこれね」



 紫苑はルミノールをポーンと投げて渡してきた。



「これどうするの?」

「こうする」



 俺は紫苑が借りてきたルミノールをレオナが持っていた手紙にかける。



「よし、ちょっと電気消してくれ」

「はいはい~」



 紫苑は電気のスイッチを押し消灯させる。

 電気が消え真っ暗になる中、手紙だけが発光していた。



「やはりな」

「これって……」

「え? なに? なに?」



 俺と紫苑は事情を知っているからこの意味が分かる。けど、知らないレオナは首を傾げていた。



「ここでもヴェスパーか」



 ルミノールに反応して手紙の裏面に浮き上がってきたのは「♀」の文字。



「予想はしていたが、これで確証を得た」



 普通の香水なら12時間もすれば匂いは消える。それはミントヴルムの香水も例外じゃない。

 だから、一昨日貰ったはずの手紙に香水の匂いが残っていることはない。

 だが、レオナが言うにはまだ匂いは残っているという。

 では、何故、匂いが残っていたのか。

 それはこの手紙の差出人がわざとその匂いを残した可能性があると言うこと。

 何故残したのか。それは、今は置いておこう。

 問題はどうやって残したのか。


 答えは簡単だ。匂いを吹きかけたのではなく、染み込ませたのだ、血を混ぜて。そして、その為の厚紙。

 血を使ったのが分かったのは、ヴェスパーが関係していると予想していたからだ。

 今回の事件で肝になってくるのはレオナだ。

 彼女クビを事前に知っている者、それがこの手紙を送った容疑者だ。

 失敗続きのポンコツ局員であることは、ハンドラーのコンタクトデヴァイスをハッキングすれば分かることだが、そこにはレオナがクビになると言った情報はなかった。

 もし、その情報を知っている者がいるとすれば、レオナ自身とハンドラー、そして、上司だけだろう。

 本来であれば。


 先日、起きたDDD本部襲撃事件。あれによってヴェスパーはDDDの内情を知ることが出来た。

 なら、彼らがレオナのことを知ってもおかしくはない。

 つまり彼らも容疑者に含まれると言うことだ。

 んで、奴らが関わっているかもしれないから試しに……って思ったが、案の定だったってわけだ。


 さて、次に動機の話をしよう。

 黒柳議員を暗殺した理由は何か。

 彼は反DDD派閥だ。DDDにとっては目の上のたん瘤。


 だから、レオナの上司であるDDD局員またはハンドラーが暗殺した?

 いや、それはない。DDDの為だと言うのなら、これは逆効果だ。

 犯人の思惑通りに事が運んだとしたのなら、DDD局員であるレオナが黒柳議員を暗殺したことになる。そうなれば、世間からのバッシングは避けられないだろう。

 DDDの首を絞める羽目になる。


 では、個人的な恨み?

 確かにその可能性もあるだろう。だが、現段階ではそれは判断できない。

 だから、俺は現段階で判断できる推理を打ち立てた。


 それはDDDの崩壊。

 恐らくヴェスパーの目的はそれだろう。

 さっきも言ったが、黒柳議員をDDD局員が暗殺したと知られれば、DDDの社会的信用は地に落ちる。

 スケープゴートとしてレオナを選んだことからも、その可能性は充分ある。

 それだけではない。


 彼らがこれまで関わってきたとされる事件。

 DDD本部襲撃事件。エルフ王女誘拐事件。どれもDDDが関わっている。あ、能力者狩り事件もそうか。攫われた樹斗はDDDの関係者だったしな。

んで、どれも世間に知られれば、DDD信用を失うようなものだ。

 エルフ王女誘拐事件に関して言えば、俺たちが関わっていなければ、他世界の重鎮を警護出来ずに誘拐された無能のレッテルをDDDは貼られていただろう。

 これらのことからヴェスパーの目的は一貫してDDDを貶めることだと言うことが分かる。


 正直、面倒なことに巻き込まれるのはごめんだ。

 だが、今回ばかりはそうも言っていられない。

 敵の狙いがDDDの崩壊ならそれはつまり紫苑が無職になるということ。

 それだけは絶対に避けなければならない。俺の生活の為にも。

 それに自分の可愛がっている後輩が事件に巻き込まれたとなれば、紫苑のやつは黙ってないだろうしな。

 とはいえ、現状で推理できることなんてたかが知れている。

 今欲しいのは情報。

 なら、あそこに行くしかないか……。



「ん? 伊織どうしたの?」



 俺の視線に気づき、紫苑は目線を合わせる。



「いつものとこに行きたい。頼めるか?」

「うん、いいよ。じゃ、スーツに着替えないとね」

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