政治家暗殺事件Ⅳ
「なるほど、DDD局員のレオナ・ハイルディンか」
聞いたところによるとレオナは今年DDDに入ったばかりの新人で紫苑の後輩なのだそうだ。
なんでも昔、紫苑に命を救われたことがあるらしい。
その時から紫苑に憧れ、DDDに入ったらしい。
けど、妙だな。
DDDはセントラルの機関だ。人間以外の種族は特別な事情がない限り入ることは出来ないはずだったが……。
「うわあああああん!!! 助けてくださいっス!!!!!!」
そして、そのレオナは紫苑に泣きついていた。
「うんうん、よしよし」
それに対し紫苑は嬉しそうな顔をして彼女の頭を撫でていた。
獣人とは言え彼女も紫苑の可愛い部類に入っているのだろう。
「んで、なんで急に逃げたりしたんだ? あれじゃ、犯人だと思われても仕方ないぞ」
「う~ん、それは……って、あなた誰っス?」
「そう言えば名乗ってなかったな。俺は東雲伊織」
「東雲さん、っスか。え? なんで、この人と紫苑先輩が一緒に旅館に……え? え? もしかして、あの、そう言うご関係なんスか?」
多分なんか誤解してるけど、まぁ別に大した問題じゃないだろう。
「紫苑先輩が認めると言うことは実は物凄い人? でも、東雲伊織なんて名前聞いたことないっス。DDD局員なんスか?」
「いいんや」
「じゃあ、何してる人なんスか?」
フフフ、待っていたぜ。その質問を。
今までなら無職としか言えなかったが、今の俺にはアンリエッタから貰った素晴らしい職がある。
「俺は探偵さ」
「探偵……探偵!? それってあの探偵スか!?」
「そうだ」
「見た目は子供、頭脳は大人の?」
「そうだ」
「じっちゃんの名に懸けての?」
「そうだ」
「ふ~じこちゃ~んの?」
「それは違う」
この子、よく古典漫画知ってるな。好きなのか?
「すごい……探偵って実在してたんスね……」
「そんなことより、なんで逃げたんだ?」
「あ~……それはっスね~……」
レオナは気まずそうに視線を逸らした。
「別に俺はこのまま警察に突き出してもいいんだが、一応、紫苑の後輩ってことで話だけでも聞こうと思ったんだけど?」
「分かったっス! 言うっス! だから、警察は待ってくださいっス!」
「じゃあ、ほら、なんで逃げたか言え」
「それは……その……さっき鑑識の人がピュール反応出たって言ったじゃないスか?」
「言ってたな」
「多分それ、私なんス」
「なるほど、つまり、君が犯人だと」
「違うっス! やっぱりそうなるじゃないっスか! だから言いたくなかったんス!」
「でも、言わなくても、警察が調べれば一発で分かるぞ?」
「っう!」
レオナは何も言い返せず言葉に詰まった。
「ねぇねぇ、そのピュール反応? って何?」
「お前マジか」
この人、ホントにDDD序列第1位なんですか?
え、大丈夫? DDDの人材不足してるの?
「それってそんなに有名なの?」
「一般常識だ」
「えぇ~でも私知らな~い」
うぜぇ。その間延びした言い方マジでうぜぇ。
けど、こいつの今後の為にもピュール反応は教えておかなくてはいけない。
「まず、最初に確認しておきたいんだが、魔族には特有の臭いってのがあるのは知ってるか?」
「馬鹿にしないでよ。それくらい知ってるよ! あれでしょ? 魔族の体臭にちょっとだけ魔力が混じってるってやつでしょ?」
「そうだ。それ故に魔族には特有の臭いがある。と言っても人間である俺たちには分からない。獣人くらい鼻がよくなければ違いなんか分からない。けど、ちゃんと調べれば声紋や指紋のように臭いで個人を特定することが出来る」
「あ、もしかして、それがピュール反応?」
「そうだ。つまり、さっき鑑識が言っていた1人分のピュール反応とはその部屋に魔族が入ったと言う証拠になる」
補足だが、ピュール反応は魔族にのみ有効で人間であればピュール反応は出ない。
「なるほど、それじゃあそのピュール反応がレオナだってことは、レオナはあの部屋に入ったの?」
「そうなんス……このままじゃ私、犯人にされるっス」
「犯人じゃないと言うが、じゃあ、なんであの部屋に入ったんだ? 黒柳議員の知り合いって訳でもないんだろ?」
レオナはDDD局員だ。だから、DDD嫌いの黒柳議員が彼女と知り合いで、2人で会っていたなんてことはないだろう。
「一昨日の夜に手紙を貰ったんス」
そう言って、レオナは封筒からその手紙を取り出し、俺たちに見せる。
厚紙? 手紙にしてはやけに丈夫な紙を使っているな。ま、今はそんなことどうでもいいか。
「ふむふむ」
手紙には色々と書いてあったが要約すると以下の通りだ。
レオナはDDDの仕事が失敗続きでクビになるギリギリの状態だった。
手紙の主はそのクビを取りやめる条件として、黒柳議員から重要書類を盗み出す依頼をした。
その盗み出すタイミングは今日の夕刻、旅館の客室内。
出来なければ、DDDはクビになる。
とそのようなことが書き綴ってあった。
「お前、この手紙の内容信じたのか?」
手紙を読んで一番にそう思った。
レオナがクビになるうんぬんは置いておいて、その手紙の主が誰かも分からないのに、どうしてこんな依頼を受けようと思ったんだ?
「だってぇ、だってぇ、クビになるかと思ったら、やるしかないって思ったんスもん。こんなんになるなんて知ってたら、来なかったスよ」
一応、この手紙の真偽を確かめる為に、レオナについて調べてみる。
「あの、東雲さん? 何をしてるんすか?」
俺は仮想PCをいじっているのだが、それを知らない人から見るとただ手をわちゃわちゃしてるようにしか見えない。
「お前について調べている。けど、ほ~ん、本当に落ちこぼれなんだな。DDDに入って受けた依頼は全部で7つ。その全部失敗か。依頼成功率0%はクビになっても仕方ないな」
「ってな! 何調べてるんスか!」
レオナは俺が調べられないように手を振って俺の視界を邪魔するが、そんなことをしてもレオナの情報が書き換わるわけでもない。
しかし、変だな。
こいつがDDDに入った経緯についての情報が全くない。
獣人だから特別な事情で入ったんだろうけど、その辺の情報が何一つ残っていない。
気になるが、まぁ今はいいか。
「と言うか、どうやって私の情報調べたんスか!」
「ハッキング」
「ふぇ? ハッキングって、DDDのアーカイブにっスか!?」
「ばーか。そんなことできるわけないだろ。DDDのアーカイブ舐めんな」
「じゃ、じゃあどうやって?」
「お前のハンドラーのコンタクトデヴァイスをハッキングしただけだ」
「だけって……犯罪なんスけど!?」
「バレなきゃ犯罪じゃない」
「うわ……この人ホントに探偵なんスか?」
「お前、探偵ってのを知らないな? 合法的な方法だけで調べるなら警察で充分だ。警察が出来ない方法でやるからこそ探偵の意味があるんだ」
「それ言っても、犯罪なのには変わりないじゃないスか」
「ほほ~う。そんなこと言える立場なのか? お前をこのまま警察に突き出してもいいんだぞ?」
「すみませんでした。私が悪かったです」
レオナは秒で土下座した。
あまりの速さとその綺麗な土下座にやり慣れた感を感じた。
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