第6話
そしてその左手奥に時計台があった。洋館風な二階建ての建物で古そうな木造であったが、全体に塗られた白は写真のように鮮明だった。頂点の大きな時計は街のほうを向いていた。この街はあの時計盤に絶えず凝視されていて、だからあの時計版はこの街のほとんどどこからでも見て時間を確認することができる。
その時、突如友人と私とを鐘の大音量が打った。私たちは身体を固くして同時に時計台を見た。時計台は五時零分を指して、間延びする轟音を街の隅々まで浸透させた。私はこの古びた脆弱げな建物が恐ろしくてたまらなくなり、次の瞬間には憎らしくてたまらなくなった。
私は友人のほうを見た。友人は下を向いて座り込んでいた。この時計が、姉を殺したのじゃないか。
この時計が、鐘を打って、自分の時間を見せつけ続けていたのじゃないか。姉はこの街に殺されたんだ、この時計に殺されたんだ。姉は懸命に生きようとしていたのだ、この街で一番、いやこの世の中で一番懸命に生きようとしていた。だからこの時計に殺されたのだ!
私は時計台へ向かって走った、時計台は三回目の鐘を打っていた。私は恐ろしい音のほうへ走った。私は恐ろしかった。正面にひとつある入り口はガラス張りの両開きで一見して鍵がかかっていなかった。私は走った勢いでそこから転がり込むようにして時計台の中へ這入りこんだ。
すぐ目の前に階段があった。左右に部屋が一部屋づつあり、どちらもちょうど学校の教室の半分程度の広さだった。どちらの部屋も西日の直射の陰になって薄暗かった。時計台の内部はほぼ完全なシンメトリー(左右対称)であった。私は階段を駆けあがった。時計本体を目指していたのだ。
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