第5話
「あの」いきなり後ろから肩をたたかれた私と友人とが振り向くと、眼鏡をかけておでこを出した女子が私たちを見下ろしていた。私たちが応ずる言葉を見つけかねているとその女子のほうから口を開いた。「ここではあまりお話ししないようにお願いします」私たちは平謝りに閲覧した図書を返却して、図書室を出た。とにかく行ってみなければならないだろうということになった。
16時30分に放課になって、友人と私は廊下で落ち合った。夏になりかけたころのことで、夜までの猶予は多少あったが、それでももう日は大きく傾いて黄色がかっていたから、私たちは道を急ぐことにした。駅のある街の中心部へ向かうほとんどの生徒と逆方向に私たちは歩き出した。
この地方に多い絵入りの看板のかかった木工工芸品の工房とか小規模な豆腐や醤油の食品加工工場を過ぎて、山に近づいてくると山の斜面に広く墓地がある林寂寺(りんじゃくじ)が見えてきた。この辺りにはお墓参りで来たことがある。ここからさらに奥の山のほうへ進むと、時計台があるのだ。歩いていくと、二階建ての市営団地の建物がいくつか立っている。昭和後期の、長方形の白い建築は西日をあびて骸骨のような寂しさで、なんとなくそれ自体特殊な形態の墓碑に連想された。
私と友人とは、夕方の坂を上った。舗装された道路が途切れ、高い樹木が両側から迫る林の中の道へ入った。二人は汗をかきながら無言で歩いた。私は、姉も死ぬ前にこの道を歩いただろうかと考えていた。
林の中の道を数度曲がって、少し不安になってきたころに、突如野球のグラウンドほどの広さの空き地が登場した。山の中にあるこれほどの平らな空き地は少しばかり酔狂な光景だった。初夏の植物の勢いでまばらに腰の高さほどの草が伸びていた。
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