第54話 ズッキューン【千草】
卵と鶏肉と言ったら、普通は親子丼よね?
今、私の前にはオムライスが登場している。
綺麗な、きっと薄く焼いた黄金色に輝く卵を巻いた、上品なオムライスがデミグラスソースの海に浮かんでいるの。
「なんだよ、一樹、比内鶏なんだから、から揚げとかにしろよ」
って翔君が怒ってる。
いや、この場合、料理を作った一花さんに文句を言うべきではないのかしら。
「うるせーな、一々文句言ってんじゃねーよ、嫌なら食うな、お前の分も俺がもらうぞ」
さすがに教育者。いい事を言うわ。
でも、なんで高根先生まで、ここでご飯を食べているのかしら?
それを言ったら、私も例外ではないのよね。
翔君に誘われるがまま、ついてきたら、この数藤さん夫妻に夕飯をお世話になってしまっている。
私としては、二人で、そうね、ファミレスとか、翔君だから、ラーメンとかでもよかったのだけれども、どうしてなぜにこうなってしまったのか不思議でならない。
そんな、急にやってきてしまった私に文句の一つも言わずに、
「いらっしゃい、翔から聞いてるから、ゆっくりしていってね」
と、旦那様の一樹さんに言われてしまう。
翔君とは親友の仲って事は知っているから、ここは好印象を与えたいなあ、なんて思ったわ。
それにしても、隅の方にいる中学生っぽい女ん子は誰なのかしら?
妹さん?
たまに私に向く視線が強いのって、気のせいよね?
「先輩、おかわりありますかえら、沢山食べてくださいね」
すっごい大人な笑顔で言われてしまう。
先輩、後輩なんていう小さな年齢差なんて軽く吹き飛ばす既婚者の余裕なのかしら?
「でも、部活で一番仲のいい人って、先輩女子なんて以外」
と一花さんは言うの。
そこ辺はね、無理もないのよ。
翔君しか槍投げしている子はいないし、能力もずば抜けて高いし。先生も自由にやらせてる感じがするのよね。
だから、周りから見ると、孤高の人に見えてしまう。
そして、そんな事を一切気にしないで自分のペースで行動する翔君って、やっぱり魅力的なのよね。
でも、本当に美味しそう。
一花さんもがっついて食べてる。本当にオムライスが好きなのね。
その一花さん。
「翔の事、好きなんですか?」
口にデミグラスソースをつけたまま、まるで私をのぞき込む様に聞いてくる。
思わず、最初の一口を、手に持ったそのっスプーンを落としそうになる。
「一花!」
隣の旦那さんが怒る。叱ってくれる。
でも、どうしてか私は、その時、不思議な強い感情が出ていたの。
だから、
「そうですよ」
って言っちゃったのよね。
あれ? あの隅の中学生さんからの強い視線が無くなった感じがするわ。
どうしたのかしら?
私は反応を見る。
翔君が、今の言葉でどう受け止めてくれるのかを、彼の言葉でなくていい、少しの反応を見ていたの。
すると、また一花さんが、
「でも、翔って私が好きですよ」
びっくりした。私が鳩として豆鉄砲を食らった。
そしたら、翔君、
「お前、そういうことは人前で言うなよ、恥ずかいしだろ」
どうしてここで照れてるの? バカなの?
思わず、私、旦那さんを見てしまう。
普通にご飯を食べてる。まるで反応していない。その隣の鮫島さん、ちょっと距離が近くないかしら?
ちょっとおかしな人間関係なのかなあ、と思いつつ、無意識の食事をとろうとする本能が、私の口の中にオムライスを入れたの。
ズッキューン!!!!
え?
何これ?
美味しいんですけど?
感情どころか、体がもっていかれたきがするんですけど。
「すごい、一花さんの料理」
思わずつぶやくと、翔君が言うの。
「なにいってるんですか、三枝先輩、これ作ったの一樹ですよ」
ほえ?
おいしさのあまり、だいぶ大脳新皮質をやられてる私は、きっと真っ白な心で、旦那さんを見てしまったの
。
「お口にあってよかったです」
ズッキューン!!!!!
「一樹のオムライスすごいでしょう?」
ズッキューン!!!
「豚肉生姜焼きもうまいぞ、あたしの大好物だ」
鮫島さんのそんな言葉にすら、ズッキューンが止まらなの。
「お前ら、課題出てるんだかな、早めに帰ってやれよ」
ズッキューン!!!
「一花ちゃん、この律子先生が、またオムライス食べに来たよ」
ズッキューン!!
ああ、もう、なにがなんだか……
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