第52話 いつもと変わらない毎日ご飯 【一樹】
イワシの刺身
イワシの大根漬け
イワシのフライ
イワシの梅干し煮
イワシのカルパッチョ
今日はイワシ尽くしだ。
もう、新鮮で油も乗っててうまい。
ちょっと、握りも作ってしまおうかと画策してる。
今は学校とか大変みたいで、連日連夜先生たちは会議してるみたい。
おかげで、今僕たちは連休になってる。課題は出されてるけどね。
家でゆっくりできた。
夕方からはずっと台所にいる。
で、
「一花、何かリクエストとかある?」
って聞いてみると、
「ツミレの吸い物が飲みたい」
って言うから、ああ、そっか、それもあったね、って、さっそくネギと生涯を準備してすり棒とすり鉢も準備してと……。
細々と動いている僕の後ろに、すっと座ってる一花。
何も言わないし、なにかをしてくる訳もない。
ただ黙って、僕の、それほど近くも無い距離で座り込んでる。
居間に行けば優も律子先生も、翔も、美子ちゃんもいるのに、ずっと僕の後ろで何をするわけでも無くて、だからと言って寄り添うって思うと、
「大丈夫、普段のままでいいから」
って離れるんだよね。
律子先生には、
「好きにさせてあげな、それほどダメージは無いから、君見て落ち着きたいんだよ」
とか言われてるけど、正直言って気になるよ。
だから、今日は二人っきりにする?って聞いてもさ、「みんな一緒がいい」っていうんだよね。
まあ、一花が良ければいいんだけど。
きっと、適切な距離ってのが必要なんだろうなあ、って思うけど、料理ができた皿を取りに来る優と翔、たまに美子ちゃんがぶつかったり躓いたりしないか心配。
横においでよ、って言うんだけど、それは嫌みたいなんだよな。
理由は言ってた。
「邪魔になる」
いいのに別に……。
一花が近くにてくれるのは僕もうれしいから、動きづらくても、たとえぶつかっても、それを含めて楽しいんだよね。
でも一花としては、
「テキパキ動く一樹見てると安心するの、ここは日常で、いつも通り、それに一樹は私を邪魔にしないから、ここでいいの」
なんかかわいい事いってるなあ、って思いつつも、一花が弱ってるから心配になる。
それにしてもさ、なんで直塚は人の嫁にちょっかい出すかな?
殺されたとは言え、白井先生も同情できない。親はかわいそうだと思うけど、ちょっとあんまりな気がする。
喜びも悲しみも、口惜しさも、殺意に変わってしまう恨みや辛みも、それは感情の起伏として、刺激を伴う遊びではない。
自分が楽しみたいからと言って、人を玩具にしていい道理はない。
僕たちは、普通に幸せにやっていきたいだけなのに、どうもこうも、外側からちょっかいをかけられることあ多い。
直塚先生は極端な例だとしても、ただ普通に穏やかに生きるって、難しい事なのかなあ?
少なくとも僕は、彼らの様には生きられない。
まして、自分さえコントロールできないのはみんな一緒なはずなのに、自分手前を中途半端にしながら、他者に対して影響を与えようなんて、あまつさえ思いのままに操ろうだなんて、正気の沙汰じゃないよ。
深い、深いため息が出る。
「ほんと、嫌になるね」
一花が言うんだ。
「僕らには関係ないさ」
強がりでもなく僕は言う。
本当の事だからね。
さて、だいたい出来上がったなあ、って翔呼んで配膳の準備をしようかな? ってタイミングで、一花が後ろから抱きしめてくる。
後ろからの一花って、なんかかわいい。
いつもみたいにエロくないもの。
「ご飯を食べよう」
「ん」
短い返事が僕の背中で、暖かい一花の生の息に乗って、じわっと僕の背中に広がる。唇を押し当ててる。
くっつきたいってわけじゃないのはわかるけどさ、やっぱり僕もおかしなテンションになってるんだよね。
やっぱり、身近な人が死んだりするのは、それなりのダメージがあるんだなあ。って思う。
好きでも嫌いでもない。
特に恩も恨みもない。
ただの知り合い。
親が死んだときの方が幾分軽かった気がする。
あの人たちは自業自得だから。
あ、今回もそうだ。
一花がそっと離れる。
「翔と優を呼んでくるね、ついでに何か持ってく」
と言って、イワシのカルパッチョを乗せた大皿をもって行く。
僕も、御櫃をもって居間に行くと、あれ? なんだろう? 一人多い?
「お前の飯、旨いんだってな、ちょっと食わせろよ」
あれ? 今日はあの事件の為に、教員は会議している筈?
なぜここに高根先生が?
だれが呼んだのかな? 普通に、当たり前の様に座っているぞ。
まあ、いいけど……。
ひとまずテーブルに着くと、玄関から律子先生の声。
まあ、いつも通り。
誰が死んでも、何が起こっても、ここは変わらないなあって、いつも通り。
思わず一花と顔を見合わせてしまったよ。
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