第46話 今からお前お妻を口説くから、な。【淳】

 世界ってどうやって出来ているか、知っている奴はそういない。


 だろ?


 もちろん、俺は知ってる。


 仮にも教師だかな、知らないとどうにもならない。


 じゃあ、答えな。


 世界は、表面出来ているんだよ。


 わかるか? 表面だ、面、表向きだ。


 わからんか?


 そうか。


 じゃあ、簡単に説明してやろう。


 お前が見ているのはなんだ?


 そう、俺だな。


 正解だ。すごいな、意外に頭がいいじゃないか。先生、びっくりしたぞ。


 つまり、俺は表面ということになるだろ?


 え? わかんない?


 正解したじゃないか。どこで答えを見失った? ちょっと先生に説明してみなさい。


 先生と表面がつながらない?


 ああ、そうか。そうだな。


 つまりな、お前は俺の表面を見てるだろ?


 そう、表側だ。つまり上っ面って事だな。結局人は、人の中身なんて見れないんだよ。


 でなきゃ、世に舞うアイドルはみんな可愛いだろ? あれって表面だよな?


 え? ちょっとひどいのもいる?


 お前さ、自分の妻がちょっとかわいいからって、だいぶ調子にのってるよな?


 いや、そこは否定するなよ。


 お前の奥さん、美人だよ、あれは大したもんだ。


 まあ、俺に言わせると、女の子はみんな美人だけどな。


 だってそうだろ?


 醜い女性なんてこの世界のどこに存在しているっていうんだ?


 お前、割とひどい奴だな。


 いいや、いいぞ、俺は正直な奴は好きだ。


 つまり、あれだろ、お前は自分の妻以外は全部、かわいくないって言いたいんだな?


 すごいな、お前、何様だよ?


 自分の価値以外はみとめないってか?


 酷いな、なんて悪辣なんだ、ちょっと見直したぞ。


 さすが既婚だと高校生男子でも違うな。俺とは話は合いそうだ。


 大人じゃんかよ。


 決めつけって大事だからな、そういう生き方は大事だ。キャパなんて小さくていいんだよなあ。


 いや、俺さ、お前の奥さん、口説こうとしてたんだけど、ちょっとものの見方が変わったなあ。


 うん、いいよ、お前。


 でもなあ、ちょっと口説いてしまってな、今、ここにも呼び出しているんだよ。


 悪いな、俺、モテるからさ、いや、お前も俺くらいの年齢になればいい線行くと思うぜ、ここは、今で、そこは、経験だからな。


 悪く思うなよ、俺にも俺の都合ってのがあるかな、まあ、一応は口説けって言われてるんだけど、その後はどうするかなんて、流れだからな。


 悪いのは口説いた俺だけじゃないぜ、それに乗るお前の奥さんも悪いんだ。


 え?、一応は婚姻関係だから、ひどい目にあうって?


 あれか?


 慰謝料とか、そういんだろ?


 そこは心配するな、まさか女子高生が結婚しているとは思わなかった、って言えば、支払いの義務はなくなるんだ。

 

 え? 今、言ったからアウト?


 しまった。


 そうだな。言ってたな俺。


 いくらくらいだ?


 今はバイク買っちまったから、貯金、12万円くらいしかないんだよな。


 え? 貯金はしてるぞ。


 大事だぞ、貯金、お前、母さんに言われなかったか?


 え? お前、お母さんに貯金を使われた口なの? お小遣いとか、お年玉とかコツコツ貯めた奴を持ち逃げされたって?


 マジか……。


 そりゃあ、なんて言ったらいいか……。


 え? 気にしてないの?


 なんかさ、大人だなお前。


 ちょっとお前の女房を口説くのって、申し訳ない気がしてきたぜ。


 でも、まあ、許せ、俺も立場ってもんがあるんだ。恩とかな。


 で、お前の奥さんが俺に夢中になっても一過性のものだからな、俺、こんなんだから長くは続かないんだよ。


 ちょっと安心したか?


 でも、やることはやるからな、その辺は覚悟した方がいい、俺、結構テクニシャンだからさ、人妻にモテるのよ。


 お、そろそろ来るぜ。


 俺は、あの時女子生徒と一緒に座ったベンチで、旦那と一緒にその妻を待った。


 この辺は定石、いきなり知らない男一人じゃ、奥さんも来にくいじゃないか。


 だから、こうして、徐々に安心をそいでいくってそんな計画だ。


 軽い足音が聞こえる。


 俺たちは彼女の到着を待つ。


 息を弾ませた彼女は俺を見るんだ。旦那じゃなくて俺を見てるってのがポイントだ。


 そして、彼女は言うんだ。


 「あの、先生、私になにか用ですか?」


 ここで、なんと、旦那は笑顔でベンチから立ち上がって、挨拶もしないで、にこやかに去ろうとする。


 え? 自分の奥さんなのに、俺に気をつかったのか?


 まだ、あいつ高校生だろ? なんだ、その器の大きさは?


 驚愕をよそに彼女は言う。


 俺の横の旦那を見ながらだ。


 「こんにちわ、一樹さん、いつも一花さんにはお世話になってます」


 綺麗なお辞儀だ。


 ん?


 一花さんにお世話になってるこいつは一体誰だ?


 本人は本人にお世話になってるなんて言わないよな?


 お、おい一樹、どういう事だよ?


 え? じゃあ、僕はこでで? 


 まいったな、この子、一体、誰なんだよ?


 綺麗でかわいいな、メガネも似合ってる。


 ってか、俺、こいつに声かけてたっけ?


 まいったぜ、女子高生なんて、みんな同じに見えるからな。みんな綺麗で可愛いだろ?


 こいつ、数藤一花じゃないのか?


 確か、メガネはかけてなかったような……。


 なんで自分が呼ばれたかって?


 いや、ほら、悩みとかさ、あるんじゃないかって思ってさ、個別に訪ねているところさ。


 苦し紛れに訪ねてみたら、堰を切った様に話始めるメガネっ子。


 もう、うん、うん言いながら聞いてるしかないじゃん。


 人は見た目っていうけどさ、それだって本当の姿なのかどうか……。


 でも、まあ、それをあてにするしかないんだよなあ。


 たぶん、この子、背とかで悩んでるのかな?


 いいぜ、聞いてやるよ。


 


 

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