第43話 ライバル? いえ、些末な存在です 【翠】

 その日、私、空を見上げるみたいに、張り出された順位表を見つめていた。


 私、目が悪いの。


、背も低いの。


 だからこんな精一杯な形になる。つま先立ちなってる。


 何度見ても順位は変わらないのね。


 また負けた。


 廊下に張り出された学力テストの順位。


 ついこの前まで、真ん中くらいの順位だった彼女が、このところ急に成績を伸ばしてきている。


 数藤一花。


 この校内なら誰もが知る人物。


 この学校の中で唯一の既婚者。


 愛だの、恋だの言ってる奴に、私はまた負けた。


 今回は、数藤さんがトップになってる。


 結婚すると成績が上がるのかしら?


 なにか秘訣でもあるのかしら?


 それとも政府の言いなりになって、早期未成年婚した生徒には、前もって試験の内容でも伝えているかしら?


 確か、税金の面とか生活の面とかで、優遇を受けているらしいですからね。


 人から聞いた話。


 つい最近、彼女を守る為に国家権力が発動したって噂。


 この静かな町が、警戒する国家権力で埋め尽くされたって話。


 確かに、最近、やたらとスーツ姿の強面な人が多かった気がする。


 中には、私の家の前で、アンパンと牛乳を召し上がってる人は見た。母の話によると、他の人はランチパックだったって話なの。


 私の家の前にはアンパン食べてる人だって。往年の刑事ドラマか? 砂の器かよ、って感じで思わず自分の部屋から見ちゃった。


 結構イケメンだったかも? よく顔は見えなかったけど、私、目が悪いから。


 つまり、なにを言いたいかって、だから、彼女、数藤一花さんって、きっと上級国民なのよ。


 だって、国家権力を動かしてしまうんだから、きっと早期未成年婚をしたことで、彼女は特別な存在になってしまったの。


 彼女に勝つためには結婚するしかないのかもしれないわ。


 本当に勝てない。本当に、このところ敵う気がしなくなってる。


 月2回ある学力テストで、このところずっと負け続けている。


 今度こそ、今度こそって思うってはいるし、こうして順位表が張り出される瞬間まで自信もある。今度は勝ったって、そう思う。


 でも、いつも結果は惨敗。


 私が点数を上げると、彼女も点数を上げるの。


 速度の変わらないインパラが追いかけごっこしてるみたい。


 インパラって、鹿みたいなサバンナにいる子よ、いつもライオンに食べられてる。


 あ、追ついっちゃってるわね。だから違うわね。


 本当に嫌になるわ。


 成績良いし、運動神経もいいみたいだし、あのボクシングの鮫島優様とも友達だし、そして既婚者なのよ。いっつも余裕、みたいな感じで私を見下しているのよ。


 どうせ私の事なんて、ちびでメガネのちんちくりん、って思ってるよ。


 少しくらい綺麗だからって、もう普通にほほ笑む笑顔なんて、あんた、マリアかよ? 聖母様か何かな分け? そんな天辺も突き抜けそうな上級女子って、なんなの? 先生ですら色香に迷わすって、もう、かっこよすぎて、憧れるしかないわよ、絶対に届かない完璧超人じゃない。


 ホント無理。


 住んでる世界が違う。同じクラスだけど。


 もう、今日は帰って勉強しよう。


 そうするしか、心の持って行きようが無いわね。


 「すごいですね、6位ですか……」


 不意に声がかかるからびっくりする。


 その声の出元は、私よりも高い所、頭一つ分くらい。


 そこには完全無欠のお嬢様がいた。


 「あ、」


 って間抜けな声出しちゃった。


 綾小路 瑞穂さんが、私と並んで順位表を見ていた。


 「こんにちわ、万代ましろ みどりさん」


 これはヤバい。


 またも、上位国民が現れた。


 綾小路さんって言ったら、家電から軍産複合体まで手をかける、その一族には大物政治家もいるって言う、なんで、こんな地方の学校に来てるのよ、ってそれは何度か営利誘拐をされそうになっているから、警備のしやすいこの学校に入ったっていう事情はあまりにも有名な話。


 そんな、お嬢様が、御上な人が私に語りかけてくるなんて、私なんて、特に面白くもない眼鏡小市民ですから。


 本当に、無理。


 こうなったら、今日は徹夜で勉強して心を穏やかんにしよう。


 苦手な科目に夢中になるの。


 ああ、頑張ろうって、そう心を穏やかにしようとしているのに、今度は綾小路さんとは逆の隣から声が私の耳に降臨されるのよ。


 「万代さんって、苦手科目ないよね、一体、どんな勉強の仕方してるの?」


 この声……。


 何度も聞いてないけど本当に鈴みたいに鳴る。


 私は勇気を出して、その人物を見たわ。


 私の横には、かの数藤一花さんがいたの。


 なんて事、私、今、上級国民に挟まれてしまっている。


 あ、ということは、私も裏返って上級国民になるのかしら?


 そんなバカなって思いながらも、上品を意識して、私を挟む二人に微笑んでみる私がいたの。


 

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