第33話 明るく優しく満ち足りた世界
結局、一花の話を統合すと……、僕は食卓の前で、そんな考えを巡らせていた。
たいして思いも巡ることもなく、それで綴らに考えていると、
「結婚してる奴はモテるって事なんだな」
と翔がしたり顔で言った。
今日も、こいつは家でご飯を食べてる。
すごい量を食べるんだよなあ、翔。体もでかいし、部活頑張ってるし、僕の作ったご飯をおいしそうに食べてくれるのはうれしいけど。
あ、食費はかさまない。
なにかと、うちでご飯を食べにくる翔と優なんだけど、二人の親がさ、実家は農家らしくれ、翔からはお米を、優からは野菜を、時にはん十万するくらいの高級お肉やら魚介類が送られてくる。
年末は決まって優のお母さん方の祖母からカニとどくしね。
この二人のおかげで、うちの食卓は豊かなんだよ。
で、さっきの言葉にさ、
「なんだよ、そいう事なんだな」
って優が反応している。
そして、
「人妻ってモテるって事だろ? 一花の嫁なら、そりゃあそうだよな」
って納得してる。
いや、僕、嫁じゃないし、まして人妻でもない。
「おかわりでしょ?」
ってからになった翔の茶碗をもぎ取って、おひつからご飯をもって返す。
「あ、おう、ありがと」
って、翔もうれしそうだ。
いっぱい炊いたからね、沢山食べるといいよ。
「なあ、一樹」
って急に優が声をかけてくる。
「なに?」
「あたし、明日から遠征なんだよ、近くだけど、例の大学に行ってくる」
って、優には珍しく、ちょっといい方にも、その表情にも陰りが出てる。
きっと不安なんだと思う。
自分よりずっと年上の先輩に囲まれて練習する訳だから、特に、すでに推薦を受けてるその大学は女子ボクシングに力を入れてるしね、強い人が多いみたいだ。
ちょっと優はモジモジしながら、何かを待ってる感じ。
ああ、そうか、わかったよ。
「じゃあ、頑張ってきてよ、ケガとかしないようにね」
って最後は心配になっちゃったけど、一応は応援したつもり。
そしたらさ、優はニンマリといい笑顔になって、本当にうれしそう。
あ、っと思って一花を見てしまう僕。
よかった、一花も喜んでる感じ。
そんな一花、
「あ!」
って驚いた顔して、立ち上がって、リビングの窓を開ける。
そして、外を一見して、急に玄関から外に出て……。
すぐに戻って来る、
「ああ、ごめん忘れてたわ」
って、おそらくは僕をストーカーしていたであろう美子ちゃんを連れてきてた。
ごめん、気が付かなかった。
僕が最後に外に出ていたのは買い物してからだから、かれこれ2時間は外にいたってことになる。気が付かなかったよ、女子中学生を日も暮れた時刻に、家の敷地内とはいえ、外で立ちん坊させてたよ。
で、一花が迎えに行く。
僕のストーカー(この言い方にもだいぶ慣れて来た)だから、ホントなら僕が迎えにいかないんだけど、美子ちゃん、僕が近づくと逃げるんだよね。でも一花の言うことは素直に聞いてくるんだよ。この辺の心境が僕にはわからないけど、いつもの席にストンと座って、一花に配膳されると、スマホで写真を撮った後に食べ始める。
その後、心配した美子ちゃんご両親から電話が、なぜか一花にかかってきて、家に中にいること、ご飯を食べさせていることなどを話して、何時頃迎えに行けばいいのかなどの質問に答えて、一応、美子ちゃんに、「いつも通りの時間でいいの?」なんて聞いて、頷く美子ちゃん。
で、いつものメンバーがそろったなあ、なんて思ってると、玄関の戸がガラガラっと開いて、
「お邪魔します!」
って入ってくるのは、自分で飲むためのビールを数本持っている桜川律子先生だ。
ちょっと前に、一花が招待して以降、こうしてたびたび来るようになってる。
もちろん事前に連絡はいただいている。もちろんそれは自分の分の食べ分の確保の為って言ってたからその辺はぬかり無い律子先生だよ。
で、席に着くなり、缶ビールをプシュッと開けて、
「今日、八宝菜じゃん、みそ汁はツミレとニラかあ……、わかってるなあ、君」
って僕を見てから、周りを見渡し、
「相変わらずモテてるな、いい気になるな!」
って、割とガチ目に言われて、なぜか翔も見て、
「君、男性もイケるの?」
とか素っ頓狂な事を言い出す。
「マジか?」
って、優が言うんだけど、この流れ、前もあったよ。
「ばか、心理学の先生の言うことだぞ、きっとそう感じる根拠があるんだよ、ですよね、先生」
翔がいうのだけれでも、それ僕らの話で、君も当時者なんだ否定しなきゃね。
もちろん、律子先生は冗談で言ってる。冗談だよね?
それから一花も参加して、ワイワイガヤガヤと、いつもの夕食が始まるんだ。
本当に騒がしい。
そして、いつもの賑やかさ。
食べてるのか、しゃべってるのか、怒ってるのか、笑っているんだか……
それはとても明るくて平和で幸せに満ちている。
たまに、そんな満ちてる幸せから、僕の気持ちだけがスッと抜ける時がある。
暖かさから抜け出した僕は、いまだ暖かさに満ちる空間にいる僕に言うんだ。
「この幸せがいつまでも続くと思うなよ」
って。
なにを今更……。だよ。
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