第32話 好きとかじゃない理想なだけ【翔】

 陸上部の練習中の俺。


 控えめに、努力する俺はかっこいいな、って思ってたよ。


 最近、この学校は事件が多い。


 治安が悪いって言う感じだな。


 特に最近なら、先生までもが問題を起こす騒ぎになった。


 その前には、その教師を殴りつけ、その殴りつけた張本人がケガするという事件。


 そんな事件の中心にいるのはいつもあいつらなんだよな。


 俺の親友な数藤 一樹とその……妻、一花。


 やっぱり、高校生が結婚て、問題多いのだろうか?


 というか問題を巻き起こしてしまうのだろうか?


 これは結論なんて無い疑問で問題だな。


 そう思いながら、俺はゴールラインを通過した。


 雑念だらけの全力疾走。


 「タイムは?」


 後輩に尋ねると、


 「10秒7です」


 と教えてくれた。


 全然ダメだな、高校総体でこれなら100位だって難しい。


 もっと集中しなくては……。


 俺は差し出されたタオルで、顔を拭いた。汗はそれほどかいてはいない。


 って、このタオルっと思って、その差し出された方を見ると、


 「三枝先輩」


 思わず声が出てしまう。


 「お疲れ様、翔君」


 三枝 千草。


 この陸上部のマネージャーの一人で、2年生。


 「良いタイムね」


 快活な笑顔で、背は女子にしては大きいんだけど細くて、ポニーテールな頭を振り回しながら、働いて細かく早く、俺たち選手を気にかけてくれる。


 「そうでもないですよ、こんなタイムを出していたらダメっすよ」


 俺は、謙遜なんてしないで言った。


 すごくきれいな顔をしてるんだけど、まあ、一樹の妻、一花の方が可愛いけどな、三枝先この陸上部では人気がある。


 「そんな事ないよ」


 って優しいからな、フォローもかかせないんだ。この笑顔に救われてる部員も結構いるって話だけどな。まあ、特に愛想もなく、一樹の家でご飯を食べてる時に、こちらがなんも言わずに「おかわでしょ?」って言ってくる、茶碗をひったくる一樹の嫁、一花の方がグッとくるけどな。


 それに、この三枝先輩って、俺と小中が一緒なんだよな。


 中学の時も陸上部のマネしてたし。それなりに気心も知れるってもんだろう。


 この高校ももともと陸上とバスケ、ボクシングが強くて、俺も特待生で入ったんだけどさ、その進路が決まった時くらいから、だから中1の終わりのころから、三枝先輩もここの高校を受けるって言いだしてた気がするから偶然ってのはあるんだなあ、って、そう思ったよ。


 思えば一樹との付き合いも中学のころから出、そのころから、あの二人は、いつも一緒にいてさ、中1で早くも高校を決めてしまった俺に、三枝先輩から、何回もどこの高校か聞かれたなあ、なんて話してたら、なんか二人ともすっごいいい笑顔で俺を見てるんだよなあ。


 でも、ちゃんと三枝先輩「高校で待ってるね」って言われたときは、またよろしくって思ったよ。わざわざ三枝先輩の卒業式の日に体育館裏に呼び出されてさ、そういわれたんだよ。律儀な人だって、そう思った。きちんとしてるなあ、って、その時俺、三枝先輩の笑顔を見てさ、どうしてか一花が一樹に向けるときの笑顔を思い出したんだ。


 こう、なんていうかな胸がきゅっとしたね。


 でも、俺は残念なことに、この綺麗で優しい三枝先輩が、実は苦手なんだ。


 いや、すごいスタイルもいいよ、一花の方が好みだけど。


 それに、頭もいいんだよ、なんで進学組に行かなかったんだろう? 一花みたいにさ、勉強もできる人なんだ。でも、確か一花と一緒の進学組になると、2年くらいから部活なんてできないくらい、強化授業とか言って学校での授業時間が増えるから、陸上の女子マネなんてやってる暇もなくなってしまうから、それが理由かもな。


 三枝先輩も好きな事やった方がいいから、俺も、アシストされてうれしいし、特に俺になんか気をつかってくれるから、ホント、助かってるんだ。


 そんな風に考えてたからかな、不意に、ほかの競技の練習を見ていた三枝先輩が言うんだよ。


 「翔君、まだ一花ちゃんの事が好きなの?」


 ってさ。


 俺は、どうも、その言葉に答えられなかった。


 不正解ではないんだよな。


 一樹と一花が好きなのはあってる。


 で、異性として、女の子として一花って、ホント、俺の好みなんだよ。初めて会ったとき、本当にびっくりしたからな、自分の理想が、そのまんまの見た目が、毒吐きながら歩いてたって感じだったからな。


 続けて、三枝先輩は言う、


 「あんな事件があったのに、変わらないのかあ……」


 ちょっと伏目がちになる三枝先輩。


 最後に、三枝先輩は言うんだ。


「翔君、そろそろ、自分の競技の練習しなさい、槍投げの先生、待ってたわよ」


 って言われて、ああ、俺100M走の選手じゃなかったわ、って思い出した。


 本当に、三枝先輩のアドバイスって的確だよな、って思ったよ、。


 


 

 


 


 


 

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