第31話 ついに判明! 犯人は私!! 【一花】

 「ほら、しっかりしなさい」


 って、りっちゃんに頬をペチペチされて、私は我に返った。


 ああ、びっくりした。本当に試行錯誤のスパイラルに落ちてる感覚だったから、そのまま意識も一緒に奈落の底に落ちてしまった感じになってた。


 「その為に私がいるのよ、一花ちゃん」


 そう言って、いつものりっやんな顔。普通の顔。表情。


 そして、


 「とはいうものの、ここまで影響力のある夫婦ってのも初めて見たわね」


 って言ってから、


 「ねえ、もしかしてあなたの一樹、へんな光体とか出してる? 背中の翼が異性を誘うとかない?」


 とか言い出す。


 無いから、一樹は蛍でもなければクジャクでもないし。


 そして、りっちゃんは言うの。


 「あと、一花ちゃんの旦那ってのも相当のステータスよ」


 「え? なんで?」


 「だって、こんなに優秀で若いい子を奥さんにしているっていうのはそれはそれで魅力の一つになるのよ」


 そしてりっちゃんは一つ考えてから、


 「一花ちゃんの親友の優ちゃんとかは、一花ちゃんっていうレンズで一樹くんを見てるから、本来なら異性と隔絶するべき壁が無いの、パーソナルスペースとして、一花ちゃんに接するくらいの気軽さで、異性を意識しながら一樹君に触れられるのよ」


 あー、それはわかるかも……。


 「それに、妻を持った、ある程度器用な男は、女性を深く理解できるのよ、なんて言っても妻が自分を女性として教育するしね、これって、母とかではできない事だから」


 それもなんとなくわかるかなあ……。


 「距離感が絶妙になるのよね、気をつかってくれるし、そりゃあそうよ、好きな女の子に喜んでもらいたいんだから、毎日、一花ちゃんは知らず知らずのうちに、女子のとって都合のいい男の子を磨いて作ってるのよ」


 「あ、じゃあ逆もまた然りですか?」


 「そうね、理解が早くて助かるわ」


 それは、私が直塚先生にプロポーズされた事に関連してる。


 「つまり、あれですか、要は一樹の事を軽く見ていた直塚は、そ人妻って、簡単に手を出せるって考えたってことですか?」


 いけないいけない、一樹を軽く見たであろう、一応教師な直塚を呼び捨てにしている自分がいる。本当に、大嫌い。

 

「未熟な男性はね、一花ちゃん、結局、異性を性的に見ながらその中に母性を求めるの、それは、穢い汚れみたいな甘えね」


 未熟って、直塚って30歳は超えてたはず、私の倍近い年齢よ。


 「まかりなりにも、あれでも先生ですよ、未熟なわけないですよ」


 思わず言い返しつつ、そうかな? そうかも、て思い出してしまう私。


 ホント、利己的なプロポーズだった。


 言えばなんとかなる? 的な?


 あのハグもなんなの? 本当に力づくだった。抱きしめる相手の気持ちも考えてない。あの程度でケガしてしまう女の子だっているんだからね、ホント、最低。


 思い出してもムカムカしてきた。


 でも、なるほど、とは思った。


 頼めばなんとかなる、みたいな感じはあったもの。


 ならないけど、絶対にお断りだけど。


 人妻っていうのはやっぱり『甘え』させてくれるって幻想を抱くのは、いくつになっても変わらないのね。確かに私、人妻だけど、それ以前に高校生だけど。


 ……私の方はいいわ、対策はできるから。 

 

 でも、そっか、私といることで、私との結婚生活の中で、知らず知らずに私にとってというか女性にとっていい男に育ってるのか一樹。


 「なにをニヤニヤしてるのよ」


 って律子先生に言われる私。


 「いや、だって、私が一樹をモテに育ててるなんて言われたら嬉しい」


 って言ってしまうと、


 「いや、それだけ二人の関係っていうのを壊しかねないんだけどね、それに、今後、政府はこの結婚制度の追加政策……、そっちはいいわ……」


 って律子先生は自分の言い出した事に首を横に振って否定しつつ、


 「このまま行ったら、恋愛飽和状態になりかねないわよ」


 とかなんとか。


 でも、その時はね、モテモテの一樹に対して、もうニヤケが止まらない私がいるの。


 そんな私を見て、りっちゃん、もしかして呆れてる?


 まるで釘を刺すみたいに言うのよ。


 「もしかしてね、これは私の推測なんだけど、あのボクサーなマッチョ女子な優ちゃんに対して、一樹君に『ちゃんと女の子扱いしなさい』とか言った事ない?」


 律子先生のその一言は、まさに見てきたかの様に言ったの。


 そんなの当たり前じゃない、特に高校生になったんだから、小学校の延長みたいに男友達みたく接したらダメよ、ちゃんと女の子として接してね。って言った。言ったわ。


 もうね、名探偵かよって、顔してりっちゃんみてる私に、


 「優ちゃんが一樹君に対して、明確に男性を意識して引かれたのって、そこが起点だわ」


 つまり、私が良かれと思って言ったことを素直に、言われた通りに実行した為に、一樹はこんな形になってしまったってこと?


 え? 待って、じゃあ他の人たち、美子ちゃんとか綾小路さんとかもそういう事?


 で、直塚にプロポーズされたのも、私が人妻だからで……?


 あれ?


 おかしいな?


 これって、もしかしなくても犯人が特定できる。


 つまり、ここ最近のおかしな出来事の犯人は、まさかの私?


 ……………………。


 いや、本当に、どうしろって言うのよ?


 


 


 

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