第27話 セックスフレンズ 【瑞穂】
今日は、お
私はお弁当を片手に、ゆっくりと校舎から出て、あたりを見渡す。
ああ、いらっしゃいましたわ。
ちょうど建物の角のベンチ、 その姿に思わず笑ってしまいます。
だって、人を待つ間なら、本を読んだり今ならスマホで時間をつぶしたりするものですが、一樹さんは何もしないで、本当にただ『待ってる』だけなんですよ。
まるで、ご主人を待っている子犬みたいです。
膝の上にお弁当を抱えて、奥さんを待っているのですね。
この人、校内でも有名な方の一人。
この学校の唯一の、いえ奥さんもこの学校にいるので、唯二ですわね、あまり聞かない単語ですけど。つまり二人して既婚者で、私のクラスにいる、才女、一花さんの旦那様。
数藤一樹さんです。
あ、今、連絡が来たようですわね。スマホを見ながら、ちょっとしょんぼりされてます。
今日は一花さん、次の授業で使う資料を図書館の隣の資料室にほかの生徒と取りに行っているので、ここには来れないんです。
ですから、一樹さんは独りぼっちなのです。
「こんにちわ」
私は自然に声をかけます。
きょとんとして私を見上げてますわ。
もっと自然体で……、
「いい天気ですね」
といいます。
すると一樹さんは、「えーっとっ……」
これで3回目ですよ、自己紹介するのは……
「綾小路 瑞穂です」
「あ、ああ、そうだ、綾小路さん、こんにちわ」
この方、いつなったら私の名前を覚えるのでしょう?
まあ、いいですわ、私は一樹さに見せるようにポーチからお弁当を取り出しながら、
「今日も、ここでお弁当を召し上がるんですか?」
一花さんは、こられないので、教室にお戻りになってから召し上がるのかしら? って思い、訪ねてみました。
すると、
「もう時間もないし、ここで食べちゃうよ」
そういいながらお弁当を広げ始めます。
ああ、今日もまた美しい色合いの一樹さん特性のお弁当がみられるんですね。
男の子にしては小さめのなお弁当箱を開くと、きれいに整頓され、まるで春の花壇のような彩にあふれたお弁当が見えました。
これは一花さんに聞いたのですが、一樹さんはお料理が上手で、お弁当も一樹さんの仕事なのだとか、料理ができる男子の皆さんは多いですが、こうして日常に主夫として家事を継続的にできる方というのはなかなかいませんわ。
だからなのかしら? 私、従来は異性というものを苦手としていました。
それほど嫌なイメージはありませんが、なんていうか、毛嫌いまではいきませんが、将来、自分の身に必要になるその日まで、自分から近づこうとはしませんでした。
クラスには結構な数の男子がいますが、話しかけるほど興味も持てなくて、まして、自分から近づくなど、考えた事もありません。
ですが、一樹さんは、そんな私にとって、ちょっと変わった存在でなんです。
きっと、一花さんのご主人だからなのかしら、変に警戒をないでいいというか、なんというか……。あ、わたし、今、思っていて気が付きました。
私、きっとほかの異性に、男子に警戒していたのかもしれませんね。
でも、一樹さんには警戒してないのが自分でわかるんです。
普通にしゃべって、普通にご飯を食べて、普通に興味を持っていく。
そうです、私、一樹さんの事をもっと知りたいって考えてしまうんですよ。
もちろん、それは奥様の一花さんも一緒にっと、思ってはいるんです。
けど、でも、一花さんがいないのを知って、一樹さんが一人なのを知っていて、こうして、中庭で一樹さんを見つけて喜んでいるのです。
それは、今までにない感情なんです。
うれしいって思うのと同時に、ダメ、って思うのです。
でもです、でも、でも、ダメってわかっていても、一樹さんの顔を見て、声を聴いていると、このくらいは……、心に自分の爪を立てるような、自ら傷を刻み付ける感覚。
痛み。
なのでしょうか?
この痛みが罪からだとするなら、それで喜んでいる私は一体?
イケない子になっているって自覚はあるんです。
きっと、私は一樹さんを変な目で見ているのです。
それはきっと言葉にできないほどで、こうして話しているときも、私、お弁当箱の話をされているのだけれども、こうして、ずっと一樹さんの指ばかり見てる。
一花さんは、この指で触れてもらっているのだなぁなんてはしたないことを考えてしまう。
おかしいです。
お弁当箱の話をしている一樹さんの声が、全部、私に向かっていて、体が熱くなって頭がボーっとします。
いいな、一花さん。
私は、一樹さんのお弁当箱を手にとって、ガラスみたいな手触りの中で一樹さんの温度を探す。
前にもった言葉。
一樹さん、お友達になりましょう。
そう考えて一度、頭を横に振る。
そして、予鈴のチャイム。
「一樹さん、私とセックスフレンドになりませんか?」
さすがに、奥さんのいる相手と恋人になってなんて、迷惑ですわよね。
友達ならば、って思ったんです。
すると一樹さん、一瞬、止まったかと思えば、今度は私の前から走り去ってしまわれました。
次の授業に向かったんですね。
だから、私は声をかけます。
「返事はいつでもいいですよ!」
あら、いやだわ、大きな声を出してしまって、はしたない。
そうして、私は一樹さんの背中を見送っていました。
あ、こういうことって先に奥さんに言わないといけないのかしら?
次の休み時間、一花さんともお話をしようと思います。
ちょっとウキウキしてきましたわ。
きっと楽しい毎日が待っていると思いますので。
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