第9話 ストーカーとかじゃないから

 まずね、最初にね、これは前提として話さなきゃって思うから、言っておくけど……。


 私は異常ではないの。


 変態さんでもないの。


 ここ重要だから。


 この辺を理解してくれないと、私の話を聞いてもらうのは無理だから。


 ますね、自己紹介しておくね。


 私は、鈴井 美来。


 美しが来るって書いてミコ。


 名は体を表すけど、私、綺麗なの、友達や親はいつもそう言ってくれる。可愛いじゃ、あの女に対抗できないから、綺麗って言ってくれるのはとてもうれしい。


 今、中学2年生。


 一応は、この首都圏にも近い衛星都市……、まあ地方都市にある、有名お嬢様学校の2年生。


 中学、高校、大学の一貫校で、『聖マリア序学園』


 私はちょっと遅刻して学校に行く。


 だって、彼一人で登校なんて機会、めったになから、その御身を、愛しいお方の、一人だけの背中を見守るのが私に課せられた使命なのだから、遅刻することなんてどうってことないの。


 でも、一人の一樹様って、どこか寂しそう。


 やっぱり、あの女がいないからなのかしら?


 翳りなのかなあ?


 ちょっとブルーになってる一樹様もステキ。


 そう。


 私がこっそりと、後を付けているのは、数藤 一樹様。


  名門『私立星城高校』に通う一年生。


 この高校、地方の高校だけど、偏差値とスポーツ(特に、バスケとか女子ボクシングとか陸上)が有名で特待生も何人もいる。今年は女子ボクシングと男子陸上に将来のオリンピック候補とか入ったらしくて、TVのニュースでもやってたくらい。


 そんな学校に通う将来、私も星城に入るから先輩になっていただくんだ。


 もう、エスカレーター式一貫校なんて行ってられないわよね。出会ってしまったんだから。

 

 運命だったんだから。


 私の命の恩人であり、私を救ってくれた王子様で、こんな私にも普通に気さくに話しかけてください、まさに聖人。


 そんな私のあこがれで王子様で、超絶ゴットな数藤一樹様。


 どのくらいステキで、超絶イケてるのかって言うと、


 まずね、身長が167センチなのよね。


 この微妙に170に届かないっていう感じのギリギリでもないところを攻めてるって身長ってステキよね。


 その距離では私の身長156センチに対して、首を曲げるだけでキスできるの、ちょっとギリギリだけど、もう1センチ私の背が高ければって思うけど、そしたら理想だったけど、家で何度も実験してみいたけど、(+-1センチ)奇跡的な唇の接地面積を期待できるのよ。しかも正面から言っても顔の角度から鼻も気にならなくなるの。ギリ理想的ね。


 でも、私がもう一センチあると、もっと凄い形になるのよね。


 って考えて、思い出して、いつも一樹様の隣にいる、一樹様に対して私より1センチ低いという理想的身長な、あの女を思い出してイラっとしちゃった。


 いいの、いいの、今はあの、名前を思い出すだけて、忌々し女の事を思い出した。


 大きく、誰もが寄り添える一本の大樹になる様にと、一樹様。それに対応するように名付けられた女の名前が、本当に悔しくて、うらやましくて本音だと、いいなあ……ってなるの。


 わたしも美子よりも、そっちが良かったって、そう思うの。


 一樹様の話にもどるね。


 なんて言っても、優しいの。


 やさしさって当たり前っておもうけど、私に響かないやさしさなんて、やさしさじゃないから。単なる弱さとか遠慮とか、そういうおざなりなものだから、一樹様は違うから、もう、超絶優しいのよね、女子全体的に対する態度もそうなのが気になるけど、でも、すごいの、響くの、実質的なの。


 声もいいのよね。


 特にイケボって感じでもないんだけど、なんていっていいのかわからないけど、安定感があるのよね、すごい安心するの。


 12回しか話した事ないけど、一言しか聞いてないけど、また聞きたい。


 でも、それは心にインストールされてるかあ、いつでも、どこでも再生可能だから。


 ちょっと思い出してみてると、いつの間にあんな遠くに一樹様が……。


 ああ、いけない、もうちょっとで一樹様を見失うところだった。


 急がなきゃ、でも不自然にはダメ、あ、次の信号は赤だから、余裕ね、ゆっくり歩こう。


 行先は学校だけど、通学路も知ってるけど、見失うわけにはいかないの。だって、一人の一樹様なんてめったにないから、いつもあの女が一緒だから。


 でもね、信号待ち、私はさっきまでの思考をとても後悔したわ。


 だって、道路の手前。横断歩道の前、信号を待つ間、私は一樹様と並んでいられるの。そして、さきほどの決断は、信号待ちで足止めされる一樹様を追う足を緩めてしまった結果、私は、その緩んだ気持ちと足取りの時間を失って、ほんのひと時しか一樹様と横に並べなかったの。


 でも、今はそんなこと考えてはダメ。


 二人で、私と一樹様だけで登校するっていう、あの女のいないイベントをもっと味わい尽くさないとなあって、気持ちを入れる。


 って、もう、この信号を渡ったら学校じゃない。


 ああ、終わっちゃうのかあ……、残念。


 ちょっと離れたところから一樹様の後ろ姿を見つめる私。なんか健気。


 もうちょっと近づきたいけど、でも、ダメ、話しかけられたら私死んじゃうかも。


 いいんだ、こうして見ているだけでも。


 一樹様のそのお姿が、校舎の玄関に吸い込まれて行く。


 私はそれをジッと見つめていたの。


 そんなに長い時間じゃないわ、これもまた時代の流れなのかしらね、電線地中化計画で電柱の影には隠れられない私は、星城の校門の影からジッと、そうね20分くらいかしら、もう、とっくの昔に教室にいるであろう一樹様を見ていたの。


 そしたらね、急に私の横を救急車がサイレンを鳴らしながら通り過ぎて、学校内に入ってゆくの。


 びっくりした。


 ここからは断片的な情報。


 校門前から、気になった私は、その救急車を見送る、生徒も先生もいる野次馬の中から情報を得た。


 なんでも、生徒が、先生を殴って骨折って話らしい。


 どうも大事になりそうな予感。


 そして、こんなバイオレンス。私の王子様、一樹様には関係の無い出来事だって、そう思うのだけれども、どうしてか動悸が止まらないの。


 だって、一樹様がそんな事する訳ないもの。


 何の根拠もなく暴れる私の心を押さえつける様に私は、私の胸を押さえていたの。


 


   


  


 



 


 

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