第10話 質疑応答
気持ちのいい朝。
私、一花は市役所にいた。
今日はカウンセリング。
昨日、思いっきり泣いたせいもあって、頭の中はすっきりとしてた。
ただ、なんかボーっとしていたなあ。なんて思っていたのか、こうして、面談室のある2階の廊下、誰も通らないし、暑くもなく、寒くもないどこまでも続く廊下の長椅子に座っている時間がどこか心地良かった。
ここは市役所の別館の2階。
ここに目的のある人でもないと、来ることもないのから、誰も通らない廊下で一人で待ってる。
すると、どこからともなくサイレンの音。救急車かしら?
かすれるくらいの小さな聞こえてくあるくらい静かな廊下。
今日はカウンセリングの日。
だから学校は午後から。
私達、とうか特に妻の方、早期未成年婚した私達には、こうして月に一回、その心理状態とか日常とかをメンタルケアを受けながら、そして私たちのそれぞれのケースや行動やら相談内容は、その結果を今後の人類繁栄の為に、役立たれるそう。
早期未成年婚した場合、特に女性の方の精神って、不規則だけど不安定になるらしいの。
男子と違って、結婚して、政府の思惑に乗るって事は、その後の妊娠や出産も控えてるわけで、それを考えて不安定になってしまう女の子は少なくはないらしい。
といっても、私の住む地域では、実際に現在も夫婦として関係を維持している人たちは片手くらいしかいないらしい。
前は夫の方も受けていたんだけど、ここ数年の結果として、男子にはあまり、カウンセリングの効果ってなかったらしくて、今は女子だけ受けることになってるらしい。
まあ、なんで男子に効果が無いかってのは、未だ謎らしいけど、私達、妻側の立場からすると、なんとなく、わからないでもない。
一樹なんかは、きっとそうだろうと思う。
で、一応は本人の希望で、2か月に一回程度でいい、このカウンセリングなんだけど、私は最大で受けられる様に、一月に一回、もちろん担当医の都合もあるから、もっとスパンは永くなる時もあるけど、おおむねそんな感じで受けてる。
今日は私の前に一人、予約が入っていたみたい。
あ、出てきた。
ぱっと見ると、私よりちょっと年上の女性。
たぶん、まだ20代みたい。
彼女は、廊下の長椅子で、ただ一人待つ私に軽く会釈して、そして私もそれに返す。
一瞬の交わった視線は、すぐに出口に向かい、そのまま歩いてゆく。
結構な美人さんだなあ、なんて思ってると、
「次の方、どうぞ」
って声がかかる。
ああ、行かなきゃ。
私はあわててスマホの電源を落として立ち上がる。
そして慌てて、私は、この市役所の中に設けられた診察ルームに入る。
入るなり、
「一花ちゃん、久しぶり!!!」
私はその笑顔を見て、とても安心した。初めての時から、今日も私の精神の担当医、
「おはようございます、桜川先生」
と、普通に挨拶すると、途端に不機嫌になる。目に見えてご立腹な先生は、
「桜川先生、じゃないでしょ? りっちゃんでしょ?」
ああ、そうですねって思って、
「す、すいません、りっちゃん」
って言いなおすと、今度はニコニコ笑って、
「そうそう、わたしはあなたの心になりたいのだから、お互い壁なんて作らなくていいの、あなたは一花ちゃん、わたしはりっちゃん、OK?」
桜川先生って、とても優秀な先生で、ここでカウンセリングしている時間以外は、大学の方でゼミとか持ってて、さらに、この早期未成年婚の政府計画にも絡んでいる人って話なんだよね。
とても若く溌剌に見えるけど、私とでは年齢も倍くらい違うし……。
「あ、一花ちゃん、今、私の事、いい年して…、なんて思ったでしょ?」
隙間を突かれた様に本当にドキッとする、びっくりする。だから図星って顔して、年齢の話はヤバいから、すぐに切り返して、
「先生、じゃなかったりっちゃん、アイライン変えたでしょ?」
って言ったら、りっちゃんとてもうれしそうにして、
「え? わかる? やっぱり一花ちゃんだけね」
「でもりっちゃん、美人で大人だから、もっと、抑え気味でもいいかもって思ったの」
「そっかな?」
「瞳、綺麗だもの」
って言うと、
「やっぱり一花ちゃんね、綺麗な会話応答ね、強制感も無い。卒業したら、うちの大学おいで、もう、ゼミに入れて独り占めにするからね」
なんて言われる。
そっか、りっちゃんの大学なら、うちから通えるからいいかも。
なんて思いつつも、そうなったら、一樹も地元にしないとなんて考えてしまう。
「いやね、一花ちゃん、こんな時も旦那の事?」
本当に心読まれてる感じ。
でも、この先生に見透かされるのって嫌いではないの。
軽く、しかもフレンドリーに、ニコニコしておしゃべりしているりっちゃん。
こうしている間も、私の姿勢、瞬きの回数、息遣いに、その手の握り方まだ観察しているの。
だからカルテに書き込むペンの動きは早まる事はあっても止まる事は無い。
ペンと紙を使って、今も私を掘り出してる。
私が今、自分がどんな状態かも、私以上にりっちゃんは教えてくれる。
だから、りっちゃんは言う。
「安心して、一花ちゃん、ここにはあなたを、そしてあなたの生活範囲、繁殖範囲を侵すものはいないから、みんなあなたの味方よ」
この言葉に、わたしは今、ここで初めて安心する。
そして、自分の心が未だ警戒していた事を知った。
だから、優も一樹もそんな気なかったんだって。
そのことを理解して、すっかり、そんなの気にしてないって思っていたのに…。
今、ここでようやく、りっちゃんの言葉で、ホッとしたの。
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