第8話 フラッシュバック

 昨日は散々な目にあった。


 今日は、一人でトボトボと登校し,校舎に入る。


 「おはよ、一樹……」


 と僕を見つけた翔が、その周りを見渡して、


 「あれ? 一花は? もう教室??」


 なんて言われる。


 そうだね、いつも一緒に登校するからね。


 それに校舎が違っても玄関は一緒だから、僕はその翔の疑問に答えた。


 「おはよう、一花はカウンセリングなんだよ、午後から出て来るよ」


 って言ったら。


 「なんだ? どこか悪いのか?」


 とかさらに聞いて来る。あれ? この辺の話は前もしたような? というか、毎回説明してるよなあ?


 と、思いつつ、毎月の事だから、簡単に説明しておくことにする。


 「これ、未成年結婚をした者の義務みたいなものだよ」


 妻である一花は、早期未成年婚のカリュキュラムに従って、今日は市役所行って、カウンセリングを受けてるから、午前はお休みだ。


 この辺は、毎月の事なんだよね。


 特に僕らみたいに未成年で結婚すると、特に女の子の方が負担が大きくて、年齢に限ったことでもないんだけど、結婚って女性って大変だから、特に僕らの様に、国とかが、『子供つくれ』とか、プレッシャーとかも、個人差にもよるけど、その有利をもらってる以上、責任を感じてしまう人も多いんだとか。


 それに、このカウンセリングを行う事で生まれる資料は、今後の未成年婚ばかりではなくて、人類規模で有意義に利用してゆくそうだ。


 毎月、結構な時間をつぶされるけど、僕達は、人類の繁栄って、わかりやすい目的の為に、いろいろな補助を受けて、生活しているし、学校も通えるのだからこの辺は役に立ちたいとは思ってるんだよ。


 それに、子供を造ることって、結局は自分の為にもなるんだよ。


 もちろん、将来の税収の為、なんてのも確かにあるけど、自分の家族が自分たちで増えて行くのは、きっと楽しい事なんだと思う。


 ともかく、僕も一花も不満なんてない。


 それに、一花もこの月一回のカウンセリング、なんか楽しそうなんだよね。


 楽しめるってのは良い事だから、いいんじゃないかなって僕は思う。


 ともかく、僕は翔に簡単に説明すると、


 「あ! 言ってたな、そうだ、そうだった」


 って納得してるから、翔も翔で納得してよかったよ、って思いながらも靴を履き替えて、さあ、教室に向かおうか、なんて思ってると、


 「よお、既婚者」


 って声がかかった。


 うわ、今日はついてないなあ、なんて思って、その声の出どころを見ると、そこには、赤いジャージに身をつつんだ、この学校の体育教師が、僕らの進もうとする方向に立っていた。てか仁王立ちだ。


 「おはようございます、直塚先生」


 にっこり笑って僕は挨拶する。


 すると、直塚先生は、グイッと、そのタラコによく似た唇を笑みの形にゆがめると、


 「どうだ? 新婚生活は?」


 とか聞いて来る。


 この先生、この学校でも指折りの、早期未成年結婚制度に反対な人なんだよなあ。


 しかも、その事について、集会とかデモとかにも参加してるって話だ。


 でも、まあ、質問されたからには答えるよ。


 「ええ、まあ普通ですよ」


 ほかに言いようがない。


 「嘘つけ、最コー!、って顔してるぜ」


 ちょっとチンパンジーにも似てる顔は、ちょっと気持ち悪い笑顔になってる。


 なんかやたらと絡むなあ、なんだろう? 本気で誰かにフラれでもした?


 すると、翔が、


 「先生、僕達、教室に行くんです、普通科の教室は遠いので」


 って、直塚先生の前で立ち止まってる僕の腕をつかんで、引っ張る様に歩いて行ってくれる。


 そなんだよね、確かにここ、一花の進学組は近いけど、僕らの教室はこの校舎にはないんだ。


 そんな時だ、僕らが通り過ぎるのをなっとくしているのかしていないのか、ガッチリな体系でも、身長の低い僕よりも小さな直塚先生、通り過ぎる時、ぽつりと、漏れる様に僕に向かって呟く。


 「まあ、お前も、あんな事件の後だ、このくらいの良い目をみてもいいよな? 両親が殺されても、国から生活を保障されて、さらに、あんな可愛い幼馴染を毎晩好き放題できるんだから、両親様様だなあ、俺が変わってやりたいよ」


 って言った。


 かすれるような小さな声で、僕の耳の中に流し込むみたいに。


 まるで呪文を囁かれた様に、僕の頭は暗黒にくもる。


 そして、その中から瞬き。


 フラッシュバックする、あの時の光景。


 ああ、ダメだ。


 これはダメなヤツだ。


 隣に一花がいない。


 自分に悲しみが裏返る前に、その切なさを外にださなきゃ……


 僕の意識はそこで途切れた。。


 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る