第1話 とある高校生夫婦のテスト前夜の攻防①夫として
さあ、明日は、この高校に入ってからの2回目のテスト期間だ。
だから、もう結婚して4ヶ月経つのかあ。
そう思うと感慨に耽る僕だ。
布団に入って目を瞑って考える。
すぐ隣にる一花は寝息を立ててる様子がないからまだ起きているのだろう。
だから僕も考える。今のこと、これからのこと。
今、まさに世界は滅亡の危機に瀕していた。
真面目に、ガチで。
戦争?
自然破壊?
だから環境問題?
確かにどこかの国では、紛争は繰り広げられ、世界的に温暖化は進んでいて、それが原因の異常気象とかも無い事はない。
でも、そんなことではないんだ。
今、人類を蝕んでいるのは、まさにこの世界を危機に陥れているのは、もっとリアルで現実的で、生々し、文字通り人の体温を伴る現象なんだ。
なんといえばいいんだろう?
つまりさ、結局はさ、人がさ、触れ合ってとかさ、まあ、そういう事なんだよ。
つまりさ、結局は触れ合いがないと、人は増えないんだ。
きっとこれ誰もが知ってる。
だから少子化してて、ものすごい勢いで人はどんどん減っていってる。
つまり、今、この現代を生きる僕らがしないといけないのは、人がいなくなって行くという最悪な未来に歯止めをかける事なんだよ。
決してヤマシイ気持ちじゃないんだよ。
言うなれば、人類救済の尊い使命って事なんだよ。
ゆっくりと平和に、まるで日向に晒された、割と大きな水たまりが、気が付いたら消えてしまうように、人も、社会も、文明も、まさに今、失われようとしているんだ。
世界はこれまでの歴史から類を見ない人口減少に襲われている。
最近世界では、特にこの日本では結婚しない人が増えている。
それはまあ、仕方ないんだ。
結婚するよりも楽しい事が多すぎるし、生活も昔みたいに一人暮らしでも不自由はない。
特に家電とかコンビニとか、進化は凄まじいものがあるから、ずっと一人でも快適に、豊かに暮らせる。
むしろ、結婚なんてばからしい。って思うのも無理は無いんだ。
だって、いくら惹かれあって、恋に落ちてなんて言っても、結局はお互いに他人じゃないか。
それに、二人がいつも同じ気持ちだって言う将来的な保証もまた難しい。
いくら一方が我慢して、努力したって、互いが他人である以上、不幸なでき事だって起こってしまうだろう。
つまり結婚とか、幸せになるっていい結果もあるけど、あるが故に確実にそこにリスクは存在してるんだ。
だからね、これはさ、そんな互いの気持ちを確かめる、そう、互いの間にさ、『愛』が、そんな尊い気持ちがさ、確かに存在しているって、目に見えて、声に聞こえて、触れ合う事ができる行為なんだよ。
だから、僕は悩まない。
行くべきだから行くんだ。
さあ、行くぞ。
ちょっと触れるだけだから、そんなに睡眠時間を削る事ではないから、大丈夫、大丈夫。
距離なんて20センチもないから、手を伸ばすどころか、ちょっと腕の角度を変えるだけで、僕達は触れ合う事ができるんだ。
だから、ちょっと触れてみた。
僕の隣でスヤスヤと寝息をたてているであろう、僕の愛する人、女の子、そして妻。
僕はそんな
予想を反して、お腹の付近に触れちゃった。
すると、なんと、僕の接触によって、あおむけに寝ていた彼女の大きな目が、綺麗な瞳がこっちを向くんだ。というか、顔がこっち向いて、思わず見つめ合う形になった。
僕は、一花を見る。
そして、一花は僕を見る。
それは永い、永い時間に感じられた。
僕の気持ちなんてきっとわかってる筈。
その一花が言うんだ。
「テスト前、テスト中はエッチしないよ」
て…。
うん、そう、まあ、そう決めてたよね。
でもなあ、ほら、人類の将来とか、未来とかさ、使命とかだよ。
と言おうとしたら、
「赤点は嫌でしょ?」
って言われた。
彼女の決意のこもった目。
そうだね、一花は頭いいもんね。トップ目指してるんだよね。
僕も赤点は嫌だ。
そんな二人の利害は一致してる。
今、僕ら夫婦は、いつか来る世界の未来より、確実に来る明日からのテストに対してゆっくりじっくり寝ることにしたんだ。
僕は一花に向かっていた体を、あおむけに直して、
「明日、頑張ろう」
って思わずつぶやいてそのまま目を閉じたら、何を思ったのか、僕の手をギュッと一花が握ってきた。
ちょっとガッカリ感が薄れて、明日意向かって笑ってしまう僕だったよ。
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