Bitter×Sweet サンバ

タントラム

第1話 We Can Work It Out (働かざる者食うべからず)

私は道に迷っていた。

スマホのナビが正しいのであれば、この『コーポ・サンライズ』というシェアハウスにはとっくに着いている筈なのだ。


それでも何故かそのシェアハウスに辿り着く事が出来ないまま、この古いパチンコ店の周囲をグルグルとうろつき回っていた。


『電話を掛ければいい』とそう思って先程から何度か掛けてはいるのだが、住人が出払っているのか誰も出ない。


そうして何周したのだろうか、私の行動があまりに不審に見えたのだろうか、先程から何度か見掛けてる若い女の子が、とうとう声を掛けて来た。


「あの…落とし物か何かされたのですか…?」

いや、別に落とし物をした訳じゃないんだけど、ようやく助け舟が現れた、そう思った私は、その子にすがり付くように、

「こんにちは、すみません、この辺りに『コーポ・サンライズ』というアパートは無いでしょうか…?」

と泣きついた。


「アパート…なんでしょうか、私が住んでるのが『コーポ・サンライズ』っていうシェアハウスなんですけど…」


……


そこだよ!!まさにそこの第1住人と今まさにファーストコンタクトしてるよ!!!


「アッハイその『コーポ・サンライズ』に行きたかったんです、宜しければ連れて行って頂けないでしょうか」


今の私の顔は感情を失ったロボットみたいな顔になってるんだろうな…と思いつつ、そのシェアハウスの住人だという女の子に半ば強引に道案内をさせて連れて行って貰う事となった。いや、案内したくない、と言い出しても決して逃さない覚悟である。


「えっと…こちらです」

私の不気味な迫力にされたのか、女の子は前に立って歩き出した。そうだよ、最初からそうやって素直に案内してりゃコッチだって決して悪いようには…


女の子は、何故か古いパチンコ店の裏のフェンスのドアを開け、サビだらけの狭い階段を登りだした。

「???」

意味がよく解らず、頭に?マークをたくさん浮かべたまま、私は黙って彼女の後を付いて行った。


やがて女の子が歩みを止めた。

その先にあったのは…


何というか、時代背景を間違えたような小さな掘っ立て小屋が、パチンコ店の屋上の片隅に、ポツンと建っていたのだった。


「ようこそ、『コーポ・サンライズ』へ」

女の子がそう言って爽やかな笑顔で紹介してくれたのだが…


私が回れ右をしてその場を立ち去ろうとしたのを責める人は居ないであろう。…居ないよね…?


だが、時既に第2住人に行く手を塞がれて居たのであった。

それは黒いおかっぱ頭に和服を着た小さな女の子だった。

「そことおれない、じゃま」


そう言われた私は、小さな女の子を抱っこして反対側に下ろしてやった。

「ありがと。おねえちゃん」


意外と素直で可愛らしいお子様じゃない。

心の中に爽やかな風が吹き込んで来たようで気分を良くした私は、クールに素早くこの場を立ち去ろうとした。

したはずだった。


「よーぉ!!やっと来たか新入り!!歓迎するよ、ホラホラさっさと入った入った!!!」

いつの間にかやたら背の高い第3住人に捕まってズイズイとあのボロ屋…じゃなくて『コーポ・サンライズ』へ拉致られようとしていた。

パワハラダメ、絶対。


結論から言うと、私は逃げ出せなかった。

しかも今日から仕事のシフトが入っているという。

『働かざる者食うべからず!!』らしい。それはもっともではあるが、物事には段々があるんで。と毒づきたくなった。


あと掃除当番の当番表にも勝手に名前が書かれていた。と言っても前から呼ばれていたあだ名でだったが。


という訳で、私こと『あっちゃん』は無事、シェアハウス『コーポ・サンライズ』の一員となったのであった。


…今から帰っちゃダメ、かなぁ…。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Bitter×Sweet サンバ タントラム @Tantrum

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ