第3話 実習
生き生きと輝いた女性教師が教壇の上に立っている。
「さぁ、美しく戦ってくれよ!」
そう言うと、その教師は教室から一番に出ていった。
「戦い、実習……?」
「そうだよ~。シュン君、一緒にガンバロウね?」
クニ君が相変わらずの微笑みで僕を見つめながらにっこりと笑う。
「あの女性の教師は、一体何の先生ですか? それにこの実習は一体……」
「あ、違うんだよ。あの先生はね、男の人だよ~。美を追求してたらああなっちゃったんだって」
「え……?」
「ああ~、めんどくせっ。俺の代わりにスサオ、お前頑張れよな」
そう言いながら、重そうな腰を椅子からゆっくり上げ、腕のストレッチを始めるイザミ君。情報過多とはまさにこのことだ。
「そんなことになれば、チームの連携が取れませんよ、イザミ様」
ロチア君はそう言いながら、先程まで読んでいた本を机の中に素早くしまうと、無駄のない動作で椅子から立ち上がった。
「まー、おりなら一人でも出来るき!」
その隣で眠気がすっかり覚めたのか、よく寝たのか、スサオ君が椅子から勢いよく飛び出した。
「一体、何の実習なんですか……?」
僕は混乱した頭の中から、やっと一つの疑問を外に放出した。
「ああ!? お前の望んだことだろ? 『死神』の実戦実習だ、そしてこれが俺達の役目だ」
答えてくれたのは僕をここに連れてきた帳本人である、イザミ君だった。
「死神……? さっきから皆さん何度もそう言ってますけど、一体どういうことなんですか……?」
「行けば分かります」
早口で答える眼鏡姿のロチア君。先程の様子からも、どうやらかなりせっかちな性格のようだ。
「いや、それはそうですけど……」
「さぁ、行くよ、シュン君!」
僕はにこやかなクニ君に急に手を引っ張られ、そのまま連れ出されるかのように教室の外へ流れ出た。その瞬間、辺りの風景が一瞬で切り替わったのだ。
「え、外……?」
和やかな秋風が頬へ当たる。暗闇に包まれていたが確実に見知った場所だった。いつも通学路として通っていた僕の住む東京の端にある河川敷だ。そこで6人揃って立っていたのだ。その時、女性の叫び声が響いた。皆一斉にその方角へ振り向いた。声の大きさから数十メートル先からの声のようだった。
「皆、準備はいいか?
スレンダーな女性、いや男性教師は、右手をすっと宙へ掲げたかと思うと、突如大きな鎌が現れた。それは物語の中でよく見るような不気味なものだった。すかさずそれを手に握ったかと思うと体へ寄せた。そんな現実とは思えない現象に驚きを隠せない僕へその先生は質問を繰り出した。
「シュン、君の業はなんだ?」
「ゴウ……?」
「ああ、そうだ。君の中に確実にある
「さっきから何を言ってるんですか? 全く分からないんですけど……」
「じゃ、見ちょって! シュン!」
僕が
「スサオ! 待ちなさい!! ったく、あの子は血の気だけは多いっ」
「これはチームプレイですよ、皆様」
続いて眼鏡姿のロチア君も走り始めた。気が付くと、手には2メートル近くありそうな見たこともない大針も持っている。その針の穴には白く太い糸が通されており、軽やかな風になびいていた。そんな武器なようなものを皆が持ち、一体これから何が始まろうとしているのか、僕には検討も付かなかった。
「チームプレイって言いながら、ロチア君も単独で走り出しちゃってるから面白いよね! もう、せっかちさんなんだから~。ふふっ」
すぐさま、にこやかな笑顔を携えるクニ君も叫び声の方向へ動き始めた。いつの間にか右手には巨大で長い槍を持っている。彼の低身長にはとても似つかない代物だった。一体そんな大きな槍、何に使うのだろう。まさか巨大魚でも串刺しにするつもりなのだろうか。下流の川の横でそんなことさえ考えてしまう程に僕の頭は混乱していた。
残すは僕をこの場所へ連れてきたと言ってもいい彼、イザミ君だ。十字架のピアスがゆらゆらと左耳で揺れている。そんな彼をふいに見つめると、前髪に隠れていない左目だけで僕をぎろりと睨む。そして「めんどくせっ」と一言呟くと、右手を前へ掲げた。次の瞬間見覚えのある武器が途端に出現した。大のこぎりだ。刃渡り1メートル以上はありそうだった。彼がその武器へ視線を落とした時、なぜか悲愴感が垣間見えた気がした。
「教えてやる。これが業だ」
「その武器が業、ですか……?」
「ああ、そうだ。まだ色々分かんねぇなら、俺達の戦いを見ておけ」
そう言うと、すかさず皆が向かった方向へ走り始めた。僕もイザミ君から離されないように必死についていく。この異様な状況を把握するためには、この事実を知るためには――。この方法以外にはきっとないのだろう、そう思った。
彼は途中、走りながらも背後を追う僕へ振りむいた。何かを言いたげな雰囲気だ。するととても小さな声だったが、その一言を伝えてきた。
「わ、悪かったな。あの時、聞き間違って」
イザミ君は少し照れくさそうにしつつ、吐き捨てるようにそう言うと、すぐさま前を向き、走り続けた。僕は口を開けただけで、彼へ言葉を投げたかったのに何も言い出せなかった。「僕もごめん」そう言えばいいのに。何度もそう思った。だが、その言葉を伝えればこの不可思議な状況を飲み込んでしまう気がして、僕も納得していると答えている気がしてやはり言えなかった。
彼らの目的の場所へようやく到着した僕は目を疑った。今まで見たこともないようなモノと皆が対峙していたからだ。僕達以外の4人が、いや実際は、赤髪のスサオ君、青髪のロチア君、そして金髪のクニ君3人だけがあの武器らしきものを持って戦っていた。
「
驚きを隠せない僕へ、
僕はその言葉の真意を後に知ることとなる。
そして、僕らへ与えられたその役目も――。
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