第3話 かわいい
あっという間に城下町の入り口へとたどり着いたお姉様と私。
さっきのはなに!?と未だに驚いていると「さて、それではわたしの家まで行こうか。」と歩き出そうとするお姉様。
質問しようと思ったけど今はそれよりも大問題があって。
未だにお姉様にお姫様抱っこされていた私。
ここから先は他の人がいるはずで。
さすがにこのままだと恥ずかしいので「あ、あの。お姉様?そろそろ降ろしていただけると…。」と伝えるのだけど…。
「ふふ。遠慮しないでいいんだよ。それに身体が震えているじゃないか。まだ本調子ではないのだろう。さぁ行くよ。」と微笑むと歩き出すお姉様。
この震えはさっきの移動の恐怖と恥ずかしさからなのだけど、お姉様の優しい微笑みを見たら言い出せるはずもなく…。
「は、はい…。」と顔を赤くしながら返事をするしかなかった私。
それからすれ違う人達に見られながら運ばれ、少しして大きな広場に出たところでお姉様が立ち止まると「ここがこの町の中央だよ。噴水が目印さ。」と教えてくれる。
だけど、私の内心は、うぅ…。お姉様…。立ち止まらないでぇ…。み、見られてるぅ…。とさすがに人が多くなってきたこともあり、恥ずかしさで顔も上げられない状態でいた。
すると「ねぇ!見て見て!騎士様よ!今日も素敵!」と一人の女性が叫ぶと周りの人達もキャーキャーと騒ぎ出す。
あれ?私見られてるわけじゃない?と顔を上げるもやっぱりこっちを見ている女性達。
再び顔を伏せると「あ、あの。お姉様。騎士様って…。」と質問すると「ああ。それはわたしのことだね。ほら。見てごらん。」と言うお姉様の視線の先を見てみると遠くにすごく立派なお城が見えて。
「あのお城にいらっしゃる女王様を警護する騎士団に所属しているんだ。」と教えてくれる。
お城と騎士と女王様。
元の世界ではあまり馴染みのない言葉で。
本や映画の中の物だと思っていたけど、今目の前にするとさらに別の世界に来たんだと実感する私。
「さぁわたしの家までもう少しだよ。お城の反対側に歩くと着くからね。」と言い歩き出すお姉様。
それからまたお姉様に運ばれて、ついにお姉様のお家の前まで着くと、やっと降ろしてもらえた私。
恥ずかしかったけど、ちょっと残念な気持ちもありながらお礼を伝えるとお姉様のお家を見上げる。
外観は元の世界と変わりないような一戸建ての立派なお家で。
「わぁ!立派ですね!」と感想を言うと「ふふ。ありがとう。」とお姉様は微笑むと手を引き中へと連れて行ってくれる。
そして、リビングに案内してもらうのだけど…。
ちょっと散らかってるというか…。
なんかかわいいぬいぐるみとか服がいっぱいあるんだけど!?と、ところ狭しと置かれている物を見て驚く私。
「し、しまった!」と動揺した様子のお姉様が手をかざすと突然風が吹き始め部屋の隅へと飛ばされるかわいい物達。
え?え!?な、なに今の!?とさらに驚く私。
そんな私に「ち、違うんだ!と、とにかく座ってくれ!」と慌てながらもお姉様は私をソファーに座らせる。
「なんて説明したら…。」と動揺するお姉様と相変わらず驚いている私。
だけど先に私が口を開く。
「え、えっとお姉様。聞いてもいいですか…?」と。
「な、なんだい…?」と動揺するお姉様に「さっきから謎の風が吹いたりするのは一体…。」と質問する。
かわいい物も気になっていたけど、まずはずっと気になっていた風のことを。
すると「あ、ああ。これはわたしのスキルなのだけど…。もしかして、それも記憶喪失の影響で…?」と少し落ち着きを取り戻したお姉様が答える。
「は、はい…。」と、そもそも知らないんだけどそう答えると「そうか…。かなり深刻なようだね…。」と憐れむお姉様。
そんなお姉様に嘘ついてごめんなさい!と心の中で謝りつつ説明を聞く。
「みんな生まれ持ったなにかのスキルが一つだけあるのだけど。わたしのスキルは風を自在に操ることが出来るんだ。丘から移動した時や、そ、その…さっきみたいに物を吹き飛ばしたりね。」とチラッと隅の方に追いやった物を見ながら話してくれる。
続けて「わたしの場合だと風の流れが感じ取れるのだけど、君はそういう感覚はないかい?」と質問する。
「そうですね…。特にはないですね…。」と答えると「ふむ…。だとすると別系統のスキルなのかな…。」と考え込むお姉様。
この世界にはスキルなんてあるんだと驚きながらも、そういえば女神様も元の世界より不思議なことがあるって言ってたけど、このことなのかなと思う。
だとすると別の世界からきた私にはそんなスキルなんてあるはずもなく。
これ以上はお姉様を困らせてしまうだけなので、別の質問をする。
といっても今からする質問もお姉様を困らせることになってしまうのだけど…。
「あ、あの。お姉様!さっきからすごい気になっているのですが!」と話すとビクッとするお姉様。
きっとお姉様も今からする質問をわかっていると思うけど…。
でもずっと視界の隅に入ってきて気になるんだもん!!!
私は「あれは…。」とかわいい物を指差す。
すると「うぅ…。やはり気になるよな…。」と落ち込んだ様子のお姉様。
続けて「わたしはかわいい物が大好きなのだ…。騎士として凛々しくあらねばならないのに…。かわいい物が大好きなのだ…!…幻滅してしまうよな…。」とさらに落ち込むお姉様。
たしかにお姉様がかわいい物が好きだということは驚いたけど。
それで幻滅なんてするわけなく。
「そんなことないですよ!お姉様がかわいい物好きでも幻滅なんてしません!」と真剣にお姉様に伝える。
すると「本当か…?同情しているわけでは…。」とまだ半信半疑なお姉様。
そんなお姉様に「同情じゃありません!いいじゃないですか!なにを好きになってもその人の自由なんですから!」とまた真剣に伝える。
そう。
その人の自由なんだから。
私が同性が好きなことも自由。
周りに受け入れてもらうことは出来なかったけど。
諦めてたけど。
でも変わりたいとは思わなかった。
だからお姉様がかわいい物が好きということを否定する気なんてない。
そう思っていると、私の言葉を信じてくれたようで。
「ふふ。君は可憐なだけではなく、本当に優しい子なのだな。ありがとう。」と頭を撫でてくれるお姉様。
「そ、そんなこと…。思ったことを言っただけで…。」と照れてしまう私に「わたしの家に初めて招待したのが君で本当によかった。」と微笑むお姉様。
私も嬉しくて微笑んでいたのだけど…。
「あ!だ、だが勘違いしないでくれよ!?」となぜか焦り出すお姉様。
「な、なにがですか…!?」と驚く私。
「き、君を招待したのは心配してだからな!?け、決して君が可憐で連れ込もうとしたとかそんな邪な気持ちがあったわけではないからな!?」とあたふたするお姉様。
そんなお姉様に、別にそれはそれでよかったんだけどなぁ。と邪な気持ちをちょっと抱いた私がいたことは内緒。
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