『地下鉄エイリアンは、お好み焼きが好き』 粉編その1
織田 物教授は、その天才さまの、旦那さんである。
しかし、お互いに、顔を見ることは、ほとんどない。
結婚当初からそうだった。
べつに、取り決めしたわけではないが、まあ、そうなった。
しかし、そのようなことは、大企業の転勤族や、公務ならよくあるのだ。
旦那はイギリス、奥方は、ブラジル、旦那は沖縄、奥方は北海道、みたいなことだ。
いわゆる、キャリアには、まま、あることだ。
が、ふたりは、別に、組織のキャリアとか、スパイではない。
れっきとした、科学者たちだ。
織田物教授の専門分野は、宇宙考古学、天文学。
奥方さまは、機械工学。地球科学。
はっきり言って、著者にはさっぱりわからない。
このふたりと、筆者の共通項は、クラシック音楽とお好み焼きである。
さらに言えば、鉄道おたくなのは、奥方さまの方だ。
旦那さまは、さして、どうでもない。
鉄道は、使いふるされて、いまや、マニア用に残っているいくらかの観光鉄道と、鉄道大好きな日本と中国、ロシアあたり、にしかないのだから。
両国や、ロシアが、地球政府のもとで和解して、直通鉄道を通してから、すでに200年になる。
そこまでゆくのは、まさに、艱難辛苦の連続だった。
三回の世界大戦。
一回の、宇宙戦争。
ところで、地球の中心に向かう地下鉄は、真っ直ぐに、エレベーターのようには、直行するわけではない。
もちろん、まず、縦坑エレベーターは、掘ったのである。
そのエレベーターも、何回も乗り換えしながら、地球中心に向かって降りるものが作られた。
縦坑は、地球からの圧力を各方向からまともに受けてしまい、さすがの、強靭な意思と力を持つロボット壁でも、地球側の負荷を減らしてやるために、多少は、だんだん曲がってやらなくてはならないから、ときどきは、調整が必要になる。
また、地球の中心に近くなると、温度は非常に高くなるが、そこは、天才さまの作ったダークエネルギー変換機関は、完璧である。
トンネルの中も、造成された地下都市の中も、鉄道も、終始、安全と、環境が保たれる。はずであった。
地下都市は、すでに、上部と、下部マントル内に、最初の五つが完成し、間もなく、運用が始まる。
都市は、地球政府の直轄になるが、各国が、管理分担を決めている。
縦坑エレベーターは、すでに、地球中心点付近に達していた。
地球地下鉄道も、コアの途中まで、完成している。もう少しで、同時に、地球中心ステーションに達するのだ。
エネルギーは、無尽蔵である。
天才さまは、地球政府や、大資本とも渡り合い、さらに、大量の私財も投入し、縦坑とは別に地下鉄道をも、同時に掘っていったのである。
掘る費用は、掘削ロボットのおかげで、さして高くはなかった。
鉄道は、地下には、非常に便利な輸送機関である。
大量の貨物輸送には、列車が有利なこと。
都市間の移動にも、便利なこと、
さらに、観光にも、利用できること。
鉄道には、いくつも、よい点があった。
まさに、鉄道復活である。
鉄道ならば、エレベーターよりも、ゆったりと、旅ができる。
地球は、赤道半径が、6378キロメートルある。
長い旅が可能である。
壁になったロボットは、かなり透明になることも、簡単にできるから、観光ポイントも、随所に作ることができる。
鉄道ならば、世界の地下に、支線を広く張り巡らす余地がある。
と、いうわけである。
🚂
さて、地球地下鉄道開業間際、その、奥さまから、つまり、地下鉄エイリアンから、織田物教授に、伝言が届いた。
『ちょっと、まずいことになった。ハワイ中央駅に来てください。地球が、怒っている。』
🌋
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