07 能力覚醒


「オーライ、オーライ!」


 大型ヘリが何やら謎の装置をワイヤーで吊るしている。


「神聖な装置だからね。大事に扱ってよ!」


 それが地面にゆっくり降り立つ。


「主任、本当にここでするんですか?」


 もちろん。淡々と準備が進む中で、取り残された夢幻とレイラは手を合わせて歓喜していた。


(神託イベントきた!)


 ―説明しよう。神託ベントとは夢幻とレイラの二人がこ謎の装置によって神に選ばれ、屍神を倒すことのできる神技を身につけるイベントのことである―


 誰が説明するわけでもないが、夢幻の脳内ではナレーションが鮮明に流れていた。


 ヘリで吊るされていた装置が地面に設置されそのまま準備が始まる。


「これから、君たちにはこの中に入ってもらいます!」


 神妙な面持ちで語る美佳みよしである。実のところこの装置、動物実験では一度も成功していなかった。普段は奇天烈なことを言う美佳であったがこの時ばかりは罪悪感があったのである。


「先輩、もしかして本当にこれを使うおつもりですか?」


 そんな罪悪感をさらに煽る美佳の後輩である矢板がいた。


「今まで成功していないのに、いきなりぶっつけ本番でできると思っているんですか?」


「いや、私だって申し訳ないと思っているんだけどさ、やっぱ総理のご命令で、こいつら好きにしていいって言ってたから」


 ※総理はそんなこと言ってません


「それ、絶対嘘ですよね! ここでうまく行かなかったらどうするおつもりですか!」


「失敗しても、今なら証拠あいつが消してくれそうじゃない?」


 三佳はブラック・オベリスクを指差す。


「何、失敗前提で言ってんの!」


 と、技術者同士のいざこざが生じているところにレイラが割り込む。


「あの、早くお願いできますか?」


 これに対してすぐに答えたのは矢板の方だった。


「君たち、断れるうちに断ってさっさと避難したほうがいいと思うよ」


「いえ、私はみんなのためなら戦いますよ。ね、夢幻!」


 目を輝かせるレイラ。


「だよね、夢幻!」


「もちろん!」


 そんなこと言われたら絶対に断れない夢幻であった。


「ただ、この装置には問題があってだね…」


「今まで一度も成功してないでしょ、わかってるって!」


「失敗するとゼリー状の謎生命体になっちゃって…」


「可哀想だから研究所で飼ってるんですよね。名前はジョン、ポロ、ミーヤ…」


 と、設定を語る二人。二人は自分で作った設定を語っているだけなのだが、そんな様子を見て矢板は背筋が凍った。誰かが国家機密をリークさせているのではないかと。この二人。思ったより闇が深いと感じたのである。


 逆に、美佳みよしは勢いづく。


「さすが統合作戦計画AIに選ばれた二人だな! ならさっさと覚醒させてやろう!」


 美佳が職員に向かって手を振ると始動準備が始まる。


(ワクワク!)


「じゃ、二人も中に入って」


 そうして、中に二人で入る。


「えっと、主任。二人同時ですか?」


「うん、時間ないし」


 実はこれも大事な設定であり、二人同時にこの装置に入ったことで、本来は一人に付与されるはずだった完璧な神技が二人に分裂して付与されて、夢幻には無限の能力が宿り、レイラにはゼロの能力が宿ったのである。


 二人で相談して決めた設定。忘れるはずがない。二人が待ちわびた日がようやく来るのだ。


「じゃぁ、準備して」


「心の準備はできてるぜ」


 と、興奮気味に答える夢幻だったが…。


「いやいや、二人とも服脱いで。これは、神聖な装置だから。裸で入ってくれる」


 何かしらの神事なので身を清めた状態でと言うのは理解ができた。しかし、ここで? 今レイラとほとんど体が密着するような状態だけど。真面目に言ってる?


「ここで脱ぐんですか?」


 設定にないことを言われ動揺する夢幻。レイラとは顔と顔がくっつきそうなほど近い距離。幼馴染だから昔から身近な存在ではあった。もうちょっと小さいころには風呂も一緒に入ったけど、今はそんなことできない。


 レイラも動揺しているのか、透き通った瞳が恥ずかしそうである。そんなレイラと見つめ合ったら、いよいよ心の準備なんて難しくなってしまう。


 密着しているのでレイラの柔らかい感触がはっきりと夢幻に伝わってくる。触れ合うお腹、絡み合う脚、それにいつの間にか成長している胸の膨らみ。こんなところで脱いだら…、夢幻は困り果てるのだった。


 しかし、一方でレイラはというと。


「わかりました脱げばいいんですね」


 と、あまり恥ずかしがっていない様子だった。ずっと仲良くやってきたけど、なんとなく男として意識されてない気がして悲しくなる夢幻。と言うことでモゾモゾとおとなしく服を脱ぐ。


「あ、変なところ触らないでよね」


(変なところってもうあっちこち触れてるけどね!)


 お互いに裸になったらいよいよ夢幻の夢幻がやばい! 服の上とはわけが違う。人肌の体温ってこんなに体に生々しい刺激を与えるものなのか! お腹とお腹、密着する太ももの感触。そして、生のレイラおっぱいの感触。そんなに大きくないけど、少しずつ膨らんできているなと思う。それを夢幻の胸板で直接触っている状況。


 夢幻は無限の神技を授かる前に、無限の興奮を抑えないとレイラに嫌われかねないと思うのだった。


「夢幻…、そのアレが当たってる…」


「ごめんなさい…生理現象なので許してください」


 そうしてチラリとレイラを見る。小さな覗き窓から入るわずかな光に照らされて浮かび上がるレイラの顔。普段はクールを気取ったレイラだけど、今だけは頬を真っ赤に染めているのがわかった。


「では神託を受けるがいい! 覚悟したまえ!」


 機械が不思議な光に包まれて、宇宙の真理、世界の全部、ゼロから無限大までのあらゆる事象を司る力が二人に入り込む。それを人間に与える。そうしなければ屍神は倒せないから!


 で、二人はこの時自分たちの作った設定を後悔する…。


 この儀式、めちゃくちゃ苦痛を伴う設定にした。そのほうがカッコいいと思っていたから…。


「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」


 と、狭い装置の中で二人の大絶叫が木魂こだまするのであった。

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