第6話:6日目~決意~

・6日目

 

 「では、予定通り明日廃棄処分を行っても構わないんだな」


 「……はい」


 今、私の目の前には、白衣を着た男女が2人いる。


 ヒューマノイドの制作や管理をしている人間だ。今では、もうほとんどいないらしい。


 女性の方は、何か言いたそうに私を見ている。


 「一応、明日が終わるまでが君の稼働時間だ。それまで、好きに過ごすといい」


 「はい…」


 「では、我々はこれで…」


 「私は、ちょっと残らせてもらってもいいか?」


 男性が帰ろうとすると、女性の方が残ると言い出した。


 「何かあるのか?」


 「ちょっとね。すぐ戻るから」


 「分かった」


 男性は納得し、一人で戻っていった。


 「何かあるのですか?」


 「貴方、本当にいいの?」


 また、このやり取りか…。ヒューマノイドでもうんざりする。


 「良いと言っています」


 「…ネリネは、やりたいこと見つけたんじゃないの?」


 「…!?」


 研究員がヒューマノイドを個体名で呼ぶのが珍しい事と、私がやりたいことを見つけたことを知っていることに驚いた。


 「何故…」


 「貴方の表情を見れば分かる。何か変化があったんでしょう?」


 「……はい」


 「ヒューマノイドにも命はあるわ。人に仕えるだけが存在理由じゃない。自分自身のことを見つめて」


 「…でも、私は記憶が無くなってしまいます。そうなれば、また同じことの繰り返し…」


 「そうね。そうなる可能性は高いかもしれない。でも、ヒューマノイドでも大事な記憶は蓄積していく。心に残るものよ。それに、必ずしも今の時間が消えるわけではないしね」


 「私は…」


 「貴方の感じたものを否定してあげないでネリネ」


 「何故、貴方はそこまで私を気にかけるのですか」


 「さあ、なんででしょうね」


 彼女は理由を言わずに、小屋を出て行った。



※※※


 「貴方がネリネを変えたのね」


 「まず聞くのがそれなのか」


 研究員が小屋を出た先に待っていたのはフェアだ。


 「変かしら?」


 「変だ。人間は俺たちを危険視し、敵視しているはずだ」


 「そうね。でも、貴方は悪い魔族なのかしら?私にはそうは見えないけど」


 本来、犬猿の仲である人と魔族だが、人格で判断しようとする人間は珍しい。


 「俺は、別に人間だからと言って襲う気はないが…」


 「でしょう?あの子と一緒に居るんだもの、きっといい人だわ」


 「あいつは、廃棄されるのか」


 「知ってるのね。あの子が”生きたい”と一言言ってくれればいいんだけど…」


 「お前は何故あいつを生かそうとする」


 「……私があの子の産みの親みたいなものだからかしら」


 つまり製作者と言う事だろう。


 「お前たちが一緒に居てやれば、あいつはこれからも生きていけるんじゃないのか?」


 「それは出来ないのよ」


 「何故だ」


 「あの子が私たちのところで、仕えるという選択肢はあるわ。ここで残ると言うことも。ただ、どれにしても、あの子が選択しなくてはいけないの。私が連れて行ったところであの子の選択ではないわ」


 「お前が揺さぶっていたことはいいのか?」


 「別に命令はしていないしね?」


 研究員は少し茶目っ気を含む言い方をした。


 「貴方にお願いがあるわ」


 「……なんだ」


 「あの子を救ってあげて」


 「無理だな」


 「そっか…」


 研究員は特に何も期待はしていなかったと言った感じで返事をした。


 「では、また明日に」



※※※


 「急だが、俺はここを離れようと思う」


 研究員が帰った後に、フェアは急にそんなことを言い出した。


 「ど、どうしてそんなことを言うのですか…まだ…」


 「少し用事が出来てな、お前にこれを渡しておく」


 フェアは、私に手紙を手渡してきた。


 「これは…」


 「後で見てくれ、それじゃあな」


 「あ、ま…まって」


 私の静止を聞かずにフェアは早々に出て行ってしまう。


 「どうして…」


 フェアが出ていくと、あれだけ暖かく感じていた小屋が急に温度が下がったような感じがする。


 しばらく呆然としていたが、フェアから貰った手紙を開く。


 『急な話ですまないが、私にもやりたいことが出来た。


 しばらく留守にすると思うが、また寄らせてもらおうと思う。その時は、またスー


プを作ってくれ、苦くないやつな。


 俺に目的を与えたんだ、次来た時、お前が俺のことを誰だと言ったら許さないから


な。


 それじゃあ、行ってくる。

                           ありがとう、ネリネ』


 「なんですか…それは…」


 なんて無責任なんだろう。


 なんて傲慢なんだろう。


 なんて……


 「いってらっしゃいませ、フェア…」


 フェアが何をしたいのかは、分からない。


 でも、彼がまた帰ってくると書いている。なら、帰ってこれる場所を守っておくことが、私の使命だ。


 「強引なんですから…」


 私は、強く意思を決めて、手紙を大事に棚にしまった。

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