第5話:5日目~選ぶ道~

・5日目


 「お前は、このままでいいのか」


 朝食が終わった後、開口一番にフェアが尋ねてきた。


 「何がですか?」


 「お前は、廃棄処分されるんだろう」


 「ああ、そのことですか」


 昨日、小屋の本を読んだのかと聞いてきたのは、あの手紙を見たんだろう。


 「フェアが気にすることではありませんよ?」


 私がそう言うと、少しムッとした様子で


 「仮にもお前に付き合わされている身なんだがな」


 「まあ…そうですね」


 「お前は、この先も生きていたいとは思わないのか」


 「ヒューマノイドとしての使命も果たさず、自分のやりたいこともなく、それで生きていると言えるのでしょうか?」


 「……」


 「私には、何もありません。やりたいことも使命も。私が起動してから、この時間が、唯一、私から起こした行動です」


 「なら、俺がずっと居たら、お前は…」


 「フェアは、私のために生きれるのですか?」


 「……」


 フェアは、即答はしない。


 それはそうだ、フェアにとって、私と生きても何の得もない。それに私は、ほとんどの記憶データが無くなるから、フェアのことを覚えていない可能性の方が高いのだ。


 「そうだな。俺にとって、これ以上生きていても、何の意味もない」


 「そうでしょうとも」


 そうだ。彼にとっては、私はただの迷惑な存在なのだから…。


 そう思うと、何故だか少し寂しい気持ちに追われた。


 「だが、お前にとっては、いい変化なのではないか?今まで、何もやりたいことがなかったお前が、自分から動いているんだ。だったら…」


 「おそらく、知っているとは思いますが、ヒューマノイドは、多少引き継げるとは言っても、ほとんどの記憶データを失います。果たして、次の私は、私なのでしょうか?」


 「だが、お前は2度ほど更新しているのだろう。何か残っていないのか?」


 「以前の私は、全て消去したうえで、更新しています。きっと、そういう事なのでしょう…」


 「なら、お前は…いや、もうこの話は良い」


 フェアは、納得できたのか、話を切り上げた。


 

 庭の手入れをしながら、さっきの話を思い出す。


 「私は…」


 私は、どうしたいのだろうか?


 -そんなの決まってる。データを引き継いだところで、ほとんど意味はない。


 今の時間は楽しくないのか?


 -楽しい。起動してから初めての感情ばかりだ。


 

 この時間がなくなってもいいのか?


 -嫌だ。これも初めての感情だ。これほど、大切だと思った時間もない。


 他人から見たら、何の変哲もない時間だと思うだろう。でも、私にとって、ただ一人の牢獄に居た私にとっては、変化をくれただけで、全く違う時間になった。


 だけど、更新したところで、記憶は持っていけない、フェアも居なくなる。


 そんな未来に価値はあるのだろうか…。


 ただ、更新しないと、すぐに断言してしまうのは、今の時間の価値を下げてしまうような気がしてしまって…。


 私は、答えのない思考のループに陥ってしまった。


 こんなことなら、ずっと一人で過ごしていた方が良かったのだろうか…。

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