第4話:4日目~心地よい時間~

・4日目


 私が目覚めると、フェアは、すでに本を読んでいて過ごしていた。


 「おはようございます」


 「おはよう」


 私は、その一言を貰っただけで、充足感に満たされた。


 

 「……」

 

 「どうしましたか?」


 朝食の場、フェアは苦い顔をしている。


 「なぜ、これが入っている」


 朝食に用意したスープに文句があるようだ。


 「山菜は栄養にいいんですよ?」


 「俺に栄養なぞ要らん。せめて食べやすいものを用意してくれ」


 実は、小さめに切って、入れていたのだが、気づかれてしまったようだ。


 「仕方ありませんね」


 私は、小さく笑って、フェアを見つめる。


 フェアは、文句を言いつつもしっかり完食したようだ。


 「馳走になった。ところで、お前は、ここに置いてある本には目を通しているのか?」


 「はい、目覚めたときに、一応目は通しています」


 「そうか」


 「何かありましたか?」


 「いや、知っているのであれば、それでいい」


 フェアは、本に書いてあることが何か気になったのだろうか。


 私も目を通しているはずだが、気になるような部分はなかったと思う。


 私は、気にしていても仕方ないと、1日の活動を始める。


~another side~

 

 あいつは、知っていたのか。

 

 もうすぐ、廃棄処分されることを…。


 とある本に手紙が挟まれていた。日付は3年程前だった。


 内容は、『個体名”ネリネ”は、ヒューマノイドとしての役割を全うしていない期間が、2世代続いている。次の更新までに、ヒューマノイドとしての使命を全うしないのであれば廃棄処分とする』


 ヒューマノイドの更新とは、人間が設定した、3年でデータがリセット、もしくは人格データを初期設定にしたうえでの、極1部の引継ぎのみ行うことだ。


 そして、ヒューマノイドの使命とは、次のヒューマノイドを作成しておくこと。これは、人間が自分たちの存在をいつまでも残したいというエゴの表れだ。


 あいつは、誰にも仕えていないことは明らかだし、後続を用意している様子もない。


 手紙は、3年前の事だったから、更新もそろそろだろう。


 何故、俺はあいつのことを心配しているんだ。


 さっさと機能停止してもらった方が、残りを静かに過ごせるというのに…。


 死を覚悟して思考がおかしくなってしまっただろうか。


 ああ、クソッ、イライラするな。


 あいつはどう考えているんだ。


 明日になったら問い詰めてやろう。


 俺は、あいつのやりたいことを手伝ってやっているのに、俺に何も言わずに、廃棄処分されるというのか。


 良く分からないが無性に腹が立った。


 久しぶりの感情だ。


 ただの気まぐれで付き合っているだけだったが、仲間を失ってから、感情が揺れたのは久しぶりなんだ。


 あいつは、時折、俺と同じような目をしていることがある。


 すべてを諦め、受け入れている目だ。


 特に出会ったときは、そういう目が多かったが、最近は、目に光がある時がある。


 主に俺に食事を作っている時だ。


 ヒューマノイドなのに、人間よりも魔族よりも生き生きしている瞬間がある。


 俺は、いつの間にか、そんなあいつに、興味を惹かれていたのだろうか。


 

 俺もやりたいことが出来たかもしれんな…。

 

 

 

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