第3話:3日目~動き始めた時間~

・3日目


 私は、今日も同じ時間に目覚める。

 本来、睡眠は必要ないのだが、人に近づけるために設定されているのだ。


 さて、今日もいつも通りの1日を…


 と思った時、リビングのテーブルに座っている人物が見えた。


 そうだ、今日からは一人ではないし、いつも通りではないんだ。


 私は、いつもと違う朝を迎え、少しウキウキとしていた。


 「おはようございます」

 「…ああ」


 私は、朝誰かに挨拶をすると言うことに感慨深いものを感じるとともに、一つの不満を覚えた。


 「朝は、おはようございます。ですよ?」

 彼は、とても渋々と言った感じで

 「……おはよう」

 と挨拶してくれた。


 「よくできました」

 

 

 朝食を用意し、食卓を囲む。

 私は、食べる必要が全くないので、眺めているだけだが。


 「どうですか?」


 「ああ、食べれなくはないな」


 何とも言えない感想だ。


「あなたは、どんなものが好きなんですか?」


 「今まで、食事をしてこなかったから、分からんな。ただ、この間の、草は嫌いだ」


 「草では、ありません。山菜です」


 苦みがあるものが苦手なのかもしれない。

 今度は甘いものを用意してみよう。


 「そう言えば、大事なことを聞き忘れていました」


 「なんだ?」


 「あなたのお名前です。私は、ネリネと言います」


 「フェアギス・マインニヒトと言う。長いから、フェアで構わん」

 

 「分かりました。それでは、フェアと…」

 何だろう、誰かの名前を呼ぶというのは…おかしな感じだ。


 「何をニヤニヤしている…」


 「?そんな顔をしていましたか?」

 

 「相変わらずおかしなヒューマノイドだ」


 フェアは皮肉の様に言ってくるが、誰かと会話があるという時間はいいものだ。


 私は、こんな時間を望んでいたんでしょうね…。



 朝食の時間を終えた後は、私はいつもの仕事をこなす。


 その間、フェアは小屋の中で時間を潰している。


 いくらか本が置いてあったりするので、ある程度の暇つぶしは出来るだろう。


 

 今日の分の山菜を採っていると、後ろから気配がした。


 振り向くとフェアが居た。


 「どうしたんですか?」


 「……それは要らんぞ」


 フェアは私の持っている山菜を見て言った。


 「……」

 フェアの言葉に返事を返せずにいると


 「それは、苦いんだ…」


 「分かりました。他のものも見繕っておきますね」


 「……頼む」


 私は、笑ってしまうのを抑えて返事をした。

 

 フェアは、本来食事をする必要がない。

 だから、嫌いなものがあるのならば、食べなくてもよいのだ。


 きっと、それでも食事をする前提で言ってくれるのは、私の存在理由のことを気にしてくれているのだろう。


 私は、不器用な優しさを感じて、身体の中心部が熱くなるような気がした。


 フェアは、それだけ言いたかったのか、少し顔を赤らめつつ、小屋に帰っていった。

 

 「ふふっ、おかしな人…」


 いつも来る小リスが、私たちの様子を首をかしげて見ていた。


 

 夕食の時間も済み、ゆったりとした時間が流れていた。


 フェアは、椅子に座って、本を読んでいる。


 私は、そんな様子を眺めている。


 「……俺を見ていて、面白いか?」


 「いえ、面白さはありませんが、珍しいので」

  

 「俺を珍獣のように…」


 私の言葉が適切でなかったのか、フェアは少し不機嫌そうな顔をした。


 「お前は、これで満足なのか?」


 「何がでしょう?」


 「俺が、ここにいるだけで、お前の目的は叶っているのか?」


 「……どうなのでしょうか。でも、フェアがここに来てくれたおかげで、今までの時間とは違う時間が過ごせていることは確かです。私は、その時の気持ちをもっと知りたいのかもしれません」


 「そうか」


 私の答えに満足したのか、それ以上問い詰められることはなかった。


 「逆にフェアは、どうして私に付き合ってくれているのですか?」


 「……お前が無理やり連れてきたのだろう」


 「ですが、もっと強く断ることも出来たと思います」


 「……さあな、ただの気まぐれだ」


 「そうですか」


 もしかしたら、本当に気まぐれかもしれないし、初めのことを気にしてかもしれない。何にしても、優しい人。


 最初で最期に出会えた人があなたみたいな魔族で良かった。



~another side~

 

 1日このおかしなヒューマノイドと過ごして、分かったことがある。


 こいつはおかしいと。


 特に何にも興味がないやつなのかと思ったら、自分の気持ちを確かめるために、俺に一緒に住めと言ってくる。


 そもそも魔族相手に、嫌悪を向けない相手など、魔族以外に見たことがない。


 こいつは、その感情を向けるどころか、俺を助けようとしたのだ。


 そして、日中は俺のために、せっせと肩ぐらいまでの水色の髪を揺らし、食事の際は、海の様な深い青色の瞳で見つめてくる。


 何なんだこいつは。


 俺は、気づかないうちに興味を惹かれていたのだろうか。


 この良く分からないヒューマノイドに。


 まあ、いい。


 こいつには恩もある。しばらくの間好きにさせてやろう。


 

 しかし、本を読んでいて気になったことがあったな…。あのヒューマノイドは知っているのだろうか…?


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