第53話 夢見心地
すみませーーん!! 遅れました!!
第53話です! 今回もキュンキュン爆発回! よろしくお願いします!
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「わ、私、レイン・ラストナイトとお申しまぁすっ! よ、よろしくお願いいたしまぁーすっ!!!!」
会場に轟く彼女の声。
耳を塞ぎたくなるほど大きな声だったが、意外にも震えていて、緊張が伝わってくる。
「2学期から学園には通うことになっております。ブリジットだけでなく、彼女とも仲良くさせていただければと存じます」
ラストナイト公爵に彼女の巨大な声に動揺する様子はなく、自然に紹介していた。
淡い桃色の髪に、赤い瞳。
軍にいた頃も、学園でも全く見たことのない容姿。
でも、この子、見たことがあるような………気のせいかしら?
尋ねる前に、ラストナイト公爵とレインさんは一礼して去っていた。
公爵は何かしら理由があったから、レインさんを養子として迎え入れたのだろう。
でも、その理由って何かしら?
もしかして、レインさんは公爵と愛人の間にできた子ども?
私のお父様のように、お母様だけを愛する人って貴族の中では少ないと聞く。
裏で愛人を作って、子どもができちゃったりすることもあるらしい。
だとしても、奥さんがいる状態で愛人の子なんて迎え入れるのかしら?
ブリジット様から離婚したなんて聞いてないし………。
そんなことを考えていたためか、次々にやってくる方の挨拶はほぼ聞き流し。
全く話が入ってこない。
結局自分の中で答えが見つからず、後で会場に来ているであろうブリジット様に聞くことにした。
そうして、流れるようにやってくる人々を対応し、疲れが見え始めた頃。
「セレナ! マナミ様! リアムさん! クライドまで!」
4人が私たちの所に揃ってやってきていた。
「2人とも婚約おめでとう」
「エレシュキガル、アーサー、おめでと」
「おめでとう」
「2人ともおめでとさん」
セレナたちもいつもの制服姿ではなく、パーティー服で。
セレナはスパンコールがちりばめられた紺のドレス、マナミ様は母国の伝統衣装の
また、マナミ様はいつものツインテールではなく、髪をまとめて後ろにお団子を作っていた。
みんな綺麗だわ………。
久しぶりの友人の再会とみんなの美しさに感動していると。
「私の国、おめでたいことがあったら、プレゼントする習慣があるから、2人にこれ上げる」
と、マナミ様がリボンが飾り付けられた箱を渡してくれた。
「開けてもいいですか?」
「もちろん」
リボンをほどき蓋を開けると、箱に入っていたのは2枚の板。
「それは映像保存できる魔法道具よ。映像保存した魔法石を後ろに組み込めば、表に表示させるようになってるの。あんたたちの思い出を飾るといいわ」
「ありがとうございます!」
「ありがとう、マナミ」
「どういたしまして」
「では、次は私とリアムから。花束をお送りいたしますわ」
そう言って、セレナから渡された花束。
私たちの瞳をイメージしたのだろうか、青や紫の花々で作られた可愛いブーケだった。
「とっても可愛いです。ありがとうございます」
「どういたしまして」
「お喜びいただけてよかったです」
「じゃあ、俺からはこれね」
最後にクライドから受け取ったのは小さな箱。
開けると、そこには水色と紫の魔法石が1つずつ入っていた。
「お姫さんから写真立てみたいなものもらっただろ? 使うには魔法石が必要みたいだから、俺からはその魔法石をプレゼント。色はあんたたちの目の色をイメージして選んだんだぜ」
「それはわざわざありがとうございます」
もしかして、マナミ様と打ち合わせでもしたのだろうか。
2人いつの間に仲良くなってたの………仲悪そうな感じだったのに。
意外な人間関係に驚きつつ、みんなで他愛のない話をしていると。
「ご婚約おめでとうございます、殿下、レイルロード様」
遅れてやってきたのは、凛々しいお声で挨拶を述べ、上品に礼をするブリジット様。
いつものぶっきらぼうな態度を想像させないその可憐さは、拍手を送りたくなるほど美しかった。
一緒にドレス選びに付き合ってくれた時に、購入していたおとぎ話登場するお姫様のようなピンクのドレスを着ていたこともあり、一層眩しく見える。
「改めて、エレシュキガル。婚約おめでと………そのドレス、似合ってるわ」
「ありがとうございます。ブリジット様のドレスもとってもお似合いで可愛いです」
「それは……どうも」
さっき紹介されたラストナイト公爵の養子レインさんについて聞きたい。
どうやら4人が最後の挨拶人だったらしく。
「アーサー様、少しブリジット様と2人で話してきてもいいですか?」
「うん、いってらっしゃい」
アーサー様に声をかけ、私は呼び止めたブリジット様の腕を取り、人がいないベランダへと出た。
突然のことではあったが、彼女は私の考えを察していたようで、文句一つ言わず来てくれた。
「それで、エレシュキガル。あなた十中八九あの子について聞きたいんでしょうけど、一応聞くわ。話って何? 手短に済ませてちょうだい」
「率直に聞きます。レインさんって、ラストナイト公爵の愛人の子なんですか?」
遠回しに聞いても、ブリジット様が呆れるだけ。
それを知っていた私は、前置きなしに尋ねる。
だが、ブリジット様はジト目。
「…………本当にストレートに聞くわね」
「はい。手短に、とおっしゃられましたので」
「…………」
すると、ブリジット様は顎に手を乗せ、首を傾げた。
「実は私もよく知らないの……少なくとも、愛人の子ではないわ。隣国にいた遠い親戚の子? らしいのだけれど、今日私も初めて会ったのよ。養子の話は、私がいない間にお父様が勝手に話を進めていたみたい」
「お母様は何もおっしゃらなかったんです?」
勝手に養子の話を進められたら、文句の1つぐらいありそうなものだけれど……。
しかし、ブリジット様は横に首を振った。
「それが……怒った様子もないし、むしろ機嫌がいい。怖いぐらいに上機嫌なの……」
違和感があったが、それ以上何かが分かるわけでもなく。
結局、ブリジット様が「あの子にきっと何かを期待しているんでしょうね。まぁ、お母様もご不満でないようだし、私としては自由に動けるからあの子がいても問題ないわ」と1人納得されていた。
家族のあり方もそれぞれ。
ブリジット様も気にしはしていないようだし、他人の私が口だしすることでもない。
ラストナイト家の養子については、私も深く考えないことにした。
★★★★★★★★
どのパーティーも主役が初めにダンスを披露する。
パーティー経験のない私でも知っていること。
挨拶や陛下のお言葉をいただいた後、私はアーサー様とともに部屋の中央へ立っていた。
少し離れたとことには私たちを囲んでいるパーティー参加者。
全員が私たちに注目していた。
私はアーサー様と向き合い、互いに一礼。
そして、左手を背中にまわし、右手をアーサー様の手と繋ぐ。
ダンスは練習したとはいえ、あまり自信はない。
緊張のせいか、手が震えてしまっていた。
「エレちゃん……」
アーサー様も気づいたのか、心配そうに私の名前を呼ぶ。
「大丈夫だよ、エレちゃん」
「もしこけちゃったら………」
台無しになってしまう。アーサー様の顔に泥を塗ってしまう。
「エレちゃんは僕とみっちり練習した。練習の時は完璧だったし、今日も大丈夫。もし、失敗してもフォローするから」
「……………」
「顔を上げて、エレちゃん」
言われて、俯けていた顔を上げると、アーサー様の水色の瞳と絡む。
彼は安心させるような微笑みを浮かべていた。
「楽しもう?」
「楽しむ、ですか…………」
「うん」
ふとアーサー様とダンスの練習をした時のことを思い出す。
最初はうまくいかなかった。
アーサー様の足を何度も踏んでしまったし、ステップだって何度間違えた。
でも、練習するたびに間違いも減り、優雅に踊れるようになった。
気づけば、楽しんでいる自分がいた。
「もし、周りの目が怖かったら、エレちゃんは僕の目だけを見ていて」
そうして、アーサー様が頷くと、音楽が始まり、私は練習通り右へ左へステップを踏む。
最初は緊張して、覚えたステップも飛びそうになった。
でも、徐々に慣れていき、アーサー様の動きに合わせて軽やかに踊れるようになっていく。
目の前のアーサー様も楽しそうで、口元は柔らかい弧を描いていた。
私も彼につられて笑う。
「アーサー様、楽しいです」
「ほんと? よかった」
「アーサー様はどうですか?」
「もちろん、エレちゃんと踊れて楽しいよ」
もう周囲の目なんて気にしていなかった。失敗なんて心配していなかった。
そこにいるのは、私とアーサー様の2人きり。
私たちは、自分たちだけの世界に夢中になっていた。
★★★★★★★★
ダンスを終え、私はアーサー様ともに、外の空気を吸いにバルコニーへと出ていた。
そこは私たちの専用になっているらしく、他に人はいない。
部屋の中から、聞こえてくるワルツの音楽。
星々が輝く夜空の下で、私とアーサー様の2人きり。
近くのテーブルに置かれた柔らかいランプもあり、幻想的な空間となっていた。
バルコニーに用意されていたソファに、私たちは腰を掛け、ずっと飲めていなかったので、お茶一杯をいただく。
隣を見ると、ランプの明かりで照らされるアーサー様。
ただただ座っているだけなのに、一枚の絵になってしまうほど美しい。
「夢みたいだな」
「夢、ですか?」
「うん。エレちゃんとこうして2人で過ごせるっていうのが、まだ夢見心地に感じるんだ」
遠くの夜空を見ながら話すアーサー様。
彼の瞳は星々のように煌めていた。
その美しさに見とれていると、彼はゆっくりを顔を向け笑い。
「エレちゃん、僕と婚約してくれてありがとう」
私を抱き寄せる。
体が密着し、アーサー様から甘い香りがして、くらくらと眩暈がしそうになる。
思えば、アーサー様から声を掛けられて、私たちは話すようになった。
彼が話しかけてくれなかったら、私たちはただのクラスメイト、軍人と王族という立場のままだった。
「こちらこそありがとうございます」
お礼を言うべきなのは私の方だ。
私に声をかけてくださったから、アーサー様が好きだと知れた。
「大好きです」
そうこぼすと、アーサー様は体を離した。
だけど、そのまま彼は私に顔を寄せてきて。
「!」
額にちゅっと唇を当てた。
今までアーサー様からされたことがなかった。
抱きしめられることはあっても、キスはなかった。
でも、今のはキスされた、よね?
頬でのキスはあったが、頭が理解した頃には心臓がばっくばく。
ドキドキと高鳴る胸の音がうるさい。
追い打ちをかけるように、アーサー様は優しく甘い声で。
「エレちゃん、おでこにキスしただけなのに、顔真っ赤。かわいいね」
「っ――――」
いたずらな笑みを浮かべて、からかってくる。
ただえさえ早鐘を打っていた脈はさらに速くなっていた。
「愛してるよ、エレシュキガル」
「わ、私も愛してます………」
なんとか振り絞って答えるが、頭はもうくらくら。
…………ああ、私、これからどうなってしまうのだろう?
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