第51話 瞳の色
「え、パーティーですか?」
それは突然の話だった。
その日は、ブリジットはマナミ様と魔力回復のできる料理研究を励んでおり、不在。
だから、今日は私とアーサー様の2人きり。
2人で午前の勉強した後、サロンでお茶をしている時にアーサー様が突然提案してきた。
「うん。パーティーといっても婚約祝いのパーティーだよ。本当は1学期終わりにする予定だったけれど、色々あって延期してできてなかったと思ってさ」
「なるほど」
確かにみんなが実家に帰る前に、王城でのパーティは予定されていた。
だが、ブリジットとの一件で延期。
私はてっきりこのまま中止になるのかと思っていたのだけれど、やっぱりすることになったらしい。
「でも、私たちが婚約してから、かなり経ちますが………」
婚約パーティー=婚約者お披露目会だと兄から聞いたことがある。
だが、私たちは婚約から時間も経ち、新聞でも私たちの婚約は掲載されているため、十分国民の皆さんに周知してもらったと思う。
別にしなくてもOKみたいな状況。
すると、アーサー様はニコリと微笑んだ。
「それは気にしなくていいよ。儀礼みたいなものだから、それにパーティは陛下もお望みだよ」
「そうなのですか」
陛下とは婚約した時以来会ってはいないが、お望みとあらばするしか選択はない。
うゔぅ………でもな、私そんなパーティーなんて出たことないのよね。
挨拶? ダンス?
正直言って、どれも自信ない。
どうか私にできること、決闘大会とか開いてくれないかしら。
「とっても楽しみだよ。ようやくエレちゃんのドレス姿が見られるから」
端正な顔で笑顔を見せながら、恐ろしくいい声で話すアーサー様。
キュートな笑みに思わず心臓が跳ねる。
「わ、私のドレス姿なんて、大したことありませんよ」
「そんなことないよ。いつものエレちゃんももちろん可愛いんだけど、ドレスも似合うと思う」
「そうでしょうか……」
「うん。絶対に似合うよ」
そうして、婚約パーティは夏休みが終わる2日前の開催に決定。
同時アーサー様から、私は招待状を出す仕事を頼まれた。
会場準備はアーサー様とリリィたちでするらしいので、心配しなくても大丈夫と丁寧に説明してくれた。
そうして、他愛のない話をしていると気が付けば、日が暮れそうになっていて、お茶会はお開き。アーサー様に見送ってもらい、私自室に戻った。
「どんなドレスにしよう………」
パーティやお茶会の経験がない私は、それが一番の悩み。
式に参加する時は全て軍服。
何も悩むことなく、参加できていた。
でも、アーサー様にはドレスが似合うなんて言われちゃったし、それで軍服を着るのも申し訳ない。
次の日、アーサー様が不在だったので、街へドレスを買いに出かけた。
婚約祝いパーティで着るドレスを買いたいことをブリジット様に説明すると、「私も今日は勉強する気がおきないし、ついていくわ」と話し、同行してくれることになった。
私1人では心配だったので、ブリジットがいるのは安心できる。
当然服のお店なんて知らない私は、彼女の案内を受けながら、ブティックへと向かった。
ブリジットに紹介されたそのブティックは、重厚感のある見た目からするに高級そうで。
出入りしている人も貴族ばかり。
「何、立ち止まってるの。行くわよ」
とブリジットに背中を押され、いざ入店。
そこには店員らしき美人なお姉さんが待っていた。
「ドレスを1着買いにきました」
「はぁ? 1着? 2着にしておきなさいよ」
お姉さんに買い物内容を話すと、隣のブリジットからつっこまれる。
なぜ2着も必要なんだろうと思い
「ほら、お色直しの時間があるでしょ。1着じゃもったいないわ。最低でも2着買いなさい」
「多少多く買っても問題ないでしょ。お金がないようなら、私が出すわ」
「それは申し訳ないです。お金は自分で出します。心配ありません」
「あ、そ。じゃあ、お姉さん、とりあえずこの子に似合いそうなドレスをありったけ持ってきてくれる?」
「承知いたしました」
お姉さんはブリジットの指示に他の店員さんとともに、何着ものドレスを持ってきた。
そこからの私は着せ替え人形。
着ては脱ぎ、着ては脱ぎ、その繰り返し。
最初は真剣に分析し、考えていたブリジットだが、途中で疲れたのか「もう好きなのを選びなさい。私、ちょっと休憩してくるわ」とどこかへ飛び出していった。
その後もお姉さんに色々勧められただが、結局私は。
「これとこれにします」
気に入った2着を選んでいた。
★★★★★★★★
雪のように真っ白なドレス。
胸や腰にある水色のリボンが映え、所々に入る銀の刺繍は、気品さを感じさせる。
その可愛いさに気分が上がり、姿見の前でクルクルと回ってみる。
私が私じゃないみたい――――。
そうして、着替え、メイクを終えると、シン兄様、お父様の3人で馬車で王城に向かった。
到着後、すぐに出迎えてくれたのはアーサー様。
今日の彼はいつものとは違うデザインの白の軍服を着ていた。
白のマントに、白のブーツ。
そのデザインは洗練されていて、気品さと高潔さを感じさせた。
「エレちゃん、綺麗だ」
「あ、ありがとうございます」
アーサー様の率直な感想に思わず顔が熱くなる。
でも、気づいてもらえてないかも。
そう思った私は。
「アーサー様の瞳が水色なので、その、あの、水色が入ったドレスにしてみたんです………」
と、このドレスを選んだ理由を口にしてみる。
だが、途中で恥ずかしくなり、声が小さくなって、顔を逸らしてしまった。
せっかくならアーサー様に喜んでもらえるようなドレスにしたいと思い、水色のリボンやレースが入った物を選んだのだけれど。
しかし、途端に本人を前にすると、恥ずかしい。説明するんじゃなかったと後悔の波が襲ってくる。
あまりの恥ずかしさに、俯く。
「本当だ。僕の目と同じ色……気づかなかった。僕としたことが……うん、可愛い。可愛いすぎて、誰にも見せたくないぐらい、似合ってるよ」
「ほ、本当ですか? き、気持ち悪いとかは……」
「まさか。パートナーのことを考えてドレスを選ぶなんて、これほど嬉しいことはないよ。それにしても、偶然だね」
「?」
首を傾げていると、眩しい笑顔を見せるアーサー様。
「僕もさ、エレちゃんの瞳の色を入れたって、紫のネクタイにしたんだよ」
「えっ」
改めて見ると、ネクタイは淡い菫色。白の軍服に所々入っている刺繍も紫だった。
アーサー様も私の目の色を意識して、この服を……?
それに気づいた途端、顔に熱が集まっていき、同時に胸に安心するような温かさを感じる。
私のことを思って、服を選んでくれた……嬉しい。
何より私と同じ考えだったことが嬉しい。
幸せだ。
「大好きだよ、エレちゃん」
「私も大好きです」
嬉しさのあまり、2人で笑い合っていると、いつのまにか背後にいたリリィに「時間です」と言われたので、会場となる部屋の前へと移動。
他の参加者はすでに入室。みんな私たちを待っている。
「じゃあ、行こうか」
「はい!」
元気よく返事をし、差し伸べられた彼の左手を取る。
会場へのドアが開かれ、私たちは煌びやかなパーティー会場へと向かった。
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