第50話 好敵手 後編

 今回は少し短め! よろしくお願いします! (`・ω・´)



 ――――――――




 「殿下のことが好きです」


 それは偶然だった。

 3人での勉強会後、一旦寮へ戻った私は、借りていた本の返却期限が過ぎていたことに気づき、借り直しに行こうと図書館に戻った。

 だが、その途中の回廊でブリジット様とアーサー様が話しているのを見つけ、先ほどのブリジットの告白が聞こえてきた。


 あの中を通っていく、そんな勇気はない。

 私は咄嗟に壁際に隠れていた。幸い2人には気づかれていない。

 

 このまま隠れて聞くのはまずいとは思った。

 でも、気になる。アーサー様がなんと答えるのか知りたい。

 悩みに悩んだ挙句、結局私は心中ブリジット様に謝りながら、2人の会話に耳を澄ましていた。


 「心の底から愛してます」


 ブリジット様のその声は真っすぐで、真剣そのもので。

 彼女が真面目に自分の気持ちを話しているんだと分かった。


 今のブリジット様は以前とは違う。


 口調が荒いとかぶっきらぼうなところはあるけれど、他の人をけなすとかそういった酷いことは全くしない。

 ブリジット様は力強く真っすぐ自分の道を進んでいる。

 外見は美人さんだし、男子からすれば、今の彼女は魅力的な女性となっていることだろう。


 そんな彼女から告白されれば、もしかしたら、アーサー様の気持ちも変わるかもしれない。たとえ、私たちが婚約していたとしてもだ。


 そう思うと…………アーサー様の返答が怖い。

 

 でも、その場からもう離れられない。

 彼の答えを聞きたい。


 私はぎゅっと目をつぶり、アーサー様の返答を待つ。


 「そう言ってもらえてうれしいよ、ブリジットさん」

 

 ようやく聞こえてきた彼の声は、思った以上に明るくて。


 「最近は勉強に熱心で、目標も掲げて、君は以前よりもずっと魅力的になった。そして、なにより話しやすくなった」


 ブリジット様の良いところを上げていくたびに、苦しくなっていく。

 恐怖が襲ってくる。

 

 「………でも、君の期待に答えれそうにない。この前も話した通り、僕が愛してるのはエレシュキガルだけなんだ」


 ………………。


 胸に広がる安心感と嬉しさ。

 先ほどとは違う、胸の高鳴りが聞こえていた。


 「ごめんね」

 「………いえ。私の身勝手な告白にお答えていただき、ありがとうございます」


 意外にもブリジット様の声にがっかりした様子はない。

 顔こそ見えないが、優しい笑みを浮かべているように感謝を述べた。


 「…………殿下。では、また明日図書館で」

 「うん。また明日」


 2人は何事もなかったかのように、挨拶を交わす。

 そして、アーサー様らしい足音は遠ざかっていった。

 だが、私はその後も動けずにいた。


 ………………ああ、そっか。ブリジット様は無理して笑ったんだわ。


 アーサー様がいなくなってブリジット様だけとなった回廊。

 そこにはブリジット様の小さな泣き声だけが響いていた。




 ★★★★★★★★



 

 「え。ブリジット様、それどうされたんですか?」

 「どうもこうもこの通りよ」


 次の日の朝。

 いつものように図書館の窓際の席に行くと、そこにいたのは短髪姿のブリジット様。

 綺麗に伸ばしていたあのピンク髪をバッサリ切ってしまっていた。


 なんで急に髪を切ったのだろう?


 ………………。


 「もしかして、失恋で………はっ」


 ブリジット様の短髪に動揺してしまった私は、思わず口に出してしまってて。

 だが、それに気づいてしまった時には遅い。

 案の定、ブリジット様からきつく睨まれていた。


 「は? あなた、昨日の見ていたの? 趣味悪いわ」

 「す、すみません。偶然通りかかったもので………」


 だが、それ以上彼女が問い詰めることはなく。

 深い溜息をつき、席に着き直していた。


 「まぁ、いいわ。あなたへの説明が省けるし……………まぁ、つまり、この髪型は私なりのけじめよ」

 「な、なるほど………」


 恋愛小説で失恋した女性が髪を切る、というのは知っていたのだが、それを実際にする方は初めて見た。

 でも、やっぱりそれだけショックだったってことよね………。


 と心配に思っていると、彼女は目を細めて、さらに嫌そうな顔を見せてきた。


 「ああ、私をかわいそうだななんて思わないでよ? ただ私は殿下とは縁がなかっただけ………ええ、それだけよ? 私はこれから殿下以上にかっこいい男性と出会うのだし、あなたたちが嫉妬するぐらい幸せになるの。絶対にあなたたち以上に幸せになってみせる」


 生き生きとしていた熱のある瞳で、強く語るブリジット様。

 差し込む朝日もあってか、彼女は輝いていた。


 なるほど、ブリジット様は私以上に幸せになることが目標なのか。

 いい目標をお持ちだ。


 「ということは……私はブリジット様の人生のライバルになりますね」


 私を基準に目標を考えるのであれば、私はブリジット様の競い相手だし、幸せは一生追いかけていけることを考えると、人生の好敵手ライバルと考えられなくもない。

 そう言って見せると、少しだけ口角を上げるブリジット様。


 「フンっ、お友達でもライバルでも好きにすればいいわ…………ああ、でも、これ以上敬称をつけて呼ぶのは止めて。堅苦しいし、別にあなたと私は上下関係もなにもないんだから、敬称なんて必要ないわ。次から“ブリジット”と呼ぶように」


 その返事は相変わらず回りくどいもの。

 でも、私には分かった。

 ブリジット様が友人としてライバルとして、私を認めてくれたのだと。


 「では、ブリジット・・・・・。これからもよろしくお願いします」

 

 ぶっきらぼうに鼻を鳴らし顔を横に向けるブリジット。

 その横顔には隠し切れない笑みが漏れていた。

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