第11話 再会(アーサー視点)

 お母様のこともあり、僕は軍に戻るのは止めた。

 でも、エレシュキガルを忘れることはできない。

 エレシュキガル……エレちゃんと一緒にいたい。

 

 だから、僕は約束通り彼女と結婚できないか、模索し始めた。


 だが、時すでに遅し。

 エレちゃんはすでに婚約していた。

 親の取り決めか知らないが、伯爵家の男と婚約していた。


 それを知った時の僕は大ショック。

 ショックすぎて、しゃべれなくなりそうになった。

 あまりにも心配した執事たちが、大好物のものを用意してくれたが、それでも何も喉に通らなかった。

 それぐらいダメージがあった。


 ああ、こんなことなら、戦いの前に婚約を申し込んでいればよかった。

 後悔したところで遅いのは分かっている。

 婚約相手をどうにかするという手段も考えついたが、エレちゃんはいいと思わないだろう。


 でも、エレちゃんに会いたい。

 ちょっとだけでもいいから、一言二言会話するだけでもいいから会いたい。

 

 悩みに悩んだ末、僕は様々なお茶会に参加するようになった。

 目的はエレちゃん。

 彼女に会えないかと思って、参加していた。


 だが、お茶会にエレちゃんの姿はない。

 ずっと軍にいるのか、お茶会に顔を出すことはなかった。


 エレちゃんはどうしているのか気になった僕は、王城によく訪れるエレちゃんの兄シン・レイルロードに尋ねることにした。


 「エレシュキガル?」

 「ああ、彼女は学園には来ないの?」

 「うーん。どうだろうね」


 そう呟くと、シンは空を見上げる。

 風が吹き、エレちゃんと同じ銀髪が揺れていた。


 「エレは戦場にいたがってるからね……父様が戻ってこいと言っても、戻ってくることは一切ないし、逆に用事があるなら軍まで来てという感じだからねぇ」

 「……そっか」


 それもそうか。

 エレちゃんが軍にいるのはお母様の復讐のため。

 それに集中している以上、他のことなんてどうでもいいだろう。


 なら、帰ってくる暇も学園に通う暇もないだろうな。

 どうにかして学園に来てもらう……いや、無理矢理はよくないだろう……。


 なら、いっそのこと僕が軍に行くのは?

 

 昔みたいに、力がないということもない。

 今ならお母様も許可してくれるはず。


 すると、シンは僕の顔をまじまじと見ていることに気づいた。


 「シン、ニヤニヤしてるけど……なに?」

 「いやぁ~、もしかして、アーサーはエレに学園に来てほしいのかな~?と思ってさ」

 「…………」

 「君、エレと会ったことないよね? どこかで見かけた?」

 「会ったことはあるし、話したこともあるよ」

 「そうなの? それは知らなかった。いつ会ったのさ」

 「それは……」


 シンに、ルイ・ノースとして軍に入っていたこと、そこでエレシュキガルに会ったことを説明した。

 すると、彼は興味深そうに「はは~ん」と声を漏らす。


 「なるほど、“軍で”ね。そこでアーサーは俺の妹に惚れたと」

 「そうだよ」


 真剣に答えると、シンはふひっと笑った。


 「うんうん、惚れるのも間違いない。なんてたって、俺の妹は世界一可愛いからね!」


 確かにエレちゃんが世界一可愛いのはうなずける。

 あんなに可愛い人は世界中のどこを探してもいないだろう。


 「でも、どうするのさ。今のエレは、伯爵家の子と婚約してるよ」 

 「知ってる」


 そこはどうにかして……。

 とは思っているものの、正直どうしたらいいのかは分からない。

 考え込んで黙っていると、シンは僕の肩をパンパン叩いてきた。

 

 「うんうん。分かった」

 「え? 分かったって、何が?」

 「俺がすべきことさ」


 シンはニコリと笑みを浮かべ、人差し指を自分の口に近づける。

 どこか楽しそうだった。

 エレちゃんはとても冷静だけど、シンはありえないぐらい陽気な人。

 たまに本当に兄なのか疑いたくなる。


 「よぉし! 珍しいアーサーの願いだ。せっかくだから、俺が叶えてあげよう」


 ウキウキなシンはそう言って、「チャオー!」と去っていった。

 すべきことが分かったとか言っていたけど、彼は一体何をするつもりなのだろう……。




 ★★★★★★★★




 時は過ぎて、学園入学当日。

 エレちゃんがいないのなら、学園に通わなくてもいいかなと考えていたが、シンに通えと言われたので、僕は通うことにした。


 正直不満はある。

 シンは通えと言ってくる理由を一切教えてくれないし、通ったところでエレシュキガルがいないのは分かりきっていること。

 全くエレちゃんがいない学園に、なぜ通わないといけないのか……。

 と憂鬱ながらに教室に向かったのだが。


 「なっ」


 教室に入ったとたん、僕は思わず声を漏らしてしまった。

 すぐに目に入ったのは艶やかな銀髪。

 背筋をピンと伸ばしている後ろ姿。

 

 なぜエレちゃんがここに……。


 教室の一番前に座っていたのは、あのエレちゃんだった。

 信じられなくて、何度も目をこすって、確認した。

 でも、確かに彼女が教室にいた。


 え? うそ?

 まさかシンが連れてきたのか? 

 この前、『俺が叶えてあげよう』とか言ってたけど、まさかエレちゃんを学園に通わせてくれるなんて。


 シン…………グッジョブ。

 

 僕は心の中でガッツポーズしつつ、エレちゃんの姿が見える少し離れた席に座る。

 戦場で別れてから時間は経っているけど、エレちゃんは変わらず本当に可愛い。


 ああ……なぜあんなに可愛いのだろうか。

 彼女は出会った時から美しかった。

 が、成長して一層美人さんになっていた。


 でも、僕は彼女に話かけることはなかった。


 本当は話したかった。

 ルイのことを覚えているか、とか。

 そのルイは僕なんだってこと、とか。


 だが、今の彼女に、僕が何も理由なしに話しかければ、変な噂がたってしまう。

 それはエレちゃんに迷惑をかけるだけ。

 彼女の迷惑になるようなことはしたくない。


 だから、ずっと我慢していた。

 彼女をただ遠目で見守るだけだった。

 でも、入学して1ヶ月。


 「エレシュキガル・レイルロード! お前との婚約を破棄する!」

 「え?」


 遠くから聞こえてきた男の声。

 その男の前には僕の愛するエレちゃんがいた。

 なんとエレちゃんは婚約破棄されていた。 


 あのままあの男と結婚するかもしれないと心配だった。

 だから、奇跡だと思った。


 エレちゃんに婚約者がいなくなった今、僕に障害はなくなった。

 僕は教室に戻る前に、リアムにエレちゃんが戦場で出会った天使だと話した。

 すると、意外だったのか、リアムは驚きの声を漏らしていた。


 「はぁ、そうだったのですか。まさかお相手がレイルロード嬢とは……となると、あなたは今から……」

 「うん。話しかけてくる」


 やっとだ。

 これで、やっとエレちゃんと話せる。


 昼食後、僕は教室に戻ると、真っ先に彼女の所へと向かった。

 1人で席につく銀髪の少女。

 幸いにも彼女の周囲には誰も座っていなかった。


 真面目なエレちゃんはというと、昼休みにもかかわらず集中して教科書を読んでいた。


 ああ……かわいい。


 エレちゃん、本当にかわいい。

 彼女と2年ぶりに話せるんだ。


 ああ……抱きしめたいよ。かわいいよ。愛してる。


 そうして、抱きしめたい気持ちをぐっとこらえて、僕は彼女に話しかけた。


 「勝利の銀魔女さん、こんにちは」

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