第4話 似ているかも?
目を覚ました私はゆっくりと上体を起こす。
窓を見ると、外はまだ暗く、日は昇っていなかった。
ベッドわきのナイトテーブルにある時計を見ると、短針の先はまだ5時を指している。
さっきの夢は、まるで時間が戻ったような綺麗な夢だった。
夢なんて最近はずっと見ていなかったのに、あんな鮮明な夢を見るなんて珍しい。
しかもルイが出てくる夢。
学園に来てから、夢で彼と会うことはなかったのに。
夢の中のルイは本当に生きているみたいだった。
あの夢は実際に起きたことだから、当たり前といえば当たり前なのだろうけど。
…………もし彼が生きていたのなら、今頃は私よりも大きくなっていただろう。
でも、彼はいない。
この世にはいない。
気づけば、涙を流していた。
泣いたって意味はない。
いくら願ったって、彼は生き返ってくれない。
だから、彼の分まで戦う。
魔王を倒して、母とルイの仇を取る。
私は涙をぬぐい、ベッドから降りる。
顔を洗って支度をし、寮を出て、食堂へと向かった。
食堂ではまだ日が出ていないせいか生徒の姿は見当たらない。
しかし、料理を用意してくれるシェフやご婦人方はすでにいらっしゃる。
ご婦人方には「あなた、今日も早いわね」と言われたが、お互い様だと思う。
彼女たちの方が朝は早いだろうに。
そんなご婦人方に感謝しながら、朝食をいただき、食べ終わるとご婦人方にお礼をいって、教室に移動。
そして、席を確保。
私たちの教室は前の机から段々と上に上がっていく、階段状の教室となっている。
前の席の方が黒板が見やすく、先生にも質問しやすい。
だから、前に座りたい気持ちはある。
しかし、前にいると、誹謗中傷はもちろん、背後から物を投げられることがある。
初めて紙屑を投げられた時には手榴弾かと思って、思わず紙屑を投げ返してしまった。
先生には驚かれたし、周りには笑われた。
だから、そんなことがないよう、私はできる限り一番後ろの席に座る。
悪口の声も聴きたくないので、入り口近くではなく、人があまり通らない左の窓際。
私はその一番後ろの窓際の席につく。
授業開始までかなり時間があるため、予習を始めた。
これが朝の日課。
用事があれば異なることもあるが、基本朝はこんな感じだ。
来た時点での教室は誰もいないため、とても静か。
昇ってきた日の光が教室に入り、小鳥のさえずりが聞こえてくる。
この状態の教室が一番落ち着く。
だが、1時間後ぐらいから徐々に人がやってきて、騒がしくなっていく。
そして。
「また、あの女教科書とにらめっこしてる」
「しゃべる相手がいないのよ。かわいそー」
そんな声が聞こえてくる。
だから、私はできるだけ外の声をシャットアウト。
教科書を読むことに集中する。
あの子たちの声は雑音と思えばいい。
予習に集中だ。
――――だけど、嫌な声がピタリと止む瞬間がある。
ある瞬間から、嫌な声が突然死したかのように消える。
誹謗する声が聞こえなくなったので、ちらりと後ろを見た。
すると、教室の後ろのドア近くにいたのは金髪のあの王子。
今日も友人のウィリアムさんと一緒のようだ。
だが、私はすぐに教科書に目を戻す。
周りを気にしている場合じゃない。
嫌な声があろうがなかろうが関係ない。
目標のところまで読めてないから、早く読まないと、予定が狂ってしまう。
そうして、私は教科書を読み進めていると。
「おはよう、エレシュキガルさん」
隣からそんな声が聞こえてきた。
顔を上げると、隣に立っていたのはアーサー王子。
彼は優しい微笑みを浮かべていた。
「おはようございます、殿下」
「今日も隣いいかな? 先約とかいない?」
「はい、構いません。誰も座る予定はないです」
断る理由もないので、私は了承する。
アーサー王子は「ありがとう」と言って、私の隣に座った。
彼の右隣にはウィリアムさんもいた。
…………うーん、不思議だ。
他の席もあるのに、アーサー王子はわざわざ私の隣に座ろうとするだなんて。
すると、アーサー王子はキョロキョロとあたりを見渡し。
「今日は筆箱、盗まれていない?」
と小さな声で聞いてきた。
思いがけない質問に、私は一瞬驚いた。
そんなことを聞いてきた人は誰一人としていなかったから。
「はい、朝なので。この通り私の筆箱はあります」
「そっか、よかった」
王子は安心したように微笑む。
まるで自分のことのように安堵していた。
なぜ王子が私の筆箱の心配を……?
もしや、学園内での盗みが気になったのだろうか。
まぁ、確かに盗みは普通に犯罪になるから、王子が気になるのも当たり前か。
私は教科書に目を戻す。
が、隣から強烈な視線を感じた。
一時気づかない振りをしていたが、私はしびれを切らし、彼に話しかけた。
「殿下、何か用ですか?」
「いや、エレシュキガルさんがとっても綺麗だからみとれちゃって」
「…………」
私が綺麗?
何かの冗談だろうか。
兄様から「エレシュキガルは綺麗だね」と言われるが、それは兄様がとっても優しいから。
実際に綺麗な人と比べれば、私は塵にしか見えないだろう。
それに周囲の人たちが言うように、私は醜い。
なのに、王子が私のことを『綺麗』だと言うのは、兄様と同じように彼が優しい人だからなのだろう。つまり、お世辞だ。
私もアーサー王子を見る。
彼の髪は絹のようにサラサラな金色の髪。
宝石が埋め込まれているようなエメラルドの瞳。
しゅっとした輪郭と高い鼻。
彼の方が綺麗だった。美しかった。
「殿下の方がお美しいですよ」
そう返すと、アーサー王子はなぜかフリーズ。
素直に思ったことを言っただけなのに、なぜ困った顔をするのだろう。
もしや、失礼なことを言ってしまっただろうか。
「……エレシュキガルさん、イケメンだね」
「そうですか?」
私は男じゃないし、かっこよくもないから、イケメンではないと思う。
が、王子がイケメンというのならイケメンではあるのかもしれない。
それにしても、こうして間近でみると、王子はルイと外見が似ている。
金髪に水色の瞳の男性はたくさんいるだろうが、どこか似ているように感じた。
だが、ルイは庶民の人間と言っていたし、彼はもう死んでいる。
それに王子が戦場に行くはずもないから、ルイが王子と同一人物ということはありえない。
でも、アーサー王子とルイはとても似ている。
ルイが成長していれば、アーサー王子と瓜二つの人間になっていたのかもしれない。
もしかして、ルイは王族の血を持ってて、王室を離脱した方のお子さんだったとか?
それならあり得る話だ。
「エレシュキガルさんは今日も予習しているの?」
「はい」
「予習していた方が授業は理解しやすい?」
「私は理解しやすいです。私はそこまで理解力があるわけではないので」
その後も王子は私に話しかけてきた。
授業中、授業間の休み時間、昼休み。
ことあるごとに話しかけられた。
昼休みには彼から「昼食一緒にどうかな?」とまで誘われた。
最初は断ることも考えたが、断る理由もないので了承。
私はアーサー王子、ウィリアムさんとともに食堂へと向かう。
その時に集まる周りの視線はいつもと違った。
私に向けられる視線はいつも鋭い。みんなが睨んでくることが普通だった。
だが、アーサー王子といる時のそれは痛々しくない。むしろ眩しかった。
こちらに視線を向ける全員がキラキラを目を輝かせていた。
ああ……これが王族というものなのか。
と隣の王子を見て、私は一人感心していた。
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