第91話 そこにいたのは。
———葵の家。
「今、花田菜月がしようとしているのは…。それは犯罪だよ…」
「菜月ちゃん…。ケホッ…!」
まだ体の調子が悪いのに…。お母さんを花田菜月がいる場所まで連れて行ってもいいのかな…? 仕事のせいで、どんどん体調が崩れて…今はほとんどの時間を部屋で過ごしているお母さんだから…。無理をさせたくなかった。
私もできれば一人でやりたかったけど、それも無理だよね…。
「お母さん、タクシー呼ぶから!」
「いいよ。車を出すからね」
「いや…。大丈夫? 体がまだ…」
「ずっと、こんなことしかできなかったからね。お母さんは…」
間に合ったらいいけど、どうなるのか私にも分からない。
「全部お母さんのせい…。あの時…、もっと慎重に考えるべきだったのに…」
「連絡とかできないの…? 私の電話はいつも無視されるから…」
「電話…」
出発する前のお母さんは、花田菜月に電話をかけた。
そして電話に出る花田菜月に二人はびっくりしてしまう。
「菜月ちゃん…?」
「……」
そばで二人の話を聞こうとしたけど、花田菜月は何も言わなかった。
「菜月ちゃん…、ごめんね。何もやってあげられなくて…」
「……」
「今、そこに行くから…。お母さんと久しぶりに話をしよう…」
「……」
何も言わず、そのまま電話を切る花田菜月に、お母さんは静かに涙を流していた。
余計なことを言わなかった方がよかったのかな…? 心配するお母さんの顔が苦しすぎて見ていられない。家族だった時間を忘れたら、その痛みも消えるのに…。お母さんにそんなことができるわけないよね…? 自分が産んだ子供だかたら…。
「お母さん…」
「行こう…。菜月ちゃんがいる場所に」
「うん…」
……
私にはお母さんが何を抱えていたのか、分からなかった…。
お母さんが教えてくれなかったのもあったけど、私は私のことを優先して…。それが当然だと思って、ずっと周りのことから目を逸らしていた。まだ子供だったから、普通っていうのが欲しかったの…。花田菜月は何をしても完璧にこなす人だから、私はずっとあのすごい人と比べられて…何をやっても届かない場所に花田菜月がいた。
でも、実は花田菜月もそれなりに頑張ってたんじゃないのかなと思ってしまう。
私が知らない何かのために、それなりに頑張ってたかもしれない。
「……葵ちゃんは、葵ちゃんだけはあの子と仲良くなってほしかった…」
「うん…」
「多分、お母さんが電話をかけても何も話したくないはず。そんな風に、菜月ちゃんを家に置いてきたから…」
「お母さん…」
「……」
「そうだとしても、花田菜月は会ってくれると思う…。お母さんだから…」
「うん…」
お母さんの病気が進むのは私も苦しい…。
だから、そこにいて…花田菜月。
「……あれ?」
そして花田菜月が住んでいるマンションに向かう時、楓先輩から電話が来た。
「もしもし…?」
「葵ちゃんの話通り…、そこに尚がいるかもしれない…」
「せ、先輩? 声がちょっと…。今どこですか?」
「よく分からないけど、橋の下に捨てられて…今〇〇駅にいる」
「はい…」
そこに尚くんがいるかもしれないってことは、花田菜月が尚くんを監禁したってこと。どうして、そこまで執着するのよ…。私には理解できない。人を傷つけるのが本当の恋のためだと、花田菜月はそう思っている。自分がやっているのは正しいこと、自分を逆らうのは正しくないこと。YES OR NO。そんなのはもうやめてほしい…。
「……」
そんな風になっちゃったのも…。
全部、お母さんのせいってこと…?
違う…。環境が人を作るって言葉はあるけど、うちの環境はそんなに悪くなかったはず。特に花田菜月はずっとお父さんに褒められたから、いくらお母さんが愛情を上げなかったとしても…。お父さんから褒め言葉、言われたんでしょう? 周りからいつもチヤホヤされたんでしょう…? 何が、お姉さんをそうさせたの…?
「お母さん、ちょっと〇〇駅によってもいい?」
「うん?」
「ある先輩と一緒に行くことにしたの」
「分かった…」
尚くん…。
私は尚くんを助けるから、そこで待っててね…。
負けないで、しっかりして…。そこで耐えて…今すぐ行くから…!
……
「菜月ちゃんのマンションって…、ここかな?」
「いいえ。もうちょっと奥の方にあります!」
3人で、花田菜月のマンションに向かっていた。
そして楓先輩が花田菜月とあったことを話した時、私は尚くんがすでに危険な状態になっていることを確信した。それに先輩がわけ分からない衝撃に倒れて、橋の下に捨てられたのも。尚くんに近づいた先輩を排除するため…。スタンガンと、あの人かな…。そんな汚いことまでして、どうするつもりなの…? そこまでして、周りの人を排除する必要があるの? 私には分からないことばかりだよ…。花田菜月…。
「あそこです!」
「ちょっと待って、今あのマンションから車が出てるけど?」
「そうよね…。あれ? あの車は?」
「どうしたの? お母さん」
「あの車、菜月ちゃんの車かもしれない!」
「えっ? 本当? どこに行くの…?」
そして、私は先のことを思い出した。
「お母さんの電話だよ! そこに行くって話したから…!」
「あっ…!」
「急いでください! あの車の中には尚もいるはずです!」
「分かった…!」
どうするつもりなの…? 一体…。
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